山田線

 盛岡での乗り継ぎは1時間弱。冷麺でも、というのは前にやった事がある。わんこそば、ってのはいくらなんでも無謀だし。さてと思ったら盛岡三大麺なる売り文句が目に入る。「わんこそば」「冷麺」「じゃじゃ麺」だとか。じゃじゃ麺?、ジャージャー麺じゃないのか。とりあえず手を出してみる。うどんのような麺に錦糸玉子やキュウリといった具が乗っかり、辛子味噌のようなたれが乗る。うんとかき混ぜて食べるのだとか。食欲は進むけど、わざわざ食べに来るものでもないなぁ。\550。
 ちょっと早いけどホームに出る。列車はまだいない。工事中のせいかもしれないけど、売店や立ち食い蕎麦やらの類がすべて無くなっている。新幹線が盛岡までで、ここから在来線に乗り換えていた頃には考えも付かないほど閑散としている。暑さも相当なもので時間をつぶせない、改札の外にいったん避難した。
 ころあいを見計らって再度改札をくぐる。こんどは列車が入線している。キハ58とキハ52。番号を見ると見覚えがある。この列車、さっき大館から来た列車じゃん、キハ52を1両切り離しているけど、間違いない。大館で発車を待っていると打って変わってとんでもない暑さ。温度計を確認したら34℃だった。暑いはずだわ。乗客は1ボックスに1グループぐらい。一日4往復ぐらいしかない列車の一番列車だし、このぐらい乗っていないとどうしようもない、と考えるか、それともあてにしようが無い列車の割には良く乗っている、と考えるか。前のキハ58は比較的込んでおり、後ろのキハ52は比較的空いている。空いているほうが望ましいけれど、先ほどキハ52に乗ったので今度はキハ58を選ぶ。
 発車前のアナウンスで「この先山間区間では、木の枝葉などが窓から入ってくることがありますので窓をおかけになる際はご注意下さい。」なんて放送が入る。他の路線では聞いたことがない案内だけど。そんな事って普通、あるんかいな。
 列車が発車する、上米内までは盛岡市街地という位置づけか、区間運転もある。実際には上盛岡までは市街地だけどそこから先は普通の田舎。頻繁運転すれば客がつくかどうか、難しいんだろうなぁ。
 上米内で上り列車と交換。向こうも同じく2両編成で、1ボックスに1グループというこちらと同じような乗り具合。
 上米内を出ると激しい田舎に突っ込むようだ。上米内を出てまもなく、車窓に見えた道路看板。右折大志田駅、って10キロ先じゃないですか。この細い道しかないのかよ。
 区界までの約30分は何も無い山の中をひたすら走り抜ける。トンネルに入るととんでもない冷気が窓から入ってくる。寒いぐらいだ。時折ピシッと音がする。なるほど、枝葉が車体を叩き付けている。窓から顔や手を出すのは冗談抜きで危ない様子。思い出した頃に駅を通過する。あたりは本当に何も無く、駅自体、ホームひとつだけだから、反対側に座っていると気づかないぐらい。延々と響くエンジン音。冷房の無い車内、大きく開け放つ窓。20年以上前のような旅のスタイルがそのまま残る様子は教習を通り越して新鮮。
 ようやく駅に止まる。区界。久しぶりに人家を見たような気がする。数人が降りていったようだ。ここから先は国道沿いになって、時折人家も見られるようになる。ひとつトンネルをくぐる度にトンネルの冷気も少しつづ柔らかくなって行くようだ。宮古が間近に迫ると市街地が広がり、二時間ぶりの市街地なものだからものすごい都会に来たような気分になった。宮古は盛岡よりも多少涼しいような気がする。