【今日の駅弁】熊笹寿司 ¥880 旭川駅立売株式会社 


道内産の食材で固めたという押し寿司を頂く。寿司を包む熊笹も道内産、歌登のものだそうだ。

海の幸に山の幸が加勢して総勢5個。一口で食べるにはちょっと大きい。おおよそ二口と言った所で、気の利いたおにぎりを三つかそこいら食べるような感覚。本格的な食事とするには少々寂しいがちょっとした食事には最適だ。

お弁当も頂いたのでホームに戻る。今度乗る列車は宗谷本線の快速名寄行き。まだ列車は現れていない。数人のお客さんが列車の到着を待っているところだった。

20分ほど前になって稚内方からキハ40系の気動車が入ってくる。快速だが1両編成。そして非冷房車だ。

乗り込むと窓は丁寧に閉められており、扇風機も止まっている。さすがにそれでは暑いので、座った座席の近く、窓を開ける。北海道の車両は冬の寒さに備えて二重窓になっているけど、さすがに夏の季節、内側の窓は開いている。窓を開けると多少涼しい風が流れる。手近な扇風機を廻すとそれなりに過ごせるようになる。
列車がホームに横付けになった時はそれなりに空いていたが、だんだんとお客さんが増えてくる。ボックスが全て埋まり、相席になる。発車間際にはデッキに立つ事を選ぶ人も増えて、かなりの盛況となった。 

定刻11:07に出発。高架の上。旭川市内を眺めつつ列車は軽々と走ってゆく。快速列車なので市内に設けられた小駅は通過。北見、網走へと延びる石北線との分岐点、新旭川も通過。郊外の様相を呈してきた永山で最初の停車となる。ここまでのお客さんも居て早速降りる人たちがいる。乗って来る人も居るから人の流れは単純ではない。

列車が泊まった目の前が跨線橋。半分塞がっているのは冬の寒さ対策だろうか。他の地方では見た記憶がない。
列車は空知盆地を北に向けて、颯爽と走ってゆく。

いつの間にか青空が広がっている。実に夏らしい光景が流れてゆく。青い空に白い雲。その下に広がる緑の台地。北の大地が短い夏を何の憂いも無く謳歌する。そして爽やかな風を一身に受けながらさらに北を目指す短い汽車。汽車なんて言葉を持ち出したくなるような、昔ながらの鉄道情景。
外に見えていた田園が姿を消す。山が迫って畑に変わると汽車の脚は目だって鈍る。小説の舞台にもなった塩狩峠に差し掛かったのだ。余りに遅いのでキロポストで速度をチェックしてみた。時速40km/hも出ていない。非力なキハ40の限界であるらしい。

およそ人の営みが感じられない峠道。そんな登った訳ではないだろうが白樺の木が目立つようになり高原の装いとなる。そんな登り坂が5分10分続くと不意にエンジンの音が軽くなった。塩狩の駅がゆっくり流れてゆく。「塩狩峠」の碑。三浦綾子旧別荘なんて案内板。塩狩峠の作者は塩狩峠に居を構えていたのか。ゆっくり走る汽車だから初めて知る事もある。
下り坂になると列車の足取りは軽くなった。試しに計ってみると時速80km/hほど。正直と言うか、素直と言うか。高原を下ってゆくと山間が広がって畑地になる。名寄盆地に差し掛かったらしい。

そして水田となる。名寄の地は稲作の北限。極寒の地の稲作を根付かせたのは米で生きてきた日本人の執念だろうが、今日の明るい空の下ではそんな執念も明るく乾いた雰囲気に隠されているようだ。

旭川からのお客さんを降ろす一方で名寄へのお客さんを少しずつ乗せる。停まる駅はそれなりに集落が広がる街。北海道風に言うなら剣持駅の周辺は剣持市街、かな。もちろん快速だから通過する駅もある。そんな駅は畑の中に広がるささやかな駅だったりする。市街地があるのに通過される可哀想な街はなかった。
名寄までは非力なディーゼルカー旭川から81分。札幌-旭川の特急列車80分とほぼ同等だが、距離は半分近くの76kmだった。昔年のジャンクションにして今でも運転の拠点である名寄に到着したのは12:28の事。ここまでほぼ満席のままやってきた。
ここから宗谷本線の北の果て、稚内へ向かうには列車を乗り継ぐ事になる。本数はわずかだが、この先に向かう列車、わずか4分の乗継であり、隣のホームで発車を待っている。名寄までのお客さんのうち4割程度だろうか。跨線橋へと群がる。割と若い人や鉄道好きといういかにもな人。そんな人たちが二段飛ばしで階段を急いでゆく。

慌しく今までお世話になったキハ40系に別れを告げ、

この先お世話になるキハ54系にご挨拶。この列車が稚内まで行く事になる。もちろん1両編成。名寄から乗車の先客もいたから、車内中央に設けられた転換クロスシート部、新幹線で使われていたシートだろう、には座れず、車端のロングシートの空き部分に座らせてもらう事になる。さらに景色が良くなる区間で残念だが、そのうちクロスシートに移れるだろう。名寄からのお客さんが全員稚内まで脚を伸ばすとも思えないし。
稚内へ向かう列車。出足鋭く名寄を後にする。この先でお世話になるキハ54系、先程まで乗ってきたキハ40系よりも車体が軽く、強力なエンジンを2基積んでいるのでそもそも能力が違う。キハ40が国鉄時代の1970年代後半の設計なのに対して、キハ54が分割民営化の際に、経営に苦戦するだろう北海道会社への餞別みたいな形で投入された車両だ。元々ワンマンで使用する事を前提にしていたからか、運転室廻りがとても開放的で

流れてゆく景色も大きく広がる。夏なので開放的な雰囲気が好ましいが、激寒の頃にはデッキが寒くて大変かも知れない。実際目の当たりにすれば「冬の厳しさを目の当たりできる」なんて一見の観光客には受けるかも知れないけど。勿論、北海道向けなので客室の窓は二重窓。そして冷房がないのも先程のキハ40と一緒なので、名寄を出て北に向かう列車。窓が開けられ扇風機が車内の空気をかき回している。

名寄近郊で田園が尽きる。この先、畑作と酪農で生きてゆく世界が広がる事になる。線路際には熊笹。荒涼とした厳しい土地だが、今はつかの間の夏。あと一週間もすれば秋風が吹き出すに違いない。
左手の車窓には天塩川が見えている。雨が降った後だからか、茶色く濁った水が勢い良く流れてゆく。右手の車窓には電信柱。北へと延びるもう一本の細道、鉄道電話だ。

忘れた頃に農家が現れる。駅だって現れるし、その度に列車は停まるのだが、誰が乗って来るでも降りる訳でもなし、下手すると自分の座る反対側にささやかなホームがあるだけだから駅に存在にすら気付かない、そんな事すらある。
名寄の一つ先の町、美深でまとまった下車があり、転換クロスシートに空席が出来たのでそちらに移る。進行方向右側の席。順光ではあるが、天塩川とは逆の席だ。まぁ仕方ない。
一般的な利用者が降りて行ったので、数人の地元客のほかは、鉄道ファンと大学生のグループだけという構成になる。ファンは写真を撮ったり何だかんだと想像しく、大学生は賑々しい。車内も、つかの間の夏を満喫しているようだ。

久しぶりに線路が広がると音威子府の駅に到着である。名寄同様往年のジャンクションであり、往年の雰囲気はわずかに構内に漂っている。

ここで20分停車。この列車に限らず、宗谷本線の普通列車音威子府で長い時間停まる事が多い。
音威子府と言えば駅そばが有名。なかなか食べに来れない立地が難点だが、ここの駅そばはそれ自体を旅の目的にしてもいいと思えるほど、美味しい。今回、稚内に行こうと思ったのも、稚内に行くのであれば音威子府で蕎麦を食べられるから、という理由もある。
それ程までに思い入れの深いそばなのだが、

駅そば、水曜定休。。。。。。。
駅の立ち食いそばに定休日があるとは思ってもいなかった。残念無念。本当に残念。まぁ旭川で駅弁食べてきて良かったかも知れない。

20分の停車駅。何かないかと駅近辺をぷらぷら。食料品店で何となくビールとおつまみにカレイを買ってみる。駅に戻る。同じ列車に乗っていた大学生のグループが駅前で踊り始めた。これ、よさこいソーランだ。旭川の駅前でいきなり始めたらクレームもいい所だが、ここは長閑とした音威子府。まぁ良いか。結構激しい踊りでこれを踊りこなすのは大変だなぁと思う。終わった所で拍手を送ってしまった。
発車待ってビールを開ける。

新幹線譲りの転換クロスシートなので普通列車としては異例だが通路側でもテーブルというものがある。機能は生きているので使ってみた。小さくて若干不安。揺れない新幹線なら大丈夫だろうが、揺れる列車だとひっくり返るかも。だからと言うわけではないが、一本空くまでそんなに掛からない。
デッキのごみ箱へ空き缶を捨てに行くと、車窓には天塩川が付いて廻るようになった。

堤防が無いわけではなかろうが、自然の成り行きに任せる体で流れているように見える。木々の合間からちらっと見えたり、しっかり見えたり。どこまでも川が付きまとう。いや、線路が川に付きまとっているのか。列車から見える川の景色としては国内一級品だ。思い立って見に行ける所でないだけに、しばらくじっくりと眺めてから席に戻る。

ひさしぶりに纏まった人工物が現れて佐久の駅に着く。駅の表側はちょっとした集落。裏側は昔は製材所だったのだろうか。今は夏草の中に埋もれている。
佐久と天塩中川はちょっとした集落。人の営みが伝わる駅だが、この先、しばらくは人煙稀な土地を走る事になる。駅があって列車が停まるのが不思議な所ばかりだが、どこの駅だったか、小さな駅舎の脇にぽつんと自転車が停まっていた。地元の人に使われているらしい事を一台の自転車から知る。
雄信内の駅で特急とすれ違うため5分停車となる。こう言うのが格好の退屈しのぎになるらしい。

みんなずらずらと降りてくる。廻りで記念写真を取り出す人、タバコを吹かす人。やってくる特急を撮ろうとする人。まぁ、いろいろ。

特急が過ぎると分かっている人は列車の中へと戻る。戻らない人には運転士が「発車しますよ〜」と声を掛ける。思いがけない休憩停車、完了。全員戻って出発。何か高速バスの休憩みたいだ。

何にも無い駅で鉄道ファンが一人降りてゆく。確か2時間か3時間待てば次の稚内行きが来るはずだが、降り鉄とでも言うべきだろうか、駅で乗り降りする事を至上命題としている人は大変だなぁと同情する。
沿線に牛の姿が目立つようになってくる。まもなく幌延。久しぶりにまとまった人家が現れる。

牧場だなぁとカメラを向けたら、どうもいたのは駝鳥らしい。駝鳥と言うとアフリカなんて勝手なイメージを持っているけど、北辺の幌延でも生きてゆけるのだろうか。飼っているぐらいだから大丈夫なんだろうなぁ。
幌延到着。

ここでも35分の長時間停車。時刻表を見ると幌延列車番号が変わるので運転上の扱いは名寄発幌延行。幌延から稚内行、という扱いなのかも知れない。隣に停まる普通列車稚内旭川行きだが幌延で38分の停車中である。
35分も停まるから、まぁ駅前をぶらぶらとなる。街へと出てみると、

留萌行きのバスがやって来た。日本海に沿って走っていた国鉄羽幌線の転換バス。そう、幌延も昔はジャンクションだった。
35分も時間があるとさすがに持て余す。駅の近くに喫茶店があったからさっさと入ってしまえばコーヒーをゆっくり飲めたかも知れない。本屋なんかも中々人気で時ならぬラッシュに襲われている。
早々と列車に戻る。

もぬけの殻だ。しばらく大人しくして待つ事にする。次第にお客さんが戻って来る。2本並んだ上下の列車。先に発車をするのは稚内ゆきの方である。
幌延の先。畑が見えなくなった。雑木林。白樺の木が良く映えている。牧草地。牛の姿もちらほら。そして原野。原野。原野。

終着も近づいてきた勇知の駅にて。無人駅を管理して廻っているのだろうか。JRの係員の姿が見えた。ずっと列車の乗客意外の姿を見る機会が無かったから、熱心に箒で駅を掃く、何気ない姿が妙に心に染み込んでくる。
車窓に見えるキロポストが240という数字を刻んだ。抜海を過ぎると丘陵地帯、ちょっとした登り坂になる。速度が緩んだ。強力な気動車でもダメな坂かと思っていたら、海が見えてくる。そしてその向こうに

海に浮かぶ利尻島の姿。熊笹の中に「利尻富士」の碑が立っている。車内に歓声があがった。この4日間、横浜からずっと列車を乗り継いできたが、初めての事だ。列車はゆっくりと海岸線を走り、利尻の姿が見えなくなると速度を上げる。夏季限定かも知れないけど、徐行サービス。

抜海の丘を越えると稚内の街が少しずつ姿を現す。名寄以来、久方ぶりの「市」である。速度が緩み、天北線跡かなと思わせる敷地が寄ってくると南稚内の駅。あと一駅で終着の稚内だが、ここで最後の一休み。特急待ち合わせだそうだ。暫く待つ。さすがに休憩、と降りてくる人はそんなに居ない。そして向かいのホームには荷物の大きな人がちらほら。

新鋭車、といってももう5年ぐらい経っただろうか。スーパー宗谷が札幌を目指してやってきた。自分が8時間掛けてやってきた道をこの列車は5時間で駆ける。世界の違う列車を見送る事になる。
行く手を阻むものがなくなってこちらも動く。あと一駅。海の匂いが漂ってきそうな車窓がゆっくりと流れてゆく。見覚えのある街が現れ、見覚えの無い駅にたどり着いて列車は歩みを止めた。終着駅、稚内である。


国鉄時代からの駅は取り壊され、新しい駅舎を建設中、らしい。2面あったホームが1面になっても十分捌けそうだが、ちょっと寂しい気分はする。そしてこの線路の途切れ方はあまりにあっけない。

駅はまだ仮だろうか。こちらも何かあっさりとした駅舎である。

昔、駅前だった面影をわずかに残るような今の稚内駅前。
稚内まで来た列車は17:10には折り返し名寄行きとなる。それに乗れば旭川までは戻れるのだけどさすがに強行軍になり過ぎるから今日は稚内に泊まる。
駅の近くのホテルを予約してきた。盛岡のホテルよりは高く、仙台のホテルよりは安い。それなりのビジネスホテルだと思うのだが、チェックインして渡された鍵、部屋を開けると熱気が篭っている。クーラーが無いのだ。窓を開けると涼風が入ってくるが、ここは1階。目の前は駐車場。開けっ放し、と言うわけには行かないだろうなぁ。部屋も狭くて盛岡並に居心地が悪い。寝るだけと割り切ればいいけどその割には、高いなぁ。
とりあえず日も出ているし、海の方に行ってみる。

稚内駅から少々。北防波堤ドーム。稚内と言えばまずここに脚が伸びる。今日も何となく見に来てしまった。季節柄か、ツーリング客の格好の野宿スポットになっているようだ。テントがいくつか見える。
駅の近くに盆踊りの櫓が立ってお囃子が聞こえる。秋風のような冷たい風が吹いてゆくが、これでも稚内にはつかの間の夏なのだろう。
何となく飲んで行こうという気になって適当な店に入る。

お通しにはさんまの煮魚が出た。やはり稚内には秋が来ていると思う。

何となくたこわさ。

ハタハタの唐揚げがお勧めになっていたから食べてみる。小さいから丸ごと唐揚げで食べられるのだろう。

刺身5点盛、とメニューにはあった。頼んだら7〜8点あった。一人だから一点辺りの数を減らして種類を増やしてくれたのかも知れない。
一人で飲みに来るとペースが早くて少々困る。3杯飲んで店を出るとまだ18時半。外は明るい。真っ直ぐホテルの部屋に戻る気になれず、もう少し寄り道。ラーメンを食べて行こうと思う。稚内駅近くの狭いエリアに何軒かラーメン屋がある。意外と数が多いがどれも空いている。
適当な一軒に入る。塩ラーメンを頼んだ。

あっさりとしたスープが飲んだ後の胃に染み込んでゆく。期待してなかったけど、美味しい。確か¥600ぐらい。

ホテルに戻ると大人しく恥辱を綴る。窓を開けとけばそれなりに涼しい空気が流れ込んでくるから心地よい。
明日も早い。心掛けて早く寝るようにする。