今晩の前菜として その2

 2両の気動車、座席が半分埋まるぐらいの体裁になった所で発車時刻となる。ドアが閉まった感触はあったのだが、なかなか動き出さないなぁと思っていたら、ほんの少しずつ動いていた。元々非力なキハ40は動き出しののろさに定評があるが、それが更にスロースタートしたものだからほんとに揺れない、上品な走り出しになった。
 ようやくエンジン音が高まってのそのそとホームが流れ出す。幾重もの線路がガタガタと言いながら二つに集まり、郡山への線路と袂を分かつとさすがにキハ40も速度が乗って来る。
 列車は会津盆地の西へと進む。

 こちらの方が日当たりがいいのか、田んぼの雪が解けていて満面の水を湛えている。田起こしに取り掛かるのはあと1か月ちょっと先かなぁ。
 小さな駅をいくつか飛ばして、列車は会津盆地の拠点都市、喜多方へ。喜多方までのお客さんを降ろす以上にお客さんを乗せる。磐越西線の新津方面に向かう列車。4時間近く間隔が開いている。下校する高校生を中心にたくさん乗り込んできた。この列車の時間に合わせて行動が決まる人も多いのだろう。 
 会津若松を出た時よりも多いお客さんを乗せて、列車はのったり動き出す。喜多方の市街地を抜けると田園地帯、まもなく山間に差し掛かる。

 再びの雪道。そして時々現れる人家は今までの見えてた家と雪への構えが明らかに違っていた。

 窓の部分に雪囲い。これをやらないと屋根から落ちた雪で窓ガラスが割れるのだろう。一番降り積もる時期は家の一階が雪に埋もれるのかも知れない。そうすると今の景色も雪が解けてきた春の景色という事になる。
 長いこと走って駅が現れてお客さんを降ろす。駅の度に何人か、或は十何人になる事もある。そして車窓には


 阿賀野川が姿を現した。会津に流れを発し、日本海へと流れ込む大きな川である。川の流れは進行方向左。記憶では右だったので?と思ったが途中何度か川を渡って右に左に移っていったから記憶違いではなく、記憶の欠落だ。
 会津全体の水を集めたような川だから実に雄大な流れ。その途中、ところどころで流れをせき止め、ダムを作って水力発電をしている。

 二つだったか三つだったから一定間隔で並ぶ発電所には全て東北電力の看板が出ていた。時折送電線も見える。このあたりの電力は新潟辺りに送られているのかなぁと想像しながら眺める。
 途中、荻野でたくさん降りてゆき、野沢でもたくさん降りて、喜多方から乗って来た通学らしいお客さんはすべて居なくなった。この先はどうやらよそから遊びに来た人たちが中心に。
 県境を越えたのち、津川で少々停まるので外に出てみる。

 16時過ぎの山間に届く陽はそろそろ弱々しくなろうとしている。SL列車のお客さん向けにオコジョの家なるものがホームの上に。

 この季節はSLの運転は無い。余所からこの列車で来たお客さんが物珍しげに中に入ってみたりするだけ。オコジョに春がくるのはもう少し先だろうか。
 長いこと停まっていたが向かいから列車がくるという事なく発車となる。ここまですれ違い列車というものが無い。ほかの列車を見かけたのは野沢で会津若松からの列車が折り返しを待っている様子だけ。国鉄の頃は磐越西線、幹線に準じると言うことで亜幹線という位置づけであったと思うのだが、今日の磐越西線、ローカル線の姿そのものである。新潟と福島とかそういう都市同士の流動は、先ほどから時折姿を現す高速道路に奪い取られたようだ。
 辺りは徐々に暗くなってゆく。阿賀野川の流れはより太くなり、雪も少しずつ減ってゆく。乗ってくるお客さんもちらほらしだした。そして久しぶりに対向列車とすれ違う。行き先には会津若松の文字。上り列車は何時間間隔が開いたのだろうか。二つ三つ進んでまた上り列車とすれ違い。行き先は馬下とある。その辺りまでが新潟近郊の扱いなのだろう。

 完全に雪が無くなって薄暗い越後平野をゆくと久しぶりに市街地と呼べる景色が広がり出す。五泉であった。ここで大量乗車。座席が一通り埋まる。時刻表の印象に比して大きな街だ。

 会津若松から2時間半ほど。17:10定刻にこの列車の終点、新津に到着。この先、新潟方面は信越線の列車に乗り換え。長岡方面、新発田方面の案内も入る。
 信越線、羽越線、磐越線と幹線が集まるジャンクションであり、鉄道工場も有した新津は鉄道の街。以前は小さなくとも風格のある駅舎を構えていたが、いつの間にか高架に上がって、平凡な駅になっていた。新津の駅に降りたの、何時が最後だろう。ムーンライトえちごの上り列車に乗るときは、新津の長時間停車でお酒の買い出しをするのが常だったけど、その頃はまだ地上の駅舎だった筈だ。

 今日はここから在来線で長岡にでる。やってきたのは快速列車。特急用の485系の乗れて、停車駅も特急並みだからとんでもない乗り得列車だ。込んでいて座れない状況も考えられるが、早くも新津で降りる人もいるから、楽に座れた。しかも2人がけに一人で座れたのでPCを広げる事が出来る。今週平日分の恥辱を公開し、ここまでの写真の取り込みもやってしまう。
 長岡には18時の到着。ここからは新幹線で上野に戻ろうと思う。在来線だとさすがに上越国境のところが越えられない。このまま直江津方面新井まで快速に揺られるのも魅力的だが、その先、どう続くのかよく分からない。
 新幹線、40分後の指定券を用意している。それまで少々買い物。新潟限定ビイルに新潟限定のおかき。それと無印良品があったから気に入っている手帳を買い求める。どういうわけか昨年から4月始まりの手帳を使う習慣になっている。

 日常なのか非日常なのかよく分からない用事を済ませると、新幹線の高架ホームへ。以前は北陸方面の乗り換え客で賑やかだった長岡の駅も、その地位を越後湯沢に奪われた。長岡のお客さんが使うだけなのでどこか施設を持て余しているような感じを受ける。

 まもなくやってきたのは338C、P6編成。宇都宮に行くときにはよくお世話になるタイプの車両だが、久しぶりに眺めると大きく感じる。窓側指定で予約したら8号車の1階、一番前の席が出てきた。壁が真ん前で少々圧迫感がある。
 長岡ではがら空きだった指定席。ちょっと走って越後湯沢に着くと、北陸方面からのお客さんにスキーのお客さんが合わせて乗ってきて満席になる。スノーボードを持ち込む人も多く、荷棚の小さな2階建て車両は、スキー列車には不向きかも知れない。
 新幹線、越後湯沢の次は大宮まで停まらない。少し寝ておこうかと目を瞑ってみたが、眠れないまま、上毛高原が過ぎ、高崎が過ぎる。結局、眠るのは諦めた。
 新幹線は本当、魔法みたいなもので長岡からわずか1時間半で上野に到着する。今朝上野を発って12時間半でぐるっと一周をした事になる。
 乗換改札から在来線の地平ホームに出る。21:15、下り寝台特急あけぼのが出発する1時間前であるが、

 すでに13番線には人だかりが出来始めている。