北海道の果て、網走のホテルで目が覚める。三連休、たまにはフルに休んでの旅行中、二日目。
 
 昨晩の雨は上がり、外は晴れあがっている。
 昨日は早々に寝てしまったので朝風呂にする。見てくれも部屋も良くあるビジネスホテル風なのだが、大浴場が付いている。何気に温泉らしい。朝から温泉なんて非日常を楽しんだ後は朝食。
 
 まるで学校給食風だがバイキング形式で選んだ結果。何気に味噌汁が美味しい。北海道の美味しいのは間違いないのだが、それよりも昨日飲み過ぎた結果なのかも知れない。
 今日は札幌まで移動する。9:30に網走を出る特急オホーツクの指定券を抑えている。それに合わせて荷物を括りチェックアウト。
 駅まで5分程。
 
 網走川を渡るとまもなく駅舎が現れる。昨日は暗く人も少なかったが、
 
 今日は逆光の中で眠っていた。人影が少ないのは昼も夜も一緒。札幌行きの発車まであと20分なのだが。
 
 観光客向けの顔出し看板も暇そうに佇んでいる。 
 駅舎に入ると待合室には数人のお客さん。売店も営業はしている。すでに改札は始まっていた。
 
 この後、10時には釧路行き、遠軽行きが控えている。街は小さく、もはや本線とは名ばかりのローカル線同士のジャンクションだが、一応はそれっぽい雰囲気は醸し出している。
 今日は指定席を用意している。宛がわれたのは4号車。一番後ろの車両である。車内は数人程度のお客さん。それでも車内販売は乗っていて、準備を進めている。
 
 先頭1号車は1両だけの自由席。こちらもがら空きでわざわざ指定を取る必要、今のところは無いみたいだ。しかも先頭に座れば展望席だし。
 2号車指定席、3号車半室グリーンの指定席。そして自分の乗り込む4号車。
 
 先程の先頭車とはうって変わって角々しい車両。
 
 今日乗車する183系登場時オリジナルの顔だ。試作車が1979年、量産車は1981年登場だから自分の中では古い車両ではないのだが、同世代の車両。そろそろ先行きが危ぶまれる頃。183系も儲けがしらの釧路方面では姿を見かけない。函館方面もオリジナルのこの形のは来ていない筈で二線級の石北本線での活躍になっている。
 9:30、定刻に列車は発車する。昨日女満別からレンタカーで網走方面へと走っていた時刻である。昨日通った国道を横目に列車は走り出す。間もなく
 
 白樺の向こうに網走湖が見えてくる。蒼く鈍く光る湖面に見送られて、列車は一路札幌を目指す。
 がら空きの車内に車内販売のワゴンが廻って来る。いないと寂しい車内販売だが、朝の9時半出発だと残念ながら用事がない。途中、遠軽で積み込む駅弁の予約も受け付けていて、その予約を入れる人が一人、もう一人という具合。
 列車は女満別、美幌と停まる。ちょっとした街があると停まるという風情だ。通過する駅は本当にささやかな集落しか見えていない。停まる街だって勢いは余りない。女満別もたまたまた空港があるから多少知名度はあるのだろうけど、駅前だけ見ていると他の田舎町とそんなに変わりはない。
 
 ちょっとした街を離れると、ひたすらに畑が続いてゆく。玉ねぎでも作っている畑だろうか。そういえば停まる駅でも通過する駅でも、駅のそばには必ず玉ねぎの集荷場があった。
 網走から50分。久しぶりに市街地という感じの景色になった。
 
 列車は高架線を走りその市街地を見下ろす事しばらく。速度が緩むと地上に降りた。北見到着。ここでたくさんお客さんが乗って来る。4号車の指定席も8割がたは埋まったようだ。駅周辺の雰囲気も全く違う。この辺りの中心都市は網走よりも北見のようだ。観光的には全く冴えない街だが、北見有っての特急オホーツク、石北本線なのだった。
 全員が座り切らないうちに発車時間が来て動き出す。しばらく街並みが続くがまもなく先程と同じような畑地を望むようになる。その畑地、次の停車駅、留辺蘂を出る頃に尽きる。
 
 山の予感の予感。常紋越えだ。
 国道が離れてゆき、携帯が圏外になる。葉を落とした木々が続く山の中。目立って速度が落ちる。列車はゆっくりゆっくり、喘ぎつつ峠を登る。不意にエンジン音が軽くなるとそこが常紋信号所。引込線が分かれてゆくとこちらの列車はトンネルに入る。常紋トンネルだ。昨日網走監獄で見学した囚人を使った道路建設からだいぶ時代が違うが、常紋越えも過酷な労働で作られた道の一つ。化けて出るなんて話も聞くけど、今日の所は何もなし。
 トンネルを抜けるとエンジン音も軽やかに列車は峠を下る。山が次第に開けて行く。速度が落ちると遠軽の駅に着く。
 
 列車はここで走る向きを変える。先程まで一番後ろだった4号車が先頭に立つ。車内では「前後ろのお客様と話し合いの上、座席の向きを変えてください」の案内。この先まだまだ札幌までは長いからもちろん席の向きを変える事になる。
 
 ホーム上には駅弁売りがいる。遠軽で駅弁の積み込みを行っているけど、別に駅弁売りから直接買ったって構わない。早々ない機会だから買い求めてみた。
 間もなく出発。遠軽からの乗客があって指定席車はほぼ満席になる。列車が発車すると車内販売がやって来る。駅弁を予約していた人に、先程積み込んだ駅弁の受け渡し。多めに積んだようで、今からでも買い求める事は出来るようだ。
 
 走る向きが変わると日差しの向きが変わる。先程まで順光の景色を眺めていたが、今度は自分側の窓から日が射してくる。
 
 遠軽からは石北線のもう片方、石狩に向けての峠越えとなる。丘と丘に挟まれた小川に沿いつつ、列車は国境を目指してゆく。遠軽の次が丸瀬布で北見側最後の停車駅となる。一人二人、お客さんが乗って来たようだ。この先、白滝という村があるが、この特急は停まらない。
 その白滝がゆっくりと過ぎる頃、車窓を眺める景色にちらっと雪が見えるようになった。
 
 空も曇って来る。何か東京から東北に入ったみたいな変化だ。北海道も日本海側の方が雪が多くて、その反対側、太平洋側というかオホーツクの方が雪自体は少ない。列車は行きの少ないオホーツク側から脊梁山脈を越えようとしている。
 
 次第に雪が深くなってきた。この感じだとこの冬の根雪かも知れないと眺めてみる。いかにも住みにくそうなこの辺り。人家はほぼなく、従っていくつかあった駅も無くなっている。上越の信号所で下りの特急オホーツクとすれ違う。久しぶりの対向列車だが、白滝から先、上川までの峠越えの区間は、特急が4本、快速が1本と普通列車が1本走るだけのローカル線。