2019-08-03

夜中に目が覚める。ゴトゴトと走るベトナム国鉄、寝台車の上段。ふと下段が目に入る。親子連れの子供が起きているのが見える。
 列車の進行方向が何時の間にか変わっている。時刻は、まだ2時ぐらい。寝ておく。
 4時を過ぎて眠れなくなる。日本との時差は2時間。他の3つのベットは寝静まったまま。列車はどこかの駅に着く。

 ようやく夜が明けてきた。車内に掲げられた時刻表と照合すると、どうやらハノイから1095㎞、ジウチ、と言う駅らしい。定刻だと4:17到着の4:32出発と記載があるので、小一時間遅れている事になる。
 ベットに戻ったが、既に眠れるものではない。段々と外が明るくなるので、起き出す。同室の人はまだ寝ているので、通路に立って外を眺める。

 少しずつ列車の中は朝を迎えて、人が動き出す歯を磨きに行く、顔を洗いに行く。

 窓の外の景色も朝らしくなってきた。ハノイから24時間。列車でむかえるベトナム二回目の朝。首都よりはずっと穏やかだが、やっぱり踏切ではバイクがたくさん、列車の通過を待っていた。
 列車の中で音楽が鳴り始める。誰かの動画ではなく、車両のスピーカーから。起きなさい、朝ですよ、と言う体裁か。2段式のソフトベットなら寝ていてもまぁまぁ差し支えは無いだろうが、三段式のハードベットだと中段を畳まないと、座るにも差し支える。日本の寝台車も寝台利用は朝7時までだった。
 あまりに煩いので、スピーカそばのコンパートにいた外国人が出てきて、ボリュームを下げる。確か昨日フエから乗って来た人たちだっけ。こちらを見て耳を塞いでみせたので、自分も耳を塞ぎ返しておく。

 また駅に着く。2時間近く走って、その間に進んだのは102㎞。サイゴンまであと600㎞と言う所まで来ている。まだ先は長い。
 自分のコンパートもようやく親子連れが起きて来た。自分のベットに寝てしまった女性はまだ寝ている。引き続き通路に立ち、朝の景色を眺める。ようやく寝ていた女性が起き出した。
 列車内。朝食の時間が来ている。親子連れは引き続き、持参した食事。上の女性は何を食べているのだろうかと思ったが、後でポテトチップの空き袋に気付いたから、そんな感じらしい。

 時刻は7時半を過ぎた。そろそろ何か食べたいが、さてと思っていると粥を売りに来る。自分のベットに寝ていた女性が粥を買い求める。バーンミー売りも来たけど、これはイマイチだった。そしたら

 別の車内販売もやって来た。これにしよう。手羽先のスープみたいなやつ。値段は35000ドン。昨日の麺と同じ。粥も同じ値段だったから、車内メニューは概ね35000ドンに値段を揃えているのか。

 久しぶりに席を取り戻す。
 スープはちょっと温めで味は薄い目。本当は魚醤で味を調えるのがスジなのだろう。手羽先にかぶりつくのは苦労したが、まぁまぁ美味しく頂く。
 朝食を食べていると進行方向に左側、

 海が見えてくる。列車の向きが変わっているので寝台側の窓の景色。有難く食事を食べながら景色を眺める。インドシナ半島に南北に長く伸びるベトナムを南下する鉄道だが、海が見えたのは、ハノイを出て26時間後のこの海が初めて、だと思う。

 入り江に差し掛かると集落があって、何隻もの小舟が浮かんでいる。海を生活の糧にしているんだなぁという事が窓の開かない列車の中にも伝わって来る。
 しばらく見え隠れしていた海。次第に遠ざかり列車は南下する。どこかの大きな街が現れた。

 立派な教会が姿を見せた。この街に限らず、今までも結構立派な教会は目にしている。後で調べてみるとベトナムは案外とカトリックが普及している。16世紀からというので日本にキリスト教が伝わったころと一緒だ。
 列車は南下を進める。9時近くになり、

 再び海が見えた後、大きな町へ。ニャチャン、であった。聞き覚えのある街で、結構立派な駅に停まる。

 たくさんの乗客が列車を迎える。昨日のフエ辺りから乗って来た観光客が降りて行く。そこそこ長々停まるようで、同室の人が珍しく席を立つ。それも全員。

 商店街か、と言う勢いでホームには売店が並ぶ。菓子やインスタント食品。饅頭なんかが並ぶ中、同室の人は揃ってバケットを買い求めていた。名物だったのかな。

 ホームには出発列車の案内。隣のホームにいるのはNH2列車、というらしい。車内にあった時刻表に出ていたかなと思いつつ。
 ニャチャンを出発する。えらい急カーブを廻り続けるので何かと思ったら線路がラケット上になっていて、そこを一周。斜め前に先程停まっていた駅を見つつ本線に戻った。ハノイからの線路が分かれてゆく。終端駅に無理矢理ループ線を付けて、方向転換できるようにした感がある。ようやく列車はサイゴンに向けて速度を上げる。
 再びの田園地帯。眠気を感じてベットに横になる。休みを取って遠くまで来て昼寝をしているだけ、の感があるけど、そこはまぁ良い。寝台車だから。他のコンパートも含め、2段式のソフトベットは昼間も横になって寝ている人の姿が目立つ。
 暫く寝入っていたらしい。向かうの親子連れに起こされる。何かと思ったら、昼食を売りに来たらしい。親切にも喰いっぱぐれないように起こしてくれたようだ。 

 窓外は久しぶりの青空。ハノイを出て30時間が経っている。地図で場所を見るとだいぶホーチミンが近付いているけど、まだ4時間は掛かる。
 お弁当の販売がやって来る。親子連れは初めて弁当を買い求める。列車での4食目。さすがにストックが無くなったのかもしれない。自分も買ってみる。この弁当、昨日の晩も似たような感じで売りに来ていたと思うのだが、手を出したのは初めて。

 お値段は35,000ドン。食堂車の麺類とかと一緒だ。ご飯の上にはお肉、厚揚げ、フィッシュボール。野菜の炒め物に魚醤が付く。いかにも汁物が入りそうなスペースもあるが、こちらは空。ご飯はインディカ米。インディカ米を炊いただけのごはんは日本人にとって少々食べづらい。ふと93年の不作とその後の米騒動を思い出した。

 食事を頂くと再びの昼寝、とはならずに景色を眺める事になる。昨日来ずっと牛のいる田園が景色の主役。ベトナムは牛の方が人よりも多いのか、と思えるほどに牛のいる景色が当たり前みたいに続いている。田舎駅を通過し、そしてまた田園。1時間ぐらい列車は遅れているけど、明るいうちにホーチミンに着くなら、まぁ良いか、程度にしか思っていない。

 どこかの駅で座席車主体の列車と出会う。機関車がサイゴン寄りに着いているから、同じ方向への旅客列車と知れる。外国人バックパッカーみたいなお客さんも目立つ。編成の中には昨日見かけた2階建てソフトシート車も見える。先発はこちらのSE7列車。サイゴンに向かって速度を上げる。優等列車らしい走りだが、遅れている乱入者なので、負ける時は負ける。

 速度が緩んで駅に着く。駅のそばまで牛がくるような田舎駅だ。とても優等列車の停まる駅には見えず、そしてドアは開かない。すると

 北上する列車とのすれ違いとなる。車輌の一部にある窓の開くところから鉄道員がこちらの列車を見送っていた。
 地図上で見ているとホーチミンの街、サイゴン駅が少しずつ近づいてくる。あと100㎞を切る。時刻は15時過ぎ。高速鉄道なら間もなく到着の雰囲気だが、こちらはゆっくりすすむ統一鉄道。ハノイから33時間。もうちょっと列車の時間が残る。

 1時間ぐらい毎に駅に停まる。さすがにこの辺りからサイゴン行きの寝台車に乗る人は無く、でも降りる人もいない。時刻は16時半。もうサイゴン駅に着いている筈の時間だけど、ホーチミンの街はもう少し先。
 だんだんと街の雰囲気がしてくる。ホーチミンはもう少し先の筈だけど、恐らくはホーチミン郊外。  

 駅が見えて、ホーチミンの手前、ビエンホア。あとサイゴン駅まで26㎞と言う所まで来ている。列車は動き出すと

 泥を含んだ大河を渡る。ずいぶん大きな川だが、こちらはドンナイ川というベトナム国内だけを流れる川だった。
 列車はさらに進むとディーアンという駅に着く。さらに街になった。ここで一緒の部屋だった上段の女性が降りてゆく。物凄い荷物で、こんなにあったか、と驚くぐらい。
 時刻は16時を過ぎる。残った二組も降り支度。親子連れは何時の間にか小ぎれいな格好になっている。鉄道のソフトベット、ハノイからサイゴンまで乗り通すと結構な運賃になる。そこの乗客と言う事は、それなりに良いところの家と言う事らしい。
 列車はホーチミンの街へと進んでゆく。

 時刻は17時になった。ハノイから35時間。おまけの1時間が2時間目に進んでゆく。この時間のホーチミンは夕方のラッシュが始まっているようだ。市街地へと進むにつれてスクータの台数は加速度をもって増えてゆく。

 今までに見た中でも一番数の多いバイクに迎えられて列車は粛々とホーチミンの街を、サイゴン駅に向かって走って行く。

 川を渡る。空には空港へと向かう飛行機も見える。そして街中を進むと、

 17:21を過ぎて駅が現れる。ハノイから1726㎞。南の終点、サイゴン駅に到着。35時間の汽車の旅がここに尽きる。
 みなさん大きな荷物を担いで降りてゆく。自分もその後をついてホームに降り立つ。


 35時間は長かった。1時間の遅れはどうでもよく。そして、楽しかった。ずっと課題だったベトナム国鉄。思い切って来てよかった。

 草むらに尽きる線路を眺めて、改札口へと向かう。

 休暇3日目の夕方。サイゴンの駅まで来る。休みは明日まで。今日はホーチミンの街にホテルを予約している。
 ホテルは駅からさほど遠くない筈。タクシーの呼び込みを避けつつ、さてと思う。ホーチミンの移動のために、

hub.grab.com

 のアプリは落としてきている。しかし、面倒になって歩くことにした。なんだけど、道は狭いし、バイクは多いし、人の歩く街では無い。

 川を渡って、思ったよりも立派なホテルに着く頃には駅から15分程が経っていた。
 ボーイが部屋まで案内してくれるようなちゃんとしたホテルの部屋に身を投じる。

 駅に近い事を条件に探したので、中心市街地からは少々距離がある。今晩は自由になるが、ひとまず食べるのと、出来れば足でも揉まれたい所。
 来る途中にビアホール的な店があったなぁと思い、改めてそちらへ出掛ける事にした。

 すっかり暗くなった街を歩いて先程の川沿い。何軒が見えるビアホール的な店のうち、遠くから目立つ店は大きいけど混んでいた。その隣の店に入る。言葉は通じづらいが、歓迎されているのは分かる。

 バドガールが薦めてきたので、断るのも面倒でバドワイザーを貰う。プレミアムが付いていてベトナム産より高い22,000ドン。瓶が出され、ジョッキには氷。水みたいなビールに氷を入れて飲むのはクレイジーな気もするが、案外と美味しい。暑い東南アジアだからかな。って事は日本でも真夏には氷入りビール、ありかもな。

 2本目は地元のサイゴン。こちらは16,000ドン。ベトナムに進出しているサッポロビールを飲みたい所だが、この界隈、サッポロの看板は残念ながら見かけず仕舞い。
 ビールばかりでなく、そろそろお腹に入れたいところ。ようやく注文した品が来る。

 蝦の春巻き。これはビールの進む味。

 もう一品。何かの貝が来る。これは失敗。サザエのようにほじれば身が出てくる訳でなく、案じて結局、歯で殻を割って食べる事になる。
 さてと、ホテルの方に戻る。コンビニに寄り道して先程無かったサッポロプレミアムを調達。その後

 麺の屋台を見つけたので寄り道する。


 米粉の麺は日本でお馴染みのフォーではなくてブン。こちらの方がベトナムではメジャーらしい。価格は30,000ドン。食堂車よりも5,000ドン安く、これが市価かなぁと思う。
 ホテルに戻る。フットマッサージ、と思っていたが、この街を歩き廻るのは気が失せた。

 先程買い求めたサッポロプレミアムを頂き、軽く荷造り。明日はまた朝が早い。22時過ぎには疲れを覚える。日本時間なら日付の変わる頃か、と納得して就寝。
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