鉛色の世界に思い焦がれて

 会社が終わる数日ぐらい前、ふと雪を見たいなぁと考えた。今年は暖冬で、東北辺りでも雪が無いとか。そんなニュースを知っていたからちょっと無理かなぁと半分諦めていたのだけど、年末になって大雪の予報。じゃぁ行こうかと30日、実家に行く途中、みどりの窓口で調べてもらったら、ムーンライトえちご、喫煙席だけど指定券が取れた。
 と言う事でまずは新潟に行く。1日の晩に出発して3日の夕方早いうちに帰ってこればよい訳で、どこを組み合わせようかとちょっと悩んで、31日になって仙台のホテルを押さえる。春には廃線となるくりこま田園鉄道にお別れして来ようかと。大まかなプランはまとまった。決めていない部分もあるけど、まぁどうにでもなる範囲。とりあえず新宿に出る。
 昨晩と今朝は駅まで歩いて出たけど、今日はまだバスが動いている。普段はとろく感じるバスも乗ってしまえばやはり早く、接続も何気に良く、新宿には考えていたよりも早い到着。
 ムーンライトえちごは中央線ホーム、7番線から発車する。この時間、中央線の快速電車は運転が終了していて、「中央線は11番線へ」と言う案内が繰り返される。そしてホームの灯りが半分に減らされた。新潟ゆきを待つお客さんが結構居るんだけどね。ついで新潟行きの案内。「指定席は満席」が強調される。
 ムーンライトえちご
 写真:新潟ゆきの快速ムーンライトえちご485系特急型車両の6連
 22:55ごろ列車が入って来る。国鉄色そのままの485系、子供の頃から馴染んでいる車両だ。懐かしいと言う気分が半分、居て当たり前と言う気分もまだ半分残っている。
 ムーンライトえちご
 写真:お酒は夜汽車のお友達。上越線に敬意を払い、八海山にしてみました。
 前に乗ったのは昨年1月末。この時は18きっぷの期間外だったから空いていたけど、今日は一通り席が埋まった。
 生憎の喫煙車、煙草は嫌いな方だし、隣にヘビースモーカーが来られると嫌だなと思っていたけど、取り敢えず隣席は空いたまま、列車は出発する。ゆっくりと新宿のネオンが流れてゆく。
 池袋で乗車少々。隣席は空いたまま。ちょっと期待してしまう状況だけど、期待してしまうと裏切られるのだろうな。とにかく飲んでしまえ。既にビールは空いてしまった。八海山に手を出す。青帯の電車とすれ違う。
 大宮を出発。隣席は空いたまま。八海山も空いてしまった。いいや、もう寝てしまおう。本日の放送はこれにて終了と案内。車内が減光される。
 越後湯沢かどこかを出発する時にちょっと目覚めた。雪があるのか無いのか、分からないまま、睡魔に引きずり込まれる。
 長岡で案内放送が再開される。まだ4時ちょっと前なのだけど、この先、列車はこまめに停まってゆく。睡眠が細切れになったけど東三条や新津は気付かなかったからそれなりに寝ていたのだろう。「まもなく終点新潟です」の案内で車内全体が動き出した。
 夜明け前の新潟は心底冷え込んでいた。とは言え年末に降った筈の雪は既に消えていて、やっぱり暖冬なのだろう。ここで乗り換え。羽越線を北上、村上へ向かう。列車は隣のホームに停車中。降りた人のうち、乗り換えたのは1/4ぐらいだろうか。
 快速村上ゆき
 写真:新潟で乗り換え。待っていたのはE127系
 昔はそのまま村上まで乗り入れていたムーンライトえちごが新潟で分断されたのが何時だったか、良くは覚えていないけど、分断されてから村上方面を志したのは初めて。不便になったと声を大にして言いたい気持ちはあるけれど、分断に至る背景も簡単に想像出来るからなぁ。軽々しい事は言えないなぁ。とにかくムーンライトえちごから乗り換えたお客さんの持ち込んだ眠気が車内に充満している。うんと暖められたシートで眠気が倍加。辺りの人、みんな惰眠を貪る。
 新発田までは起きていたけど、中条も坂町も気付かなかった。「まもなく終点、村上です」の声で目覚める。やれやれ、眠気はさらに引きずりそうな感じ。6時前の村上、まだまだ外は暗く、辺りは冷え込んでいる。雪が無いのも新潟と一緒だ。新潟市内なら雪が無いのは分かるけど、新潟の最北端に近い村上に雪が無いとは思わなかった。
 乗り継いだ列車は今度は酒田ゆき。ディーゼルカーに変わる。山側だったけどボックスに座る。まもなく出発。さらに北上してゆく。この先、明るければ日本海が臨めるのだけど、冬至を過ぎたばかりの今時分、6時過ぎの笹川流れは暗く沈みこんでいる。
 羽前大山
 目覚めると7時を廻り、すっかり夜が明けていた。雪ではなく雨が降っている。空は厚い雲に閉ざされ、鉛色の雪山が横たわる。雪を見たい言いつつも、厚い雲に閉ざされた鉛色の光景を見たかったのかな、なんてちらっと思う。
 昨日過ごした景色とは大違いの光景。青空に映える富士山と言う、箱根駅伝の中継でしか見た事の無かった光景を実際に見た時には、素直に嬉しかった。けれども、どこかで原風景に思い焦がれる気持ちがある、そんな気がしてきた。
 余目で下車。さらに列車を乗り継ぐ。今度は2分乗り換え。朝からずっと接続が良い。朝早く到着する夜行列車から降りてだいぶ間のある始発列車を待つ、と言う状況を嫌って接続の良いところ、接続の良いところ、をここまで選んで来た。そして今度乗るのは陸羽西線、新庄ゆき。ずっと北上してきたのが東に向きを変えた訳で、偶然とは言え、上出来の乗継となる。上出来すぎて同じ乗継をする人が案外と多かった事は計算外だったけれども。
 陸羽西線
 写真:陸羽西線の列車はキハ110系の2連。
 最上川沿いに内陸へと入ってゆくと、窓の外に白いものが見えるようになった。最初はビニールハウスの軒下だけにちらっと。それが草陰にポツポツといった感じに増えてきて、そして一面の雪景色へと成長してゆく。先ほどの雨も雪へと変わった。チラチラと舞い降りるような優しげな雪だ。
 陸羽西線
 写真:陸羽西線沿線 確か古口を出た辺り。
 雪深くなる、と言うほどではないけれど、途中、除雪車が道路をゆくのも見えたから今朝までに降り積もったのだろう。ようやく冬らしい光景に出会える。最上川が分かれてゆくとまもなく新庄。新庄市内も雪を被っている。
 列車は新庄に着く。ムーンライトえちごから一緒の同業者は一目散に駆け出してゆく。向こうに停まっているのは山形行き。あれに乗っても良いのだけど、今回は見送るつもりでここまで来た。底冷えする新庄の駅頭に降り立つ。足元が良くない。冷えている、と言っても東京に慣れた身にとって冷えているだけで、そんなに冷え込んでいないのだ。ぐちょっとした感じの雪道に、ちょっと歩こうかと言う気が失せて、朝食、お手軽モードに変更。
 あじさい
 駅の横にあったあじさい、営業中。新庄まで来てあじさい!?と正直、抵抗はある
 板そば
 頼んだのは新庄名物と別扱いになっていた板そば ¥700 腰がしっかりとした麺で期待していなかった分、喜びも倍増。
 最上体験館
 時間を持て余したので、駅に併設されていた施設を見学。見学している間に、目指す陸羽東線小牛田行きの改札が始まっている。