蘇る、つがる

 さて乗り込む列車は秋田発13:08、特急つがる3号、青森行き。
 「津軽」を名乗る列車には殊のほか思い入れがあり、思い出がある。未だに幾つもの夜を鮮やかに思い出すことができるのだが、最近になって「つがる」を名乗る列車がぽんと登場した。いや最近でもないか。
 奥羽線列車史をひも解くと秋田-青森を結ぶローカル優等列車特急つがる、の前は特急かもしかであった。天然記念物でありながら街中にも姿を現す、馴染みのある動物である。ではあるが農家の人からすると害獣でもあり、イマイチ受け入れられなったらしい。
 更に辿ると盛岡-秋田-青森直通特急で「たざわ」だった時代は長く、その頃には山形-秋田-青森の系統は特急つばさ、秋田-青森だけを結ぶ系統は特急むつであった。まさしくこれから乗る特急と同じ区間を走る列車。「むつ」と平仮名にしてしまうから意味がぼやけるが、漢字で書くなら旧国名の「陸奥」。青森に向かう列車としては相応しい名前で、りんごを大きく描いたむつのヘッドマークを懐かしく思い起こす。
 でも「かもしか」の代わりに採用された名前は「むつ」ではなく「つがる」。広義的には福島、宮城、岩手、青森の4県が陸奥国であり、それよりも狭い弘前周辺を指す津軽の方が奥羽北線の列車としては相応しいという判断よりも、「津軽」と「むつ」の列車の格が今回の名称変更には効いたのも知れない。特急むつも先史を辿ると秋田-青森間の急行むつとなって、奥羽北線における功労者ではあるが、急行津軽の功労には及ばない。
 そんな訳で、秋田発青森行きの列車がつがるを名乗る事に少々の戸惑いを覚えつつ乗り込む。まぁこんな事で戸惑っていては行けないのかも知れない。青森から函館へ向かう列車が白鳥を名乗り、東京から青森に向かう列車がはやぶさを名乗る時代なのだから。

 首都圏と全く関係ない、ローカル特急であるつがるだが、使用される車両は比較的新しい751系。元々東北新幹線の八戸開業前夜にはつかり用として投入された車両が東北新幹線新青森開業で御役御免となり、第二にステージを奥羽北線に求め、今はこの地にいる。秋田目線で言うと曲がりなりにも首都圏連絡の役目を担う特急いなほが車歴35年を超える485系で運用され、秋田-青森のローカル特急に新車に等しい751系が入るのは不思議と言ったら不思議なのだが、直流機器を積まない751系は新潟まで行くことが出来ず、かといって青函トンネル用の保安装置も積んでいない事から、函館へ行くことも出来ず、やむなく奥羽北線に配属されたという所だろうか。それ以外に使えそうな所って、磐越西線の郡山-会津若松ぐらいしか思いつかない。

 4両つないだ列車は自由席2両、指定席1.5両、グリーン車半室。今回は秋田駅で自由席券を買い求めたので自由席に乗る。2両の自由席は4割ぐらいの乗りだろうか。先程の特急いなほ指定席があまりに空いていたので、今度の様子は乗っている、という風に見える。
 チャイムが鳴って自動放送、英語案内も添えられて、21世紀の国際社会を走る特急列車、の体で列車は走り出す。まもなく

 車窓を旧秋田機関区が流れる。ここが現役だったころはあちこちにあるポイントの凍結を防ぐべくスチームが上がっていた。廃墟の旧機関区にそんな温かみは無く、冷たい雪に埋もれている。