そしてジリ貧へ

これだけ書いてまた21世紀には来ていない。あと15年の間、あけぼのは孤高の1往復を守り続ける事になる。そして孤高の1往復は気が付くととんでもない広い範囲を守備することになってしまった。
 今これから乗る上りあけぼの。青森駅を出発するのは18:23。青森18時半という時間はまだ新幹線で東京日着が可能な時間であり、青森自体はあけぼのがターゲットとする都市ではない。次の弘前、19:01では東京日着が不可能な時間となり、故に弘前からが守備範囲になる。
 大舘、鷹ノ巣東能代と奥羽北線の市町で丹念にお客さんを拾い集め、秋田には21:23。この時間だと打ち合わせの後、一杯やってちょうど良い時間である。マスの大きな秋田のお客さんは確実に拾っておきたいところ。
 さらに列車は羽越路へ。秋田県の南側も高速交通体系の網から零れ落ちた地域であり、寝台特急あけぼのが受け入れられる土地である。本荘、仁賀保とお客さんを細かく拾う。仁賀保TDK企業城下町だが、今どきの出張に寝台特急が使われるのかどうかは、良く分からない。列車は3県目、山形県に?入る。
 庄内の中心都市、酒田には23:01。ここは庄内空港からの空路がすっかり定着している。航空機のナイトステイも行われており、始発便は庄内発7:10である。一方最終便で見ると空路が庄内空港17:55、陸路は酒田駅18:00。どちらも距離の割には早いので、夜行列車に多少の分はあるかも知れない。ただそこには夜行バスという選択肢もある。バスだと22時前後に酒田発となって時間帯としてはそちらの方が良いかも知れない。
 酒田の次には鶴岡という都市が控えていて、鶴岡の発車は23:28。青森から318.1km、5時間5分。常識的にはこの辺りまでが守備範囲と思われるが、あけぼのはまだ営業を続ける。あつみ温泉、村上、新発田新潟県内の駅にも停まる。最後の停車駅、新津は1:34の出発。この時間まで夜行列車を待つ人がいるとはとても思えないが、青森から7時間以上、距離にして457.5kmの長きを守備範囲としているのである。これでは零れ落ちる需要も多かろう。

 この状況でライバル交通機関は攻勢を強める。別にあけぼのの需要を奪い合うためではなく、航空機、新幹線、高速道路が各々努力をし、パイを奪い合う間に相対的に夜行列車の魅力が薄れ、商売としての旨みが薄れて、今日に至ったのかも知れない。
21世紀になってからの傾向を少々述べてみよう。一つは宿泊施設に関する考察、一つは空路に関する考察、そして陸路に関する考察となる

 新幹線の整備と平行して東北の諸都市に整備されたのがビジネスホテルである。秋田市に関していうと97年の秋田新幹線開業が一つのきっかけになり、ビジネスホテルが進出した。ちょうど市街地の空洞化が進んでいて、手ごろな土地が供給されたこともあって、秋田の中心街はビジネスホテルだらけになった。α‐1が建っているのは元なかよし、ドーミーインは元マルサン。コンフォートホテルが建っているのは元文具のいとうである。
 ホテルが増えた割には需要が増えないからホテル間の競争が起こる。しっかりとした検証が必要だが、秋田市内の宿泊費は下落傾向となる。この事も夜行列車から昼行移動+市内宿泊という移動スタイルの変更を促す事に繋がる。

 次に空路に関して考察をしたい。90年代には空港の1県2空港化という整備がなされた。山形、秋田、青森。すべてが1県に2空港という体制が整った。そして羽田拡張により離着陸回数が増えた。この点は目に見える形の変化である。
 2000年代には、空港の運用時間拡大と、それに伴うナイトステイ化が推し進められる。
 運用時間の拡大とは、例えば日の出から日の入りまでに制限されていた空港の運用時間を夜間帯にも拡大して行く取組である。運用時間を拡げる事で最終便の羽田発が遅い時間となる。それに伴い、東京での打ち合わせが終わってからでも十分、飛行機で地方に帰って来ることができる。もちろん、地方発の羽田行き最終便の出発が遅くなることも期待できる。
 更に進むと、夜遅くに飛んできた最終便が、そのまま地方空港に駐泊し、翌朝の第一便として戻る、ナイトステイという扱いになる。地方にとっては朝、早々に羽田に到着する事が出来、夜遅くまで東京に滞在できるため、メリットが非常に大きい。従って、地方都市はこぞってナイトステイの実現に取り組むことになる。
 現在、秋田空港で言えば始発便と最終便はこんな感じになる。

 2014年2月現在の航空ダイヤ 始発便及び最終便
  羽田→ 秋田
  7:25→ 8:35 JL1261
20:25→21:30 NH 789
秋田→羽田
7:35→ 8:45 NH 782
20:45→22:00 JL1268
 現在はJAL4便、ANA4便の計8往復が就航している。ANAは秋田のナイトステイを実施している。
 秋田から羽田に行く場合、東京の滞在時間は最大11時間40分。羽田から秋田だと秋田の滞在時間は最大12時間10分となる。
 自宅に戻って書いているので少々手元に時刻表がある。秋田新幹線が開業した時、1997年3月の時刻表があったので、併せてみてみよう。

 1997年3月現在の航空ダイヤ
  羽田→ 秋田
7:30→ 8:30 NH871
18:00→19:00 NH879
秋田→ 羽田
9:20→10:25 NH872
19:45→20:50 NH880

 当時はJAL2便、ANA4便の計6往復であった。そして、ナイトステイは行われていない。
 秋田から羽田に行く場合、東京の滞在時間は最大7時間35分。羽田から秋田だと秋田の滞在時間は最大11時間15分となる。

 ちなみに新幹線のダイヤも折角なので見てみる。

 1997年3月開業 秋田新幹線のダイヤ
  東京→ 秋田
  6:50→11:16 こまち11号
19:00→23:26 こまち59号
秋田→ 東京
6:12→10:40 こまち10号
18:10→22:38 こまち60号
  
 そして当時のあけぼののダイヤ

  上野→ 秋田→ 青森
  21:41→ 6:49→10:21
  青森→ 秋田→ 上野
  18:03→20:57→ 6:58

 朝9時の打ち合わせとか、結婚式とか、参加しようとすると確かにあけぼのを使うのがベストという状況である事がわかる。
 調子に乗って奥羽南線の救済列車として設定日が増えた急行津軽を記す。

  上野→ 横手→ 秋田→ 青森
  22:34→ 7:41→ 9:13→12:15
  青森→ 秋田→ 横手→ 上野
  16:01→20:12→21:30→ 5:52   
 
 いい加減、先に進もう。 

 最後に自動車との関係を綴らねばならない。ただ自動車交通を語れるほどの知識は無いから、夜行列車と自動車の関係に絞るのであれば、高速バスと夜行列車という関係になる。
 80年代、県都レベルで高速バスが芽を出した。それが地方中心都市にも伸びてゆく。地方と東京を結ぶ夜行高速バスは、地方のバス会社にとってはドル箱となった。

 折角、97年3月の時刻表があるから、それに出ているあけぼのエリアの夜行高速バスを記す。路線高速バスが完全に日常の物になり、各都市に行き渡って数年と言った所か。

 東京駅八重洲口−青森     ラフォーレ号     1往復 京浜急行・弘南バス・JRバス東北JRバス関東
 横浜駅東口−弘前       ノクターン号     1往復 京浜急行・弘南バス
 品川駅−弘前         ノクターン号     1往復 京浜急行・弘南バス
 品川駅−五所川原       ノクターン号     1往復 京浜急行・弘南バス
 池袋駅−花輪・大舘・能代   ジュピター号     1往復 国際興業秋北バス
 新宿駅−角館・協和・秋田   フローラ号      1往復 小田急バス秋田中央交通
 東京駅八重洲口−仁賀保・本荘 ドリーム鳥海号    1往復 JRバス東北羽後交通
 池袋駅・大宮駅−鶴岡・酒田  夕陽号        1往復 国際興業・庄内交通
 渋谷駅−鶴岡・酒田      日本海ハイウェイ夕陽 1往復 庄内交通
 横浜駅−横手・大曲・田沢湖  レイクアンドポート号 1往復 相模鉄道羽後交通

 主だった都市は網羅されていてそれぞれがB寝台車1両分程度のお客さんを運ぶ能力がある。これをまとめると少なく見積もってもB寝台車10両程度のお客さんを運んでいる事になるのだろうか。
 更に2000年以降の規制緩和でいわゆる高速ツアーバスが台頭してくる。ここを詳細に記す知識は無いから割愛するけど、2014年2月で適当に検索を掛けると秋田‐東京だけで6社が9便を出しているようだ。こちらも夜行列車1列車分ぐらいの能力となる。