電車は浜松まで

 沼津到着前の乗り換え案内
「全車指定席のホームライナー浜松行きは降りたホームの2番線から20時ちょうどの出発です」
 なんて案内がありそして、到着直線には
「この電車は沼津到着後、車内清掃が入るため一旦ドアを閉めさせて頂きます」
 なんて案内がある。新宿から沼津まで2時間掛けて走ってきたあさぎり7号。沼津到着後にはホームライナー浜松5号に化けて浜松へ向かう。発車は20時。
 沼津駅前のコンビニでビールを買い足し、駅構内のスーパーでつまみを買って、ライナー券¥310を券売機で購入するとホームへ戻る。
 
 新宿からやってきた371系は何食わぬ顔で浜松行きに化けている。先ほどのあさぎりよりもお客さんは多い。まぁ、新宿出発時も帰宅客を満載だったし、元に戻った、と言えなくもないかも、知れない。
 先ほど券売機で買ったホームライナー券、座席が指定されている。3号車51番D席、だそうだ。51番とは妙な席だなと思い、後でもう一度確かめようと3号車まで来て見て理由が分かる。2階建てグリーン車の階下である1階普通車を指定されているのだった。
 出発直前に乗り込んだから階下席も結構混んでいた。1-2の3列で並ぶ普通車の2列の窓側。C席には先客がいたから「失礼します」と入り込む事になる。この普通車は初めて乗る。普通車なのに3列だからお買い得、みたいな扱いだが、絞り込まれてゆくその部分に当たるからそもそも幅が狭い。座席の幅は変わらず、裾の部分はちょっとした荷物置き場になっている。まぁB747の二階席をエコノミークラスにしたようなものかも知れない。747は上が窄まってゆくから逆と言えば逆だが、それ以外に思い至る例えがない。
 背の低い分、座席の上に設けれた荷物置き場は小さくてまるで使えない。変わりに窓側に設けられた荷物置き場が意外と使える。持って歩いているキャリーバックがすっぽり収まったことに感心していると列車は発車する。

 沼津発のホームライナー、浜松行き。実に貴重な存在である。
 普通列車しか走らない東海道線の静岡地区。そこを主要駅だけに停まり、飛ばしに飛ばして沼津-浜松1時間37分。普通列車では2時間で行くことは難しいから30分以上短縮してくれる。しかも充当される車両は、あさぎり用の371系。先ほど乗ったあさぎり7号に使われた371系が車内整備の後、浜松まで向かうのである。多少無理してでも行程を合わせて乗りたい列車ではあるが、今まで乗る機会はなかった。
 この電車、平日のみの運転で、しかも沼津発が20時。この列車から乗り継いでその日のうちに名古屋に着くことは出来ても京都にはとてもとても届かない。
 用途が限られてしまうのである。だから、乗ってみたいと思っていても中々乗る機会が無かった。今日は平日。夕方に愛知に着けばよい。実はこの電車の乗り継ぎではちょっと時間が遅くなるのだけど、まぁ、一度は試してみたかったので、この電車に合わせて沼津まで来て見た。今日は折角だから新宿からあさぎりでアプローチしたけど、東海道線で横浜から出るなら18時ぐらいの出発でよかったはずだ。
 宛がわれた一階普通席、残念ながらまん前が壁なのでかなりの圧迫感がある。とはいえロングシート313系やら211系で移動することの多い、沼津から先の東海道線。今日はかなり新鮮な景色である。視線の直ぐ先をホームの縁が流れてゆく。JR東の二階建てグリーン車ではおなじみの景色だが、流れて行く先に貨車がたむろしていたり、とにかく新鮮だ。そして思いがけない程早く富士に着く。沼津から13分。沼津と富士はこんなに近かったかと改めて思う。この時間距離は特急東海で経験している筈なのに、妙に新鮮だ。
 沼津で乗ってきた人たちは概ね静岡まで。静岡でまた新しいお客さんが乗ってくる。ここから浜松までも主要駅だけに停まってゆく。先月一度浜松から静岡までをホームライナーで乗ったことがあるから、まぁ、この辺りは既知と言えば既知で、先行する普通電車を追い抜き、暗闇の東海道を淡々と流して行きつつ、若干早いという体。浜松までは60分となる。
 混んでいた列車もいつの間にかがら空きになった。沼津から1時間半少々。新宿から4時間。まもなく終着の浜松である。
 
 新宿から4時間を駆けてきた371系。今、浜松駅に居る人の中に、この車両が新宿からやって来たなんて思ってみている人はいないだろうし、4時間前の新宿でこの電車を見送った人の中にもいないだろう。妙な感慨を覚えるが、感慨に浸る暇は無い。次の電車、豊橋ゆきは2分後の出発である。
 
 豊橋でも3分乗り換え。区間快速なんて聞きなれない電車は要するに普通列車。この辺りから調子が狂いだす。最後は暫く電車が無くて30分待ち。そして帰宅するともう日付の変わる頃。移動自体は変化に富んで楽しかった。翌日の仕事さえ考えなければ。