帰国は別々

 最終日の朝はソウル。南営のホテルで目覚めた。時刻は6時ちょっと前。妻はまだ寝ている。

 道路の向こう、以前は米軍基地だったらしい。
 今日は帰国日。日本発韓国行きの往復航空券を持っている妻は金浦発羽田行きに乗るが、韓国発日本行きの往復航空券、復路でやってきた自分には帰りのチケットがない。普段ならまた韓国発日本ゆきを購入してから来るのだろうが、それを繰り返すと結局は無限ループになる。無限でも悪くはないけど、一度括ってしまおうと帰りは片道だけ別手配にした。結局行きと同じく帰りも別行動。夫婦での旅行なのに一緒なのは現地だけ。妙な事だ。
 支度をすませて7時ちょっと前、妻に送られて部屋を出る。何か出勤みたいな光景だ。まずは南営の駅から一駅、地下鉄1号線で移動する。

 たまたまやって来たラッピング列車でソウルへ。時刻は7時。ちょっと間が出来た。その時間を使って朝食を済ませよう。駅構内は高い店しかないが、ちょっと思案してからファーストフード店に入ってみる。韓国でハンバーガーを食べたことはない。一度試してみたかった。

 マクドナルドに入ったつもりだったが、店の作りが変である。よく見ると背の低い境があって左がマクドナルド、右がロッテリアである。駅構内だからこんな妙な作りなのかもしれない。街中でこんな構造の店、韓国国内でも見たことがない。ちなみに今いるのはロッテリアの方。
 店員の頭上遠くを指さしても通じそうにないから、手元にあったキャンペーン中のメニューを指さして「これ下さい」とやる。飲み物はコーラでよいかと聞かれたようだったので「はい」と答える。3,000KRW。駅構内である事を考えればかなり安い。市中価格と一緒なのだろう。

 作り置きかなぁ。ちょっと温めのバーガー。
 さて早いが改札に向かう。どうせチェックが無いから出入り自由である。

一番端のホームに地下鉄電車が停まっている。朝晩だけ設定されている天安方面への快速電車らしい。ここのホームは地上側からは締め切られていて、地下鉄の構内から連絡通路を辿って行く。

 ムグンファがいる。釜山ゆき。京釜線も全線電化が完成したからか、電気機関車による牽引。
 そして今度乗るのは7:30出発のKTX109列車。今年の春から営業運転を開始したいわゆるKTX2。営業段階での名称はKTX山川というらしい、が充当される列車だ。それに乗って釜山までが今日の第一コースとなる。
 韓国に来る前はまだ乗っていない長項電鉄線に乗って天安牙山からKTXでなんて考えていたけど、7:30のKTXに新しい車両が充当されると知って計画を変更した次第。指定券は昨日、釜山で抑えておいた。
 15分前、ホームにどんどん人が集まってくる。係員がお辞儀をして迎えてくれるが肝心の列車がいない。たいていの場合、15分よりも前に列車が入っているもので、隣のホームには7:40の東大邸ゆきがすでに入線しているが、7:30の109列車はまだこれから。
 7:25も近くなって北側、恐らくは幸信車両基地から回送されてきた列車が入ってくる。近付いてみると、少々違う雰囲気のお顔。KTX2の登場だ。

 動力車を両端に配した12両編成。連接車だし動力集中方式だし、元々のKTXからぱっとみた感じには大きく変わった訳ではなさそう。ただし製造銘板には大きくROTEMの文字。全面的に韓国製、だそうだ。

 違いはむしろ接客設備の方に大きく現れる。車内に入って目立つのは全て進行方向を向いた座席。さんざん不評だったにも関わらず契約の関係で改造出来なかった集団見合い式座席がようやく改められた。座席間隔も広がったそうだ。そのせいか、今乗っている6号車。トイレ付きの車両で12列目までしかない。定員48人となる。客室に入る部分のドア周りやらなにやら、お客さんの目に付く所は明らかに違いがある。
 全体を見渡す余裕のないまま出発となる。動力車は遙かかなただし、車両の中央部だから静かなものである。インバータの素子やら電動機は誘導機なのか同期機なのか。そんなものはさっぱり分からない。
 龍山を通過し、漢江を渡る。3日前の焼き直しみたいな景色。乗っている列車だけは違っていて、最近流行の固めの座席に座り、ひとまず高速新線に踏み出した。
 新しい車両目当てなのか、座席数自体が減ったからなのか、満席の列車は順調に南下してゆく。座っている分にはいすの座り心地以外は代わり映えしない新型高速列車。テレビモニタには少々時間が掛かって300km/hの文字が出るし、赤い制服の女性乗務員が車内を回るのも一緒。もちろん景色も一緒である。
 大田で隣の人が降りて別の人が乗ってくる。東大邸でも入れ変わった。何時まで経っても満席のままである。初物人気なんですかねぇ。
 遠慮していたら何時まで経っても席を立てない。携帯電話で話しまくる隣人に遠慮する必要もなかろう。お手洗いに立つ事にする。すぐそばのトイレは使用中だったからその後へと行ってみる。無いな、無いな、と後ろに行く間に4号車。ここは向かい合わせのボックス席が4区画設定されていて、さらに売店コーナーがある。今まで全くワゴンの巡回が無かったのは売店の設定があるから、らしい。ジュースやらお弁当やら売っているが、試しにコーヒーを買ってみる。「コピ イッスムニカ」がなかなか通じない。後で聞いたら「コピ」の発音をちょっと間違えると「コーヒー」では無く「鼻血」という意味になるらしい。何とか通じて大振りの紙コップに並々と鼻血、ではなくコーヒーが注がれる。3,000KRWだから、まぁ、市中価格相当。
 3号車から先は特室。1ー2列に並ぶ席をちらと眺めて自席に戻る。何かビュッフェ車があった頃のつばめを思い起こすような構成ではある。

 コーヒーを持ち帰り飲みながら恥辱の続き。カーブの多い京釜在来線を流して行く。在来線区間では速度計は表示されない。試しに1kmを何秒で走るか調べて見る。外をしっかりと眺め、キロポストを参考に計時。1kmを25秒。時速換算で144km/hとなる。数字で表すと案外早い。
 川の向こうに離陸してゆく飛行機が見えた。金海空港だろうか。まもなく釜山。ほぼ定刻の様子。そして昨日離れたばかりの釜山の街並みが広がった。速度が緩み、足下から幾重にも線路が分かれて行く。そして終着、釜山に到着。

 韓国製というKTX2。3時間ほどの短い付き合いからの感想でしかないけど、技術的にどうのよりも、自分たちに取って使い勝手の良いように改良していった印象を受ける。技術的には、もし本当に全てが韓国製であるならば、大容量のインバータ素子が作れて、高速回転に対応できる輪軸が作れて、って事になるのですけど。
 実用に耐えうる高速車両をそれなりの価格で作ることが出来て、これを輸出向けに振り向けてくるならば、やっぱり驚異なんじゃないでしょうか。鉄道って経験工学だから自国でもう少し経験を積んでから海外に出た方が間違いないだろうとは思うけど、甘い考えなんでしょうかねぇ。
 釜山からはジェットフォイルに乗る。予約しているのは15:15のビートル。5時間近く時間がある。最初の計画通りであれば13時過ぎに釜山着だったからちょうど良かったのだけど。
 釜山では地下鉄を少々。それにおみやげも買っていない。まずは2号線と3号線という未乗線区を志すが、意外と大物のこの2路線。持ち時間で全て乗ることは難しそうだ。となると片方だけ乗ってが本来の動き方だろうが、2号線も3号線もどちらかというと東西に延びる路線。二度絡み合う路線を片方乗って片方というのはちょっと効率が悪そう。今後の延伸予定も考えて、今日は海側の区間を乗りつぶすべく、1号線を蓮山台に向かった。

 何かここ数日、同じような所をぐるぐるしているように思えるけど、昨日の朝まで宿泊していた蓮山洞(Yeonsan-dong)につく。ここは3号線との結節点。滞在していた時には使わなかった下のホームへ行くと3号線のホームがある。こちらはホームドア完備。ちょっと待つと水営(Suyeong)ゆきの列車が入ってくる。ソウル9号線みたいに新しい地下鉄にありがちな小さなタイプの車両。日本でいうと大江戸線サイズ。座席がさらりと埋まる程度の乗り具合で水営(Suyeong)を目指す。4kmちょっと、5駅でしかないから10分弱で到着する。2号線連絡の水営(Suyeong)駅。階段を一つ上がると2号線の島式ホームでちょうど萇山(Jangsan)ゆきの電車が来ている所だった。今度は大柄な電車が待っている。

 ラインカラーは黄緑となった。山手線、或いは新宿線といった所だけど、不思議と雰囲気は似ていない。東の、というか海側の終点を目指して移動する。日本人観光客の姿も見えたリゾート地へと向かう地下鉄。海雲台でその日本人も降りてがら空きになる。あと二駅。萇山(Jangsan)までは水営から10分ちょっと。
 一度改札を出てみた。葉桜が出迎えてくれる。一週間か二週間、早ければ満開だったかもしれない。一駅歩いてみる。青空がまぶしく暑い。
 一駅歩いた中洞(Jung dong)にはEマートがある。お土産やら食材やらをまだ買っていないから少し物色する。お菓子売場で会社へのお土産。お酒売場で自分用の酒を少々。キムチ売場で家で食べる分を少々。レジをすませてトランクに入れるとまだ余裕がある。買い足し決定。改めて売場に向かってしまう。
 買い物を都合2度した形になって考えていたより地下鉄に戻る時間が遅くなる。今度は2号線を西面まで乗り通す。一駅ごとにお客さんを集めるその姿はリゾート地に向かう地下鉄というより日常の脚だ。
 西面に12:40。釜山発のジェットフォイルは15:15。JR九州のサイトには1時間前までに手続きを終えよ、とある。中途半端な時間になってしまった。この先、2号線の西側というか山側は奥が深い。地下鉄の完乗は今度の機会にして、今日は釜山港国際線ターミナルに向かうことにする。
 案内と地図をしっかり見て間違えないようにターミナルの方向へ。大きな荷物を持った、いかにもな人が何人か同じ方向に向かっていたから、結果としては間違いようが無かった。

 15:15出航のビートルは13:45〜14:45が乗船手続き時間。それなら西面あたりで昼食でも良かったなぁと反省する。お腹はまぁ、減ってきているから昼食だけど、スナックコーナーよりは一応でもちゃんとした食堂の方が良いだろう。ターミナルの三階にあるというレストラン。傍目にも流行っていない雰囲気の店だが選択肢がほかにない。
 席に座るとメニューを渡される。海鮮鍋なんて載っているが二人前からだそうだ。どうしようかなと迷っていると「チヂミが美味しいですよ」
日本語で勧められた。
「東莱で食べてきたから」
「石焼きビビンバはいかがですか」
「全州で食べてきたから」
自分で言ってても嘘みたいな断り方だ。結局ビールに冷麺。ヌルメンミョンかビビンメンミョンか?とは聞かなかったし聞かれなかった。

 高いばかりであまり嬉しくない昼食を終えるとちょうど博多行きジェットフォイルの乗船手続きが始まったところ。JR九州高速船の窓口もあることはあるが、韓国側の会社である未来高速の窓口が手続き場所。行列も無くすぐに受け付けて貰える。港湾利用料13,200KRWを現金で渡すと1階の窓側でいいですね、と席を割り振って貰える。これで出国も出来るが時間が有り余っている。これなら14:00過ぎに釜山についても何とかなるに違いない。時間にもスーツケースにも若干の余裕があったから、中央洞まで戻って駅のそばにあったコンビニで少々追加の買い物。めい一杯まで詰め込んでターミナルに改めて戻る。既に出国開始となっているが行列はない。難なく出国のスタンプが押された。

 フェリーターミナルの出国エリア。小さいながらも免税点や免税品受け渡し窓口があって、それなりにそれなりの機能はある。売店もあってビール。ハイトが200円で売っている。韓国ウォンだと2,200KRW。免税のはずなのに市中より高い。出航を待つグループ客がそのビールとキムパプで乾杯を始めたりしている。

 15時ちょっと前。乗船開始となった。長い連絡通路を歩いたその先に、白地に赤。JR九州のイメージそのままにビートルⅡが出発を待っている。迎えてくれる乗組員は日本人。一気に日本に帰ってきた感じがする。

 ターミナルの閑散振りをそのまま持ち込んだような船内。1階の船内、20〜30人程度か。家族連れとかちょっとしたグループ客とか。団体客はいない。個人客も意外といない。ほとんど人の乗らないまま、定刻よりも早くタラップが上がる。シートベルト着用のお願いがあって客室乗務員がチェックに回る。安全のビデオも流された。まるで飛行機そっくりだ。博多到着、定刻より5分遅れて18:15を予定しているそうだ。対馬近海、鯨の出没による減速走行を行うのだとか。
 少々揺れを感じた。ゆっくりと岸壁が遠ざかってゆく。向きを変えると足かけ5日滞在した韓国ともお別れ。釜山の港を眺めると速度を上げた。どこかで翼走し始めたはずだけど、その感触、全くわからないままだった。
 ベルト着用サインは消えないが、安定走行に入ったからかワゴン販売が一巡。ビールを買うとキリンが150円。先程よりも安くなる。ワゴンはすぐに引っ込む。前方のグリーン船室に飲み物や軽食を運ぶ乗務員の姿が見える。3時間ほどの搭乗で3000円のグリーン船室。安いものだと思うけど、今日は予約した時点で全く空きがなかった。

 遠くに島が見えてきてだんだん大きくなる。対馬だ。まだ1時間ほどしか経っていない。そして、この先はまだ2時間掛かる。この3時間は結構長い。先ほどから放映の始まった日本語の映画がいい退屈凌ぎになる。恥辱を打ちつつ、映画を眺める夕刻。対馬が離れた後は視界の効かない玄界灘をひたすらに進んでいる、筈である。
 映画がそろそろ終わる頃、最終のワゴン販売という案内が入る。時刻は17:40。試しに携帯の電源を入れてみると当然の事ながら日本の電波を拾った。小島が一つ、また一つと見えてくる。博多到着は定刻より5分遅い18:15と案内。最初案内のあった通りである。博多の街が見えてきて初めて速度が緩む。着水の衝撃。それとともに釜山出航以来久しぶりに揺れる。

 18:15、博多港到着。ロープが投げられぎっしりと岸壁に繋がれる。干潮の時間なのだそうで、スロープの角度が急だ。上陸はグリーン船室の方、優先だとかで普通船室の客は待たされた。こんなに差がついて3000円ねぇ。
 待たされたが、乗客の絶対数が少ないから、たいした時間は掛からない。入国審査、ほとんどが日本人のブースに向かったがそちらも大した行列ではなかった。福岡空港から出国してるのに、行き帰りが違うという理由だけで妙に突っかかる税関を合わせても10分弱で入国完了。バスで博多駅に向かう。

 博多駅まで運ばれると18:45である。ギリギリ、最終の東京行きのぞみに間に合う時刻。つまりソウルー東京は陸路でも日着圏だったのである。今までそんな事を考えもしなかったし、やる人もいないと思うが、他国の首都にも日着出来るようなった、というのは特筆してもいいのではないだろうか。
 ネタとしては新幹線で帰る方が面白いに決まっているが予約しているのはJALの羽田行き最終便。博多駅から地下鉄で5分。福岡空港へと運ばれる。搭乗手続きと一緒に忘れ物の回収を。5月2日に羽田行きに乗るからその時に、と電話で伝えており、名乗り出ると「お待ちしておりました」と迎えられた。無事、デジタルカメラの充電器と充電地、回収となる。ここまで抑えに抑えて撮ってきたけど、それでも撮影枚数は300枚を越えている。A40なら間違いなくバッテリー切れとなる範囲で、i10のこの結果は大いに改善と言っていい。
 ついでにクラスJのアップグレードをお願いする。窓通路を選ばせてくれるというので「窓側なら何番ですか」と。「81番も82番も空いております」とのことなので82番を選択。「広い方のお席でご用意いたしました。クラスJのご利用、ありがとうございます」と。82番。広い方。つまりぐるぐるセブンの担当便だ。
 20:35の出発まで1時間半ほど。国際線と違いラウンジで軽食、とは行かないのでフードコートを覗いてゆく。

 何となくチャンポンのセット。¥980。やっぱり海を挟んで別の雰囲気だよなぁと。それに、値段が違いすぎる。韓国も決して物価が安いとは言い切れないけど、交通に関する価格と外食に掛かる価格は、やはり安い。

 保安検査場を通り抜けてラウンジへ。一便前の羽田行きが出た所だから極めつけに空いている。一階にいたけどしばらくの間はラウンジ、独占だった。