DMZ


 ソウルのホテルで目が覚めた。午前7時半。子午線のだいぶ西にあるソウルの街は朝が遅く、ようやく日が昇った所。今日はホテル替えなので荷物をくくる。8:30過ぎチェックアウト。荷物は預けてパスポートやら何やらちょっとしたものだけ、持って歩く。
 9時前のソウル。宵っぱりの街が目覚めるにはまだ早い時間。街は人影もまばらだ。そんな街頭でトーストを売っていたから食べてゆく。

 野菜トースト 1,500KRW。少々甘味を感じる。作っている所をみていたら思いきり砂糖を掛けてた。中国人かと聞かれたのはご愛嬌。
「See you tomrrow」何て言われたけど、すみません、明日は来ません。

 地下鉄でソウル駅まで来る。今日はこれからKORailでちょっとした冒険に行く。ちょうど改札が始まる所。ホームに降りると間もなく龍山側から

 セマウルが入って来た。
 龍山側からと言う所が示す通り今日向かうのはソウル駅から北へと延びる京義線京城といったソウルから朝鮮半島の北の果て、新義州までを結ぶ路線として開業した路線。第二次大戦後の南北分断で線路も分断され、南側の終点はソウルから55.8km、都羅山が終点。
 その南側の終点、都羅山が一応の目的地。ここは南北の軍事境界線にほど近い所で最後の一区間臨津江から都羅山は手続きを取ったツアー参加者でないと乗車出来ない仕組みになっている。従って乗るのも難儀で後回しにして来たけど、今日、乗ってしまう。ただ都羅山に行くだけでは難なのでDMZツアーにも参加するつもりだ。
 列車を使った都羅山経由DMZツアーは手元の地球の歩き方にも載っていないから、ネットでの検索結果も参考にソウル始発9:25。京義線唯一のセマウルに乗る事にした。切符は都羅山まで通しで買ってある。臨津江で一度降りてDMZ観光の手続きがいるそうだが、このセマウル、臨津江で手続きの為の時間を取るらしい。他の時間だと臨津江ゆき通勤列車で臨津江まで来た上で臨津江都羅山区間運転するセマウルに乗る事になる。
 6両編成、食堂車も特室も無いセマウルはたいそう空いている。賑やかなのが中高年のグループ客。日本人の二人組もいたけど大人しくしている。定刻になって駆け込み乗車のおばちゃんやら何やらがいて出発が少々遅れる。乗って来たおばちゃんが、グループに笑われ喧騒が最高潮に達した所でセマウルはノソノソ動き出した。ゆっくり左にカーブしていく。大きな踏切に踏切番。「小田急線の新宿出た所みたい」と同行者は言う。なるほどと思う。
 カーブを抜けると少しスピードが出る。でもすぐ新村。少しお客さんを集める。そうやってお客さんを集める間に少しずつ列車も混んで来た。

 韓国の鉄道は近代化の真っ盛り。京義線も電鉄化の工事が進む。様子を見ているとまるで複々線の電化線路を新たに作る勢い。沿線は高層住宅と農村が入り混じった雰囲気。ソウルの北方は元々北からの脅威という特殊事情もあって開発が遅れていたそうだけど、ソウルの肥大化に伴って急速に開発が進んでいるそうだ。流れる沿線風景には確かに勢いを感じる。でもさすがに複々線は大げさだろうとも思うけど、将来、南北の鉄道が直通を始める時に備えての投資なのかもしれない。こんな話もあるからそう簡単にはいかないかも知れないけど。

 南北貨物列車、163回中150回は貨物なしで運行 10月23日10時22分配信 YONHAP NEWS 
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081023-00000011-yonh-kr
 【ソウル23日聯合】南北をつなぐ京義線の貨物列車で、貨物を積まないまま運行した割合が92%に達することが分かった。列車運行は2007年の南北首脳の合意に基づき、同年12月11日に都羅山〜板門駅区間の運行から始まり、週末と休日を除き毎日1回運行されてきた。
 国会外交通商統一委員会所属のハンナラ党議員が23日に明らかにした統一部資料によると、昨年12月から今年8月まで京義線のムン山から鳳東までの区間を運行した貨物列車は163回で、このうち貨物を運搬した回数は13回にすぎなかった。内訳は昨年12月が3回、今年1月が4回、2月と3月がそれぞれ2 回、4月と6月が1回で、合計308トンの貨物を搬出し、42トンを搬入した。
 この議員は、貨物なしの運行で総額2億7153万ウォン(約1967万円)の予算が浪費されたと指摘する。鉄道輸送関連のインフラ整備が不十分な状態とはいえ、現実的な状況を考慮せず開始されたもので、前政権の「見せる」性格の南北関係を端的に示すケースだとした。

 いつの間にか半分以上の座席が埋まった京義線唯一のセマウル。車内が大きく動いたのは分断後長らく京義線の終点だった汶山。半分ぐらいが降りていって車内が落ち着く。京義線の電鉄化もここ汶山までだ。また動き出すと沿線の景色、

 すっかり鄙びている。

臨津江の手続き

 景色がどこと無く変調して着いた駅が臨津江。ここでDMZ観光の手続きを行う。観光案内には先着300人まで受付。うち第三南侵トンネルを含むDMZ観光が出来るのは先着180人までとある。臨津江まで来て都羅山まで行けないのでは困った事態になる訳だけど、日曜日のセマウル。乗車状況から見て、ツアーが満員になる事はそう簡単には無いように思われた。そうそう、ここで触れて起きます。都羅山のツアー。月曜日はお休みです。

 全員降ろされて向かった先がこちら。パスポートを提示して名前と番号を控えられ、ツアー代金8,700KREを支払い。領収書と首から掛ける札を貰う。乗車はあっちだよ、と指示されたのは駅舎の方。
 ふとホームをみると先ほどのセマウルがゆっくりと動き出す所。おやと思って見ていると一旦都羅山方に引き上げた後、隣の側線へ。次いで入ってきたのは通勤列車。10:50出発のソウル行きだ。


 通勤列車はまもなくソウルに向けて出発。まもなくセマウルが動き出す。ここで駅構内にいた兵士がホームにいる客に声を掛けて廻った。駅舎に戻りなさい、と言っているようだ。都羅山に向かうには、韓国陸軍の兵士によるセキュリティチェックを受ける必要がある。
 ここで一つ忘れていた事を。臨津江から都羅山に向かう際には都羅山からの帰りの切符を提示する必要がある。ここもイマイチはっきりしなかったのだけど、セキュリティチェックの所にきちんと「往復乗車券」と書いてあった。分かりやすい。
 何時の切符を買えばよいか分からなかったので、臨津江の駅員に都羅山ゆきのチケットとツアーのタグを見せて、「Dorasan to Soule」と言うと都羅山13:30→13:35臨津江13:50→15:13ソウルと言うチケットが出てきた。これで都羅山ゆきの条件が揃う。
 空港のような金属探知機で検査を受けた後、先ほどのセマウルに戻る。お客さんが増えているのは臨津江までクルマで来たお客さんもいるから。

 チケットやらなにやら。
 まもなく11:05。列車は京義線最後の一区間へとゆっくり動き出す。横に流れるのは臨津閣の公園。
 まもなく11:05。列車は京義線最後の一区間へとゆっくり動き出す。横に流れるのは臨津閣の公園。そして列車は

 臨津江を渡る。ここから先は民間人の入域が管理される民間人統制区域。渡りきると

 物々しい鉄条網が現れた。その向こうには各国の国旗が掲げられている。朝鮮半島で派遣された国連軍の参加国なのかなと眺めてみる。

 まもなく臨津江とは比べ物にならないほど大きな駅が現れる。そして終着、都羅山。ソウルからは55.7km。逆に言うとそんなすぐ近くに緊張の最前線は、ある。
 さきほど臨津江でも見かけた陸軍兵士が改札にいてチェックされる中、立派な駅舎へ。その中には、こんな案内看板が

 平壌まで列車が走る日を待っている。
 駅構内も眺めたいけど観光ツアーのバスも出るはずでひとまずみんなが歩いてゆく方向に。バスは何台か居てどれに乗れば良いのか分からない。警戒に立っていた陸軍兵士に「どれ?」ってつもりで首からぶら下げたタグを見せたら手振りで一番後ろのバスと教えてくれた。
 駅構内も眺めたいけど観光ツアーのバスも出るはずでひとまずみんなが歩いてゆく方向に。バスは何台か居てどれに乗れば良いのか分からない。警戒に立っていた陸軍兵士に「どれ?」ってつもりで首からぶら下げたタグを見せたら手振りで一番後ろのバスと教えてくれた。

 こちらのバスでツアーに出ます。お客さんが集まって最後に陸軍兵士が人数チェック。出発許可が出てバスが動き出す。都羅山の駅前からよく整備された道を走る。

 あまりにきれいな道路には一台もクルマが走らない。その何か人の消えた街に迷い込んだような感じがして背筋が寒くなる。
 バスは人工的な都羅山から山の中へ。兵営の前を走ると細い道をうねうね。10分ほどで南侵第三トンネルの入口に着く。


 ごく普通の観光地、みたいな顔をしているけど、これから見るのは、北が秘密裏に掘り進んだ侵攻用トンネル。第一から第四まであるうちの一番大規模なものだそうだ。中は写真撮影禁止。荷物もロッカーに預けてゆく。ヘルメットを渡されるとさて、地下73mに広がる現在進行形の史跡へ。
 観光用に掘られた斜坑を降りてゆくと南侵トンネルの一番南側に着く。ここから先、軍事境界線の手前まで歩くことが出来る。照明は暗く、高さは少々低め。油断していると頭をぶつけそうだ。幅は大人二人が並んで歩けるぐらい。このトンネルで1時間当たり3万人が移動出来るそうだけど、実際にやるには大変だろうなぁとは思う。
 時折解説文が出ている。日本語もあるから助かる。岩壁に石炭が塗りつけてあってこれはトンネルが見つかった際にトンネルではなく炭鉱跡だと主張するための小細工だ、とかダイナマイトの発破の向きが全て北から南へ向いているとか。 
 観光客が行ける最先端まで着いた。無論本当の軍事境界線ではなくその手前。鉄製の壁にドアがあってその向こうが見える。その先にはまた壁。そして壁のようだ。壁の向こうはひどく明るい。鉄壁の手前には有刺鉄線。こちらから北へ向かうのを防ぐのと、北からの侵入を防ぐため、だろうなぁ。
 今来た道を戻る。往復1.2km。帰りは登りだからちょっと疲れる。地上に戻ると結構汗が出た。
 この後はDMZの歴史を簡単にまとめたビデオの上映。全て終わるとバスが出るまで少々の間がある

 これだけ見ていると観光地。モニュメントの前では韓国人が笑いながら記念写真を撮りあっている。本当、観光地。それとこの地に沈着した歴史のギャップが激しい。
 バスは続いて都羅山の展望台へ向かう。先程の兵営の前まで戻ると今度は上り坂。うんと登った所が展望台。ここからは北の大地が一望出来る。15分間滞在だそうだ。写真撮影は黄色い線の先、つまり北が見えるようには撮ってはいけないのだそうだ。



 黄色い線から先は写真撮影禁止との事で兵士が見廻り。でも知ってか知らずか、みんな写真を撮るから兵士の注意も手が廻らない。
 線の外側から撮る分には構わない。兵士の前でカメラを掲げてみたけど何にも言われず。

 ここから見える北の国。恐らく開城だと思うけど、まあ建物も普通。見える範囲は綺麗にしているのだろう。でも明らかに異質なのが山々に緑がまるで見えない事。南北の差を大地が訴えているようだ。

 バスは13時過ぎに都羅山の駅まで戻る。列車が出るまで間が有るから少しだけ見学。

 意味も無く広い駅。ガラスの向かうにはまだ使われる事の無い「出境検査場」が。この駅が融和の象徴なのか停滞の証人なのか、視点が変われば評価も代わるだろうなあ。

 臨津江から付いて廻る陸軍兵士が改札でチェック。中には一緒に並んで記念写真を撮る韓国人もいる。やっぱりどこか平和だ。
 売店には土産物が並ぶ。なんとなく眺めていたら北の記念切手などと言う物を見つけた。色々並ぶ中に鉄道柄があったので珍しく手を出す。KRW2000。出札窓口では入場券を買う。KRW500。
 最後に駅構内で有名な駅名板を。

 平壌 205km
 この先へ大手を振って旅立つ日は来るのだろうか。僅か数時間、北を眺めただけでは分からない。

 今は乗れない鉄路を眺める。遠いなと思う。


 乗客が立つことの無い、隣のホームをちらっと眺めてホームに佇む列車に乗り込んだ。  
 臨津江へ戻るセマウルは朝から付き合うお馴染みさん。13:30、定刻に動き出す。鉄条網を横目に臨津江を渡る。鉄橋の傍に立つ陸軍兵士がこちらを睨む。間もなく道をクルマが走る様子が目に飛び込む。ようやく日常に帰って来た。
 セマウルに乗るのは臨津江まで。列車を降りるとセマウルはソウル側へと逃げて行く。側線にいたらしい通勤列車が入って来て、これが13:50のソウル行き。

 一番前のクロスシートに落ち着くと眠気を感じる。ゆっくりとディーゼルカーが動き出すと、トロトロ感が高まってだんだん眠くなって来る。汶山の駅に先程のセマウルが待機しているのが見えた。都羅山を立派な駅にするぐらいなら臨津江を1面2線にする方が優先課題じゃないか?と思う。流れる景色に電鉄化の工事現場が流れる頃、zzzz。

ソウル二泊目

 1時間に1本の列車を器用に使いこなす乗客達で混雑した列車はソウルには定刻15:13に到着。いい加減お腹が減っている。地下鉄で明洞へ。少し辛いものを食べたいな♪


 スンドゥブチゲを頂く。KRW5,900。辛くて熱々の鍋料理でようやくお腹も落ち着きました。
 今日はホテル替えなのでまずは今朝チェックアウトしたホテルへ向かい荷物のピックアップ。二泊目のホテルへは地下鉄二号線に乗ってゆく。ちょっと郊外に出ると高架に。何か東京郊外の私鉄駅、みたいな雰囲気の駅がホテルの最寄。

 もう夕方。暗くなりかけてます。
 ここでホテルのシャトルバスに乗り今日のホテルへ。バスの窓に流れる景色。東京にもありそうな雰囲気。そうだな、甲州街道の初台か。
 坂を登って雰囲気が急に閑静になると今日のホテルに到着。

 なんとも不思議なホテルに荷物を放り込むとまたバスで先ほどの駅前まで戻る。お土産やら何やらを購入するためにスーパーへ。普段使っている整髪剤。日本語表記だから輸入品だろうがKRW8,000で売っている。今のレートなら¥660。日本より安いやと買ってしまう。初めて受けた円高の恩恵。

 食料品売り場で立派なイカに目を奪われたり、

 「日本ロッテ」のコーナーなんかがあったり。
 夕食も駅前で。何を食べたいと言うのは無かったのだけど、


 ビールのお供に選んだのは

 部隊チゲ。戦争時の米軍放出品で作るからだとか、軍隊食として食べられていたものが民間にも広がった、とか言われてますけど。昼に食べたスンドゥブチゲと違って大鍋で出てくる所が鍋っぽくて。
 最初のうちは割りとあっさり目。火を弱くするタイミングを逸して少々煮詰まってしまったので少し辛い目に。ビールをもう1本飲みましたけど、周りの韓国人はみんな焼酎をストレートで。
 すっかりお腹が一杯になった。最後に

 朝食用にキムパプを買って帰る。改めてホテルに戻ると21時過ぎ。恥辱を少々進めておく。

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