早く寝た分、早く目が覚める。まだ6時前。外は薄暗い。眠れなくなったが、起きてごそごそするのは迷惑になるので、しばらくじっとする事になる。起き出したのは7時過ぎ。香港は彌敦道沿いのホテルで迎える星期六。
 30分毎に同じ内容を繰り返すニュース番組をぼんやり眺める。昼間は30℃越えになるようだ。身支度少々、8時を大きく回ったころにホテルの自室を出る。まずは朝食から。
 ホテルを出て彌敦道の隣のホテル。ここの2階に稲香超級漁港がある。火鍋のチェーン店、と認識している店だが、朝は飲茶をやっている。家賃が高いが故の二毛作、かもしれない。火鍋の店の飲茶、に少々興味を覚えて入ってみる。

 店は年寄りばかりが目立つ。日曜日は家族連れで飲茶に来る習慣があるらしいけど、今日は土曜日。平日の朝、飲茶に行くとだいたいは年寄りの社交場になっている事が多い。
 適当に空いている席に座って、という感じで通されたので、ひとまず空いている丸テーブルへ。まずはお茶の種類を伝える。大きな急須が2つ運ばれてくる。一つはお茶、一つはお湯のようだった。

 まずはボールで茶碗やお椀を洗う儀式。消毒の意味合いがあるので、念入りにやっておく。でも飲茶のスタート以外では見かけたことがないので、やっぱり儀式なんだろう。

 合わせて注文を紙に記入する。この黄色い紙は日替わりお買い得品、のようだ。3.8HKDは破格で、通常は15HKDぐらいから、となる。何品か選んで、係の人に渡す。
 熱いお茶を飲みつつ、待つことしばし。ちょっと遅いなぁと思う頃にどかどかどかと4品一気に運ばれてくる。

 注文を受けてから作ったのだと好意的に解釈しよう。

 定番、海老焼売。

 何か似たようなものが重なってしまった。

 茄子の肉乗せって名前ではないだろうが、他の店ではあまり見かけないメニュー

 肉まんですな。
 撮影タイムの後、頂いていると、更に第二陣がやって来る。

 今度は蟹焼売。

 粽もやって来る。

 中身はこんな感じ。大きい。

 今日の特売品はこんな感じ。焼売の具をのせたご飯、って体裁。
 お茶を頂きつつ、40分程掛けてゆっくりと朝食を頂く。忙しい朝には不向きの食事で、老人の社交場になるのも良く分かる。一組、観光客が来ていた以外は、お客さんみんな地元の人だった。
 地元の人に混じって朝食を頂くと地元の人に混じってスーパーで買い出し。頼まれ物やら何やらを買い出すと一旦ホテルに戻る。荷物を置くと再びの彌敦道。妻の買い物にしばらくのお付き合い。
 今日は星期六。香港の街に募金を呼びかける人が満ちる日である。地元の学生さんやら家族連れやら、ちょっと街を歩くとすぐ募金の呼びかけに捕まる。観光客でも容赦はない。

 さっさと募金をしてしまって、印のシールを貼って貰う。このシールが免罪符。後は声を掛けられなくなる。

 昨日も歩いた彌敦道。ガジュマル並木が始まるあたりからが尖沙咀。路面に面した日本であまり見かけないファストファッションの店でセールを覗いたりしている間に、彌敦道、だんだんと終点へと近づく。
 そごうのある辺り、地下道の壁が一面装飾されていて、目を引く。 

 古い香港映画のポスターに

 映画のタイトルを散りばめてみたり。

 こちらには古い写真が年代別に並んでいる。

 自分には分からなかったが、香港芸能人の似顔絵だそうだ。
 こんなものを見てたら、古色蒼然としたスターバックスの事を思い出した。海を挟んだ中環のスターバックスには何度か行ったことがあるが、もう一店、同じようなコンセプトの店が九龍側、旺角にもある。

 地下鉄の方が早いが、階段の昇り降りが面倒なのでバスにする。行先が色々あって面倒なバスだが、旺角までぐらいなら、どうにでもなる。幸い二階席の一番前が空いていた。お上りさんなのだから、座る資格はあるだろう。

 座ってしまうと路上に突き出した看板が目立つ、実に香港らしい景色が流れ出す。どこで降りようかと気を使わなくてはいけないのは仕方がないが、何も見えない地下を行くよりは余程良い。
 旺角の目的地に近い所で無事に下車。東鐵線の旺角東の駅に向かって歩く体裁でしばらく。

 目的のスターバックスは2階にある。この辺りでも地価が高くて、1階のフロアは借りることが出来ないのかも知れない。階段を上がって二階へ。

 店の前に出ている看板というか装飾と言うか、

 よく見ると麻雀牌で出来ている。

 薄暗い店内へと進む。勿論、店内も工夫を凝らした装飾に彩られている。

 テーブルは、フィルムケースか。
 注文を済ませて、中途半端に混んだ店内で空席を見つけて座る。


 コーヒーに、お隣、マカオがご当地のタルトを頂き、しばらくよくできた空間で過去に浸る。

 コーヒーカップの向こうにも少々大げさな、レトロ空間が広がっていた。
 普段、喫茶店に入るとさっさと出されたものを飲んで、さっさと出なくてはいけないような、強迫観念に駆られるのだが、今日は珍しく、ゆっくりゆっくり、忘れた頃にアイスコーヒーを口に運ぶようなペース。席を立つと13時半近くになっていた。

 改めて旺角の街へ。少し歩いて怪しげなビルのスマホ売り場やら、日本にもあるファストファッションの店やら、そんなところを覗いている間に、一駅隣り、油麻地の辺りまでやって来る。一旦ホテルに戻る事にする。
 ホテルに戻ると15時近い。まだちゃんとしたお昼を食べていない。ホテルのすぐそばで適当に済ませる事にする。
 ホテルのすぐ前にも数店、飲食店はある。茶餐廳の有名チェーン、翠華餐廳があって、盛況中なのだが、

 その隣にも茶餐廳がある。その無名な方に入ってみる。有名チェーンの隣、という立地なのに案外と混んでいたので気になった。

 オフタイムのお得セット、みたいなメニューがある。サンドイッチは25HKD、麺が30HKD。出前一丁だと2HKD高くなる。日本人にはそこまで出前一丁に価値を見出さないので普通の麺のセットを注文する。

 早々に紅茶が運ばれてくる。甘ったるい港式紅茶。氷がしっかり入っている。香港で氷入りの飲料を飲んだことはいくらでもあるけど、それでお腹にあたった事は一度もないなぁ。


 セットの麺も速攻で来た。出前一丁でなくても公仔麺には変わりなく、有難がるものでは無いけど、香港の下町茶餐廳らしいメニューを頂き、気分は出る。
 この後の予定は夕方に香港島は上環へ行く必要がある。時間が中途半端なので一旦ホテルに戻ったのち、17時前に改めて部屋を出る。
 今日は佐敦の駅から地下鉄で中環へ。港島線に乗り換えて一駅、上環で降りる。地上に出て、トラムの走る通りをぷらぷら歩いて行くと、

 観光トラムが停まっている。二階席がオープンエアになっている車両は2両あって、28号は貸切車。そして目の前の128号はツアー専用車である。今日はこの、トラムツアーを予約している。
 ツアーの出発は18:30。10分前に集合とのことだが、今はまだ1時間前。だいぶ間がある。

 トラムはひっきりなしにやって来る。それなのに、ツアー車が本線にどかんと座って良いのかというと、停まっている所、上環の西行きと東行きが別の通りを通る所で、普段は電車がやってこない所に停まっているのだった。1時間停まりっぱなしでも全く問題ないようだ。

 他の電車の邪魔をしないで居座り続けている。
 ちょっと間があったので、西港城に寄って時間をつぶす。発車15分ぐらい前に戻ってみる。ツアートラムは先程と同じ所。係員がいて、お客さんも少し乗っているようだ。西行線を渡って乗り込むのだが、結構な頻度で電車がやって来る。2両、3両やり過ごしたのち、係員の下へ。いきなり名前を呼ばれる。予約制で空いていれば当日でも乗れる、というツアーだが、予約している人、あまりいないみたいだ。
 係員からチケットを渡される。今日のツアーだけでなくツアー下車後、明日まで有効のトラム一日乗車券という扱い。香港について早いうちにトラムツアーに参加すれば、トラムを使い倒す事が出来る、と言う事。ヘッドホンはツアー中の案内用らしい。

 マスコンがディッカーだ。さすがに英国領だっただけある。普段、営業中のトラムではなかなか確認できない部分。運転席に座って記念写真を撮って貰えるそうだが、それはさすがに控えておく。
 2階席に行ってみる。 

 先客は二組、もう少し人気があってもよさそうだが、そんなものか。出発時間までにもう二組乗って来たので、総勢11名となる。値段は定価で90HKD。自分たちはネット予約の特別価格でもう少し安いのだが、1乗車2.3HKDの通常トラムからすると破格。11人でも十分に採算が取れるのかも知れない。
 ちなみにこの電車、FreeWifiである。パスワードは無いので、電車に乗っていなくても使える時は使える、かもしれない。
 18:30、定刻に動き出す。電車は西を向いているが、上環の折り返し点を上手に使って東に向きを変える。ここから先、中環、灣仔を経て一旦跳馬地へ。そして最後は銅鑼湾まで、1時間少々の旅となる。

 中環のビル群を眺めて電車は東へ。耳元のイヤホンからはその場所場所に合わせた案内が流れてくる。8か国語だったかに対応しており、日本語案内ももちろんある。古いビルの話もあれば新しいビルの話もある。香港上海銀行HSBCの本社ビルは風水に基づいて作られているとか。

 目を引くこのビル。鋭角の縁取りが良くないらしい。
 100年前の海岸線沿いに敷かれたトラムはビクトリア湾側にたくさんの建物をみつつ灣仔へと進む。所によっては1㎞も海岸線が離れて行ったそうだ。

 前の電車を追い抜く手段は無いので、前を行く電車の尻を舐めつつ、ゆっくり進む。案内でいわれるまで気付かなかった古い建物を気にしつつ、西へ向かう。9月下旬の香港島。昼間は暑いが、日が沈んだこの時間であれば、吹く風が心地よい。でも歴史の痕跡や古い建物をしっかり見るなら昼間便の方が良かったかもしれない。今日は夕方の上環→銅鑼湾というツアーを選んでいるが、ツアーは一日三往復設定がある。

 道が狭くなる灣仔の通り。壁のない向こう側には香港島の日常が繰り広げられている。日常への乱入者みたいな感じに街を進むが、街の人たち、毎度おなじみの定期便と思っているのか、気に留める人は誰も居ない。案外と注目されないものだなとは思う。 
 電車は大通りに戻って銅鑼湾へ。陸橋の下、打小人のパンパンと靴を叩く音が聞こえる。

 銅鑼湾のそごうが見えてくる。その手前で電車は跳馬地へと向かう支線に入る。時代広場がちらっと見える。ここは昔はトラムの車両基地でした、なんて案内も入る。まもなく銅鑼湾の喧騒を抜け、落ち着いた街へ。跑馬地は高級住宅地。相応しい景色だが、英国に割譲された直後は、マラリアで死んだ兵士の墓場があったそうだ。なのに英語名はHappy Valley。暮地を寿に変えちゃうぐらいの発想だ。

 跑馬地のターミナルに着く。ここを通して営業する電車は無く、やって来た電車は全て休憩してから次の目的地へと向かう。この電車もささやかなターミナルでしばらく休憩。 
 跑馬地からは来た線路ではなく、別の線路を通って銅鑼湾へ。競馬場の脇を抜け、少し街がごみごみしてくると再び銅鑼湾。本線に合流すると、先程本線と別れた所とは少し上環寄り。陸橋の下、打小人のパンパンはまだまだ元気に営業中。

 香港一の激混み交差点、銅鑼湾そごう前でたくさんの人に紛れると間もなく銅鑼湾の折り返し点。 

 一度左に曲がってすぐ右へ、という無茶なカーブに入るとツアーはここまで、時刻は19:40を過ぎている。1時間と聞いていたがちょっと遅れたのか。でも全く気にならない。

 折り返しは上環まで20時発のツアーとなる。それまでの間は記念写真タイムになる。ちょうど本線を28号、もう一両の貸切車が通って行ったが、撮りそびれた。残念。

 このツアー、バカに出来ない。なかなか楽しかった。

 最後、名残惜しくもう一枚。
 時刻はもうすぐ20時になるところ。今日はたまたま香港に来ている夫婦共通の友人と夕食を一緒に食べる事にしている。待ち合わせは20時。先程前を通って来たそごうを指定している。無事に落ち合い、向かう先は銅鑼湾のちょっと灣仔寄り。

 陸橋の下に店を構える、橋底辣蟹。昨日に引き続き海鮮の店である。ここの店、今年の6月に放送していたモヤモヤさまーず2で取り上げていた店。夕食時に銅鑼湾に着くなら、と、選んだ次第。
 元々は屋台から始まった店らしいけど、店が大きくなって表通りに構える店舗の他、全部で3つも建物を構えている大店になっている。一番立派な構えの所は混んでいて、通されたのは一番高級感のない建物のテーブル。

 半分は調理場のよう。歩道を料理が通って行く状態。

 店の前にはこれから料理されるらしい、生きた蟹が積まれている。

 さて注文。ここの店の名物は当然頼むとして、その他に二つ三つ、適当に好きな物を頼む。

 まずはビール。香港と言えばサンミゲル、だけどこの旅では初めて口にした。缶で出てくるかと思ったら、大瓶的な瓶が出てきて、飲みごたえがある。

 まずは前菜。いんげんの炒め物を頂く。

 ついでメインの蟹が出てくる。3人で大にするか小にするか迷って、小にしたのだが、大だと食べ切れなかったと思う。小だともう少し食べられるかな、ぐらいの所だったけど、他にも頼んだから小で十分。
 昨日の西貢の蟹は身が少なかったけど、こちらは身が充分にあるし、唐辛子と大蒜を炒めたこの添え物も美味しい。

 トウモロコシの揚げ物を頂く。これに似たもの、大阪でうどんに乗っていたのは食べたことがあるが、関東圏だとちょっと見ないかも知れない。

 炒飯。蟹に添えられた炒め物と一緒に食べるとまた美味。
 意外と時間が掛かって会計が終ると22時ちょっと前、というところ。今日はこれでお開き、

 別室はもう店じまいみたいで、片づけに入っている。
 灣仔に泊まっているという友人と分かれて、佐敦に戻る。地下鉄で戻るのが順路だろうが、銅鑼湾からはバスで行くのが早い。海底トンネルを往来するバスがたくさん走っている。

 きめ細かく各地を結ぶバスの利用者は多く、辛うじて座って、海底トンネルを越えるとそこはもう紅磡。ちょっと走ると佐敦のホテル、ちょうど裏手のバス停となる。

 バスを降り、コンビニに寄り道してホテルの自室へ。明日は帰国だが、荷造りは明日する事にしてだらんと。24時前に就寝。