トラムと地下鉄


 香港と日本の時差は1時間。日本時間の感覚のままで構わないと言ったら構わないのだが、目覚めてみるとやっぱり日本時間のままだった。午前7時、いや1時間の時差があるから香港は午前6時。すでに明るくなっている。少々暗いが、まぁ晴れて暑くなるのだろう。動き出すには少々早い時間。昨日の恥辱がまだ途中だし、続きを書こうとするが全く進まなくなった。何なんだろう。じきに7時になる。そういえばこの近くのレストラン。朝から飲茶をやっていたっけ。一人飲茶はどうかとも思うが地元の人、結構一人で飲茶をやっている。外国人が一人で飲茶はあまりいないだろうが、まぁ、いいかと部屋を出ることにした。
 ホテルの隣、地下1階。以前夫婦で来たことのある店である。勝手に座るものではないらしいが、まだお客さんも従業員も少なくて気付いて貰えるまで少々かかる。ようやく気付いて貰えて案内されたのはレジの前の席。落ち着かないが、何かと戸惑うであろう外国人を目の届く所に座らせた、と言ったところか。早速お茶を出された。しかし器を洗うためのボウルがない。ボウルが載っているテーブルは載っていて、ならばと隣のテーブルから拝借する。注文もしておこう。一人だしあまり品数は食べられないから3つほど。しばらく待つ。

 地元の人。案内されるまでもなくテーブルに座り、自分で急須を持ってきたりしている。勝手知ったる常連ばかりなのだろう。一人で新聞を読んだり、一人のテーブルにもう一人やってきて談笑が始まったり。ちょっとした井戸端のようでもある。座っているのが年寄りばかりで若い人がいないのはどういう事か。若い人にはファストフードの方が人気なんでしょうかねぇ。少なくともこの飲茶、全くファストではない。ゆっくりと時間のある人むけで事は間違いない。

 まもなく二品到着。飲茶で粥は場違い感も甚だしいが、メニューにあるのは前回来たときに知っていたから頼んでみた。少々疲れ気味の胃にはやさしいはず。それに肉まんの組み合わせは、、やっぱり変。
 もう一品がなかなかこない。マネージャらしき男性が「ここのテーブルの注文、出てこないぞ」的に従業員に声を掛けている。その間に熱いお茶を一杯。また一杯。冷房で寒かったはずがすっかり汗をかいている。中華料理に冷菜というものはなかなか無いから飲茶でも何でも暑い中熱い料理や飲み物をということになるけど、この効き過ぎるぐらいの冷房がないと辛いよなぁと思う。冷た過ぎるものと熱過ぎるものは嫌われるそうだが、明らかに不健康な冷房との兼ね合いで訳が分からなくなりそうだ。

 ようやくもう一品。エビ焼売的なものが出てきて全三品。これで小一時間経っている。飲茶はファストフードではない。当たり前の事を再確認した。そろそろ行こうか。
 ファストでない朝食のおかげで今日の行動を整理出来る。一日を漠然と未乗線の踏破と写真撮影に充てるつもりでいたのだが、地元の人が新聞を読む間に自分は今日の事を考えていた。まずはホテルの近く。柯士甸の駅から西鐵線で紅磡へ向かう。ここで明日の切符を購入する事から始める。
 明日はこちらの言葉で言うところの城際直通車、ややこしいが一国二制度だから乗車するのにパスポートチェックが必要という意味では国際列車と言って良いと思う、にのって広州に行く。ネットの世の中は便利なもので、この城際直通車、運営は香港の地下鉄を運営するMTRだが、インターネットで切符が買える、、、、、、筈だった。会員登録をして、さて購入、という段になってエラーになってしまい買えなかったのである。いろいろ調べてみると、日本で購入しようとして買えないという事例がいくつかあったようで、ブラウザの文字コードの関係でなんて答えらしい事がかかれていたものみたが、忙しさにかまけて放置となってしまった。まぁ、割と座席取りやすいらしいので、香港に着いてからでも大丈夫だろうと。

 紅磡の駅は何度か使ったことがあるが、城際直通車の出札口や改札口は見覚えがない。どこだろうと探してみると、真ん中の真ん中、そして紅磡の街寄りに立派な駅舎がある。

売店やらマクドナルドが並ぶ中に中国旅行社があってここで指定券を扱っているらしい。片言の英語で明日の午前、広州に行きたいと伝えると、時刻表を出してくれる。後は指さしで指定券、無事お買い上げ。

思った以上に簡単に取れてしまった。
 さて、午前中、暑くならないうちに冷房のない香港島のトラムに乗っておこうと思う。紅磡から香港島へは地下鉄よりもフェリーかバスが良いだろうと思っている。フェリーが第一希望だが、ホンハムのフェリー乗り場、駅の中には案内がない。ならばトンネルバスにしよう。どこ行きに乗るのが良いかさっぱりだが、トラムが見えれば降りれば良い。適当に来たバス、一本目は混んでいたから見送り二本目に。これも並んでいるなぁと思ったけどさすが二階建てバス。行列がスルスルと吸い込まれてゆき、みんな座れた。

 長いようで短いトンネルを抜けると当然ではあるが九龍半島が向こうに見えている。海岸を離れると公園が見えてビクトリアパーク。そして電車道に出る。そろそろ降りよう。バス代、乗った時間は僅かだが、10ドル少々取られた。トンネル通過で高い運賃が設定されているのだろうが、う〜む、と思ってしまうあたり、香港の物価に慣れた証拠だろう。

 行き交うトラムを少しだけ撮ってから適当な電車で東に向かう。香港のトラム、北角の辺りから東の区間と跑馬地への枝線が未乗である。もっと言うと、気になっている所が幾つかあり、どこまで気にすべきなのかは良く分からない。

 たまたま北角ゆきが来る。既乗区間だが、北角の折り返しが気になるから乗る。まだ9時を少し過ぎた程度だが、暑い。電車が走り出すと風が吹き込んでしのぎやすくなるが、暑い。何にも考えずに午後にトラムへ乗っていたら大変だったかもしれない。
 電車は終点の北角の手前。大通りから裏通りへと逸れる。単線の線路は折り返し用のループ線なのだが、入った裏通り。その先は

 まるで市場の中。警鈴をがんがん打ち鳴らし、人をけちらしてゆっくり進む。昔ながらの混沌の香港という感じで笑いたくなる。いや、昔の香港を知っている訳でないけど。北角の電停で下車。1〜2本ほどトラム市場に迷い込むの図を撮ってみた。

 来た。

 また来た。

 飽きないけど先に進まないので大通りに戻る。やってきた電車は西灣河電車廠ゆき。どこだと思いつつ、まあいいや。行けるところまで行こう。ひとまず乗り込む。
 東に行くにつれて郊外風の景色になる。電車には辛いだろう坂を登りそして下る。古ぼけたマンション。壁一面にクーラの室外機が並ぶ。背景に広がる青空。白い雲。何度も何度も電車とすれ違いながら東へ。めっきり自家用車が数が減った。行き交うのは電車とバスとタクシー。みんな公共交通機関だ。
 カタカナでトップバリュなんて看板が出ていたから何かと思ったらジャスコだった。和民やモスも見かける。日系じゃなくても日本食の店、日本語の看板、郊外でも溢れている。不思議と地元客向けの日本語は日本人から見ても不自然ではない、しっかりとした言葉で書かれている事が多い。日本人観光客向けの方が間違いが多いのはなんでだろう。「マッサーヅ」とか
 観光客が来ないような日常の香港を走ることしばし、不意に電車は本線から逸れた。そして電停がある。終点の電車廠。この先は線路は車庫へと吸い込まれてゆく。
 電停のポールで確認するとあと二つか三つで東の終点、筲箕湾。歩こうかと思ってみたけど、ここから 行きの電車に乗る人もいる。どうせ2ドルだ。乗っちゃえ。続いてやってきた電車に乗り込んだ。先が短いので2階にはいかず1階で過ごす。まもなく終点、 。
 西からやって来た線路はくるりと弧を描き、360°向きを変えてそのまま西行き線路へ続いている。その円弧の途中に電車が常に2台ほど。次々やってきてはところてん式に押し出されてゆく。中には営業して来て回送となる電車もあって、その場合は後続を待たずにすぐに発車となる。
次は跑馬地に向かおう。筲箕湾からも直通の系統があるからそれを待つ。2〜3台やり過ごしてやってきた電車に乗りこむ。上環ゆきの続行である。ちょっと間があいたからか前の電車は込んでいる。こちらの電車も先に進むにつれて込んでくる。 

 他車とだいぶ雰囲気の異なる新造車とすれ違う。このシリーズ、数両あるらしいが、まだ一度も乗ったことは無い。

 北角まで戻ってきた。この辺りから降りる人も多くなってきて少々空いてくる。ちょうど北角の折り返し線に入ってゆく電車が見える。
 銅羅湾まで来るとこちらの電車が本線から反れる番である。信号待ちのあとで左へと折れる。跑馬地への枝線へと進入する。
 跑馬地への路線は行きと戻りで経路が違う。銅羅湾の喧噪を抜けると落ち着いた雰囲気の街並みを走る。電車も少し速度が延びる。右手に広がる競馬場を回り込むように掛けて行くと前方に電車溜まりが見えてきた。終点、跑馬地だ。

 ここだけが複線になっていて、片方に東行き、筲箕湾方面の電車が、もう片方には西行き、堅尼地域方面の電車がしばらく休憩している。堅尼地域まで脚を延ばした事があるから、地下鉄連絡の上環まで移動する事にする。再びトラムの二階。先ほどとは違うルートを辿る事になる。競馬場を挟んで反対側。5分ちょっとでメインルートに合流。ビジネス街を抜けるとまた下町らしくなってくる。そろそろ、上環だ。地下鉄の駅が見えて、クランクにさしかかる手前。電車を降りる。隣の線路に電車が行て、同時に同一方向へと発車する。右の線路、折り返しのループ線なのだ。最後、ここに乗っておこう。
 次に来た電車で待つことしばし、左側の電車と同時発車になれば面白いのだが、残念ながらこちらの電車のタイミングが早かった。次の交差点で右に逸れ、もう一度右に曲がると次は左。本線に戻る。これでトラムは一応は終了とする。もう少し、折り返し点で営業しているループ線がありそうだけど、正直言って香港のトラムは気になり出すとキリがないと思う。上環始発のトラム、上環のエリアで下車したのは12時ちょっと前だった。たっぷり3時間、付き合ったことになる。

 ここからは地下鉄に乗る。地下鉄も乗っているようで中途半端にしか乗っていないから、今日は一通り、なぞる事になるだろう。今いる上環は港島線の始発駅である。ここからトラム沿いに の先、柴湾までが営業区間。中環や銅鑼湾、北角といったお馴染みの街を結ぶ路線。中環−北角は乗っているが両端が未乗線区である。

 電車を待つことしばらく、始発の空いている電車に座る。中環で席が埋まり、茎湾線と平面で乗り換えられる金鐘で大勢の立客が出た。北角を過ぎると余裕が出てきて最後、柴湾の手前で地上に出る。車両基地があるらしい。柴湾までは30分弱。
 いったん改札を出る。再入場しようとしたらICカードがエラーを起こす。やれやれ。何があったものやら。チェックして貰いたいが、有人窓口は離れている。しかも交渉するのも気が重い。
 窓口に並び、出来るだけ単語を少なく、カードに問題がある事を伝えようとする。意は汲み取ってくれ、履歴を見てくれたが「No Problem」とのこと。画面に最新の上環ー柴湾 6.7ドル。それにトラムの1乗車2ドルが並んでいるのが分かる。う〜ん、と思いながら引き下がる。今度は入場出来た。何がダメだったのか。出場即入場がシステムの想定外だったのか。
 予定外のトラブルで思ったよりも遅れて柴湾を引き返す。今度は北角からの将軍澳線。香港島から海を渡って九龍半島の東側へと延びる路線だ。
 北角で乗り換え。立客が出るほどの混雑だが、海を渡って一つ目の駅、油塘の駅でほとんどの人が降りてしまう。ここは香港最初の地下鉄である觀塘線の乗換駅。元々は觀塘線が北角まで乗り入れていたそうで、人の流れと今の運転系統、若干合っていないのかも知れない。がら空きのまま一駅。調景嶺でまたお客さんが増えた。今度は觀塘線から将軍澳線への乗り換え客。觀塘線と将軍澳線、二駅で乗り換え可能だけど、その間に線路を入れ替えて、将軍澳線→觀塘線は油塘で平面乗り換え、觀塘線→将軍澳線は調景嶺で平面乗り換えとなる。実に利用客に優しい路線に仕上がっている。
 ただ調景嶺まで来てしまうと将軍澳線、奥行きがあまり深くない。次は線名と同じ将軍澳。枝線の分岐点だがその雰囲気もよく分からないまま、終点、寶琳まで運ばれた。1面1線。すぐ改札口の外が地上だから地上駅らしい。

 先ほどの経験を踏まえ再入場にしばらく間を置いたら乗るつもりだった電車は行ってしまった。次の電車で将軍澳に戻る。次は枝線の終点、康城に行く。ホームは別なのかなぁと思ったけど、どうやら寶琳ゆきと同じホーム。しかし、

 本数が少ないらしい。寶琳ゆきを一本見送った後、康城ゆきとなる。その後はしばらく寶琳ゆきが続くから、接続は良いほうらしい。ちょっと待ってがら空きの康城ゆき到着。乗り込む。同じように乗ってきた乗客もいるけど、空席が目立つ。
 同じホームから出発ということはどこかで分岐している筈。動き出した電車、低速でゴーゴー音を立てて走る。分岐をゆるゆると走っているのだろうが、走行の感触からは何も分からない。ちらっと地上の明かりが入ってきたがすぐに遮られて、終着、康城到着。折り返しは4分後だそうだ。
 折り返し電車は北角ゆき。調景嶺まで乗る。今度は觀塘線へと乗り換えになる。既に電車はホームにいてまもなく出発。接続が良すぎて始発なのに座れない。油塘では北角からの乗り換え客でさらに混雑する。電車は地下から地上に出る。高層住宅の立ち並ぶ郊外をきびきびと走ってゆく。駅に着く度にたくさんのお客さんが乗り降りする。成熟した通勤路線、なんて雰囲気である。数駅で電車は地下に戻り、それでも人の出入りは続く。黄大仙から先は既に乗っている区間。真っ暗闇だから雰囲気は変わらないけど、また一つ片づいたと安堵する。
 電車は油麻地までゆく。時刻はもうすぐ14時になるところ。そろそろお昼も食べたいし、尖沙咀重慶マンションで両替もしたい。しかし、油麻地の手前、九龍塘で降りると次なる未乗線区が近くにある。どうしようかなとその後の流れも考えながら、少し悩む。結局、九龍塘で下車。地上へ上がると中国への道、お馴染み東鐵線のホームがある。すぐに羅湖行きの電車が来て飛び乗る。一駅走ると大圓。ここから馬鞍山線が分岐している。

 乗ってきた電車を撮っとくと、駅の係員に声をかけられる。何かと思ったら「No photo」だそうだ。え〜、だめだったの????正直驚いた。今まで何も言われたこと全く無いから心の底から驚いた。やれやれと思いつつ乗り換え通路、隣のホームに向かう。
 大圓から分岐する馬鞍山線。東鐵線と同じ5つドアの車両が入っている。ただし本線というべき東鐵線が12両なのに対して支線の馬鞍山線は5両か6両かそんな感じであった。座席が埋まって立客が出る程度の乗車で電車は動き出す。地図で見ると東鐵線と川を挟んで右岸と左岸、そんな感じに鉄路は延びる。沙田の競馬場からも馬鞍山線の電車が見えた記憶があるが、今日の馬鞍山線の車窓。競馬場の存在は気づかなかった。ただ高層住宅、高層住宅、高層住宅が続く。
 先に進むに従い、緑の色が濃くなる。いつの間にか東鐵線と分かれて我が道を進む。左手に見えているのは湖。あとで地図を見たら海だったけど。線名にもなっている馬鞍山で車内はがら空きになる。

 終点は鳥渓沙。左手を見ていると荒っぽい工事現場の向こうに湖(とこの時は信じ込んでいる)が見えている不思議なところ。右手はなにやらショッピングセンターにバスターミナル。火鍋でお馴染み、稲香超級漁港の大きな店があって、入店待ちのお客さんが大挙している。おなか減ったところに稲香が現れたのは目に毒だが、とても入れる状況ではなかった。昼食とはいえない時間になりつつあるけど、尖沙咀で考えよう。引き返す事にする。

 駅の改札にポスターが出ている。夏のイベントでしょうかねぇ。こちらで人気なんでしょうか。
 絵巻物を戻すように大圓に戻る。再びの東鐵線。に戻ると15時すぎ。西鐵に乗り換え一駅、尖東。久しぶりに香港の喧噪に襲われた。地上に出ると熱気も加勢する。

 その熱気に押しつぶされそうになりつつ、重慶マンションへ。日本円を香港ドルに替えると1万円が875ドルになる。明日に備えて日本円を人民元に両替すると1万円が758人民元。これは計算に妙に時間が掛かった。イレギュラーな扱いだったんだろうなぁ。
 いい加減、お昼を考える。簡単な食事で良いのだけど尖沙咀の辺り、表通りには「簡単な食事」という店はまずあり得ない。裏通りを歩いていたらいつの間にかホテルの近くまで戻ってしまう。今ここでホテルに戻れば絶対外に出てこれないなぁとひとまず食事。考えるのも面倒だが、時間の割にはお客さんがいた店に適当に入る。指さしと片言の英語で牛腩麺をお願いする。さらに何か聞かれて適当に受け答えしてたらアイスミルクティーの注文が入ってしまった。不思議だ、と思いつつも喉が乾いているからちょうどいい。

 アイスティーが出てくる。氷かぁ、生水かなぁ。失敗したかもなぁ。

 これは意外と旨かった。昨日の店より口に合う。暑苦しいのに熱い麺とはどうかと思うけど、美味しいから、まぁいい。
 暑い中で熱い麺。意外と元気を取り戻した。ホテルのことなど忘れて佐敦の駅に向かう。「さぁ荃湾線、行くぞ」と言う気分になる。
 荃湾線。尖沙咀周辺に滞在していると必ずお世話になる路線。でも中環から使ってせいぜい旺角あたりまで、一度新界にゆくために美孚まで乗ったことはあるけど、全線は乗っていない。まぁ、観光客が動き回る範囲は限られていいると言う事なのだろう。とにかく終点までゆく。何時乗っても混んでいる茎湾線の電車。夕方の郊外行きも混んでいる。各駅乗り降りが激しいが、観唐線との乗継駅である旺角で減り、東湧線との乗り継ぎ駅である荔景でガクンと減った。ここからが未乗区間。地上と地下のフリッカーみたいな区間をゆく。どこに行っても地下鉄の郊外は高層住宅の羅列で古い路線のせいか緑の濃さよりコンクリートの白さの方が目立つ。
 30分掛からずに荃湾。地上駅だが駅の構造部が被さってまるで地下駅のようだ。

 ここから先ほどの美孚まで引き返す。比較的調子良く廻れていて、ここから西鐵線に乗る。紅磡延伸以前はここ、美孚で乗り換えるしかなかったのだが、無理矢理同じ駅にしたような長い通路を歩くことになる。ホームまで10分近く歩いただろうか。途中、駅構内には珍しく洗手間(つまりお手洗い)があるのがありがたい。
 西鐵線に乗る。夕方5時近く。この線は一度乗ったことがあるが新界の元朗から先は未乗である。九龍半島尖沙咀を通る路線は幾つもあるが、一番空いている路線で、日曜日の夕方、郊外ゆきで座れてしまう。長々と駅のない区間を飛ばして向かうのは新興のベットタウン。香港島あたりと所得格差も大きいなんて予備知識があるものだから、ついついそんな目に見てしまう。車内のモニタで放映されるニュースや芸能情報を座席に座った人が見上げるようにみんなしてみているのは、ほかの路線では見たことのない光景だ。
 香港ならではの高層住宅が現れる。元朗だ。ちょっと見ただけの景色は、どこへ行っても変わらない。ここからは駅も増えてこまめに停まる。
 17:20ごろ、西鐵線の終点、屯門に着く。これで概ね香港の地下鉄は乗り終えた。まだ細かに未乗線はあるが、明日以降、流れの中で乗ることが出来る筈だ。
 トラムに乗り、地下鉄に乗り、ほぼ完乗と言えるはずだが、まだ乗り残しがある。今いる屯門。先ほど通ってきた元朗。その周辺に網の目を巡らす軽鐵に全くと言っていいほど乗っていない。
 網の目と書いたがまさしく網の目で、妙な枝線、不思議な迂回路、その他諸々、ガイドブックを見ても全貌は掴めないし、どれだけ時間が掛かるのかも想像出来ない。もちろん今日、この時間から全部乗り切る時間も心づもりもない。せっかく屯門まで来たから、そのまま西鐵線で戻るよりは少し軽鐵でも乗って、元朗辺りから引き返そう、そのぐらいのつもりで、電車に乗る。地下鉄の駅に続いて軽鐵の乗り場がある。乗車用、下車用、それぞれICカードリーダがあって乗車下車の際はオクトパスをタッチする方式。タッチしなくても乗ること降りる事は出来そうだが、希に検札があって無札が発覚するととんでもない罰金が課せられるそうだ。みんな真面目にタッチしてゆく。

 ちょっとした対向式のホームがある。東京で言えば世田谷線よりも立派な設備だ。長さもそれなりで、続行で電車が来ても十分乗り降りできそうだ。ホームの先、立派な高架とそれに似つかわしくない急カーブで線路が延びる。反対側に電車がくる。香港島のトラムを思い浮かべるととんでも無く間違い。ベルギーのブリュッセル。地下に乗り入れるトラムがあったが、そんな感じだ。

 自分のいる側にも電車がくる。505系統三聖ゆき。枝線に入って終点という系統にひとまず乗る。電車がきたので写真を撮ると運転士がこちらをじろっと見る。軽鐵もMTRの運営である。本当は撮影禁止なのかもしれない、いや、知らないけど。
 電車に乗る。とんでもない急カーブをそろりと抜けると結構な勢いで加速。きびきび走る。停留所はすぐにあるから結構な減速だ。507系統が入る枝線が分かれて近づいてくる。折り返し用のループ線、らしい。今度は505系統の終点、三聖への枝線が分かれる。分かれてまもなく三聖。マンションの下に吸い込まれるようにしてホームがある。駅について終点の筈なのに、半分ぐらいの人が降りないからそのまま乗っていたら、降車ホームから乗車ホームに電車が移動。ここで次の出発待ちとなった。

 折り返しは兆康ゆき。駅の出発案内に「酷熱天気警告」の文字。気温は32℃とか33℃とか。東京と変わらないかむしろ低いぐらいだが、暑い事には変わらない。人間の耐えられる温度の限界に近いことには違いないのだろう。
 酷暑だろうが何だろうが冷房を効かせた電車で兆康を目指す。先ほど乗った屯門まではなぞり返し。その先はメインルートを外れて505系統でないと乗れないような妙なところを走る事になる。思いがけない所で曲がって単線の細道。突然ホームが現れて乗降。急カーブを抜けると一気に加速。突然減速してほかの線路と合流。その繰り返しで訳が分からなくなる。自分の行る場所を見失いそうだ。
 郊外に迷いこんだような、地下鉄に乗っているだけでは絶対に分からないような新界の街外れ。路地裏をすり抜けてゆくような感覚で走り抜け、突然ジャンクションに舞い降りた。終点、兆康。西鐵線との結節点である。電車は若干ルートを変えて三聖へ戻ることになる。

 三方向からの複線が交わる兆康。すでに18時を廻っていてさすがに疲れを感じる。

 そろそろホテルに戻ろうと、元朗ゆきの電車を選んだ。1両編成で来た電車、前と間隔が開いたのかとんでもない混雑で走ってゆく。メインルートの一つ、結構駅間隔があって、途中では速度も出る。隣の道路を走る二階建てバスぐらいはふつうに抜き去る。

 夕方。斜光線の中に翳る街を流れるように電車は走る。家路を急ぐお客さんが停留所毎に降りていって街へと散ってゆく。見覚えのある道路に入るとまもなく元朗のターミナル。自分もそろそろホテルに戻る。西鐵のホーム。電車は6分毎に出ていて、ちょっと待つとやって来た。階段からちょっと離れた所だったが座ることが出来た。薄暗くなった山並みが高速で流れてゆく。
 九龍半島、南昌まで来ると東湧線への乗り換え客だろうか。車内はぐっと人が減る。 

 ひときわに空いた。新しい地下鉄は東京でも香港でも、集客に苦労するのは共通らしい。九龍の喧騒とかけ離れた状態で紅磡に向かう。ここからホテルの最寄り駅、次の柯士甸までは西鐵の延伸区間。つまり未乗区間。郊外では高架を走る西鐵線も都心では地下にもぐる。先ほど乗った荃湾線と空港方面からの東涌線に挟まれた狭い地域を無停車で駆け抜ける。
 柯士甸到着。朝からまるまる一日で帰ってきた。外に出ると

 19時を過ぎている。九龍駅のビル群が夕空に映える。手前は工事現場、クレーンの群れ。近い将来、ここに広州との間の高速鉄道が乗り入れるそうで、数年経てば辺りの景色も一変するかもしれない。

 部屋に戻りシャワーを浴びると生き返った気分になる。香港は夜の7時。まだまだホテルに篭る時間ではない。夕食はもう少し遅くても良いけど、ちょっと考えてスターフェリーを往復してみようかと考えた。
 ホテルを出て尖沙咀の方へ歩く。ちょうどシンフォニーオブライツの時間帯。香港島を望む海沿いには香港中の観光客が集まったんじゃないかと思えるほど沢山の人が対岸で行われる光のショーを見物している。
 フェリー埠頭に着いたときにちょうどショーが終了する。観光客思い思いに散り始める。そして結構な数の人がフェリー乗り場に集まってきた。混んでそうだなぁ。


 1本フェリーを見送って次のフェリーに乗り込む。中環までは3ドル。あちこちの国籍の外国人でいっぱいになって出航。少しずつ近づいてくる中環の夜景を楽しむ。少々の揺れ。波は大したことなさそうだが、さすがに海を行く船だ。
 中環の埠頭。ここから中環の街までは若干の距離がある。地下鉄で帰るよりもフェリーで折り返そう。帰りは下層船室にしてみた。こちらは2.4ドルである。

 セーラー服の船員さんが目の前で舫い綱を扱う。機関室からボイラーの音も聞こえてくる。上層階と違って船の息吹が伝わってくる。
 ただ単にフェリーで中環埠頭を往復しただけだけど尖沙咀に戻ってくるとホテルを出てから1時間以上経っていた。ホテルのある佐敦に戻りつつ、夕食を考える。あまり空腹は感じないし、軽くでいいけどなぁ。
 混んでいる店に入れは知らない街で食事をする時の鉄則だろうが、香港は混んでいる店と空いている店の差が激しすぎる。ぶらぶらと眺めつつ興味を覚えたベトナム料理店に入る。軽く麺類か何かをと思っていただけど、メニューを見ているとついつい頼みすぎてしまう。

 ビールを頂く。食事の時に飲むのは香港についてからは初めてだなぁ。すっと飲めてしまうのでもう一本追加してしまった。

 茄汁牛腩粉。麺類を頼んだ筈なのに、さてと考え込む。

 おぅ、麺があった。美味しく頂く。

 勢いで頼んでしまった越南小食併盆。ビールのあてにと思ったのだけどちょっと遅れる。そして重い。さすがに重い。食べるのに苦労していると店の人、麺にスープを足してくれた。好意は嬉しいけど、ちょっと辛い。麺は頑張って食べきるが春巻は入らなかった。すみません。
 部屋に戻る。いい加減疲れた。シャワーを浴びて少々昨日の恥辱を続けるが、あまり集中できない。まだ寝るには早い時間だが、日本時間ならもうすぐ日付の変わる頃。結局、時差が埋まらないなぁと思いつつも、寝落ちる。