香港に一週間の始まりがやってくる。6時半過ぎ。目覚めてテレビを点けると軽快なオープニングが始まる。このオープニング、香港を象徴する音の一つだと勝手に思っている。残念なことに日曜日だけは放送がないので、到着3日目にしてようやく聞くことが出来た。
 今日でホテルはチェックアウト。つまり最終日なのだが、時間はあると思えばある。一日をめい一杯楽しむべく出かける準備をする。
 ホテルは12時まで滞在可能。その間にまずは朝食。ここも妻のリクエストがあって、金鐘まで脚を伸ばす事にしている。7時半ぐらいにはホテルを出たいとのことだったけど、少々遅れて部屋を出る。向かう先はトラムの方が便利なのだそうで、トラムでの移動となる。
 トラムは通勤客で混んでいる。めい一杯乗って来た電車を見送って次の電車にしたがやっぱり混んでいる。
 
 混んでいる電車の二階最後部に辛うじて収まり金鐘まで。自家用車に乗る人の少ない街なのでラッシュと言っても道の景色は案外と落ち着いている。さすがに中環に近付くと混みだしてきた。
 金鐘の適当な停留所でトラムを降りる。向かうのはこの辺りに何軒かある高級ホテルの一つ。そこの朝食ビュッフェがリクエストの一つ。ショッピングモールから山側へと延びるエスカレータを上がっていた先。山腹の落ち着いた所に目的地はある。一泊4〜5万円はするようなホテルで朝食だけ頂く。
 
 1ターン目は和洋中混載便で。
 
 2ターン目は印洋中となる。それと
 
 食べたくなるなる中華粥。油條を添えて。
 
 それにその場で作る麺をリクエスト。
 他にフルーツを少々、ダラダラ長々と滞在したので、食べた量の割には長居した。終わってみると10時ちょっと前。1時間半滞在した事になる。
 
 香港公園の脇から来た道、エスカレータを下って行く。降りたところはショッピングモールになっている。
 
 ちょっと探し物があって寄り道したが、探し物は見当たらず。
 帰り道は地下鉄にする。香港大学まで戻ればチェックアウトまで1時間半となるが。訳合って堅尼地城まで乗り通す。昨日地下鉄の駅を探すている間に見つけたパン屋に寄りたいそうだ。家賃高騰で記憶に頼って店を探しても見つからない事の多い昨今の香港。昨日見つけたところに行くのが一番間違いない。
 妻の買い物に付き合ったのち、ホテルに戻る。
 
 トラムの乗場に行列が出来ていてバスの方が速いかなと悩む所。しかし間もなくトラムもやって来る。ホテル最寄りの停留所まではさほどの距離ではない筈で、1階のロングシートに腰かけて、すっかり晴れ渡った香港の街の名残を惜しむ。
 
 ホテル最寄りの停留所でトラムを降りる。バスよりも若干早いぐらいだった。何となくトラムよりバスの方が圧倒的に早いような気がしていたが、案外と差が付かないものだと感心する。
 ホテルに戻る前に最後の買い物。近くのスーパーを覗いて行く。今までにまして輸入食材が幅を利かせている。日本産、韓国産。そうでなければ香港産を前面に出す品物が多い。
 
 牛乳もわざわざ輸入品。船便で来るのか航空便で運ぶのか知らないけど、隣の中国産の三倍で売っている。でも売れるんだろうなぁ。右隣は韓国産でこちらは北海道産に比べればまだ安価。
 ホテルに戻って荷造り少々。今回はスーパーでの買い物が控えめであり、案外と鞄の中身に余裕がある。とにかくチェックアウトする準備が出来る。 
 12時ちょっと前にホテルをチェックアウト。荷物はホテルに預けて午後は引き続き観光をする。空港に向かうにはまだ早い時間だ。改めて地下鉄。港島線から中環乗換荃湾線。中環では空いていた電車も金鐘と尖沙咀で満席になる。短い乗車だったが少々うとうとして、降りるべき駅、深水埗で目が覚める。
 午後の観光はちょっとマニアックな所へ。駅を出て東側へ。大通りを渡ったその先にあるのが、
 
 こんな看板。香港青年旅舎協會。ユースホステルなんだけど目的はユースホステルな訳がなく、
 
 併設されている美荷樓生活館という展示施設。美荷樓とは団地の事で、古い団地をユースホステルに改装すると共に、一部を1960年代、70年代の部屋を再現した展示施設として公開しているのがこちら。
 ちなみにこの施設、団地とデモを見に香港へ行った DailyPortalZ 2014年12月26日で紹介されていたのでじゃあ見てみようと思った次第。
 平地が少なく人が多い香港は慢性的に住宅不足で、団地は小さな部屋に大雅俗で住むのが当たり前、という住居環境だったそうだ。
 
 その劣悪な状況が
 
 だんだんと、
 
 改善されてゆく様子は見て取れる。これで20年が流れている。いずれにせよ狭いのだが、段々と生活水準が向上してゆくさまは見て取れる。
 展示施設は楽しかったのだが、案外と時間が潰れなかった。施設を後にして、さてと考えた時に現れたのが、こちら。
 
 Gardenと言うのは香港の地場の菓子メーカ。パンなんかも売っている。そこの本社ビルが にある。
 
 直販コーナーがあったり、
 
 PRの展示が合ったりする中で
 
 イートインのコーナーがあったので立ち寄ってみる。コーヒーとお菓子のセットで24HKD。
 入った時はがら空きで時折社員らしい人の出入りがあるだけだったけど、熱いコーヒーをゆっくり頂いている間に、地元の年寄りという風情のグループが二組入ってきて何か注文している。完全に地元密着、観光客とは縁のなさそうな施設である。
 地下鉄の駅に戻る。戻ったが、今度は地下鉄じゃなくて、フェリーで香港島に戻りたい。それならフェリーターミナルまではバスで行けるのがベスト。尖沙咀の天星埠頭まで行くバスがあればいいのだけど、
 
 なかなか都合の良いバスはないもの。尖沙咀東に行くバスが比較的近くまで行きそうなのでそちらを待つ。15〜30分毎、の運転らしいが、たっぷり待った。時間に余裕があるからまぁ良いかと思いつつも20分以上。やって来たバスにようやく乗れる。
 バスは旺角から 道に入る。馴染みの街を走って行く。トラムの二階から見える銅鑼湾も香港らしいが、
 
 彌敦道、九龍公園の脇、ガジュマルの樹が続く中を二階建てバスの前から眺めるのも香港らしい景色。
 尖沙咀でバスを降りる。ここからフェリーターミナルまで歩いて向かう。時刻は15時半。ここからスターフェリーで香港島へ戻る。船の乗場、
 
 すぐ脇でイベントをやっている。夜開催なのかこの時間は閉まっているが日本酒のイベントのようだ。 
 
 比較的目立つところに太平山がいる。あの「酒は天下の太平山」の太平山である。香港のランドマークとも言えるビクトリアピークを漢字表記にすると太平山になるので、偶々、偶然、意図せずに、だろうけど香港受けする日本酒と言う事になっているようだ。
 
 割と日本でも知られていないようなマイナーな蔵の酒が目立つ。逆にこんな小さな所が世界に討って出れるなら日本酒の未来は明るいのかも知れない。
 珍しいディスプレイなのか地元の人が記念写真を撮って行くのを眺めてからフェリー乗り場へ。今日は意識して二等船室を選ぶ。特に意味は無いけど、普段気が付くと一等船室に入っている事が多いもので。

 船がやって来る、と思ったらこれは別の桟橋に横付けとなる。その間に反対側から乗船便がやって来た。お客さんが降りるのと同時に乗船が始まる。平日午後のフェリーは空いている。席は自由に選べる。船は間もなく桟橋を離れる。
 
 桟橋を離れてすぐに船とすれ違う。灣仔と尖沙咀を結ぶ航路もあるはずだから、必ずしも全ての船が尖沙咀と中環を結ぶ船、と言う訳ではないが、行きかうフェリー、本当に多い。
 
 一服の清涼剤、という言葉が似つかわしいスターフェリーだが、中環側。街から遠い埋立地の先なのが何とも残念な所。バスターミナルはすぐ近くにあるから良いのだけど、中環の街に出ようとすると、だいぶ歩く事になる。だいぶ歩いて中環の繁華街。ビルの中に入ると直射日光が無くなる代わりに空調がやってきて歩くのが少し楽になる。
 
 雑多なビルの中にフィリピン製品専門みたいなフロアがあって、賑わっている。香港は本当何でも揃っている。中国大陸専門店以外なら何でもあるんじゃないかと言う気がしてきた。
 中環埠頭から1㎞少々。平地が尽きて登り坂となるところにあるスターバックスにたどり着く。ここで休憩。
 
 このスターバックス、店舗の奥が1970年代風に内装されている特別な店。前に訪れた時は割と空いていたが、今日は観光客が多いのか、70年代エリアに空席を見つけるのが大変な状況。店の中、しっかり作りこまれているのだが、その中の人たちはパソコンやらスマホやらを弄っているので、結局は2015年にしかなり得ない。
 
 コーヒーを飲みつつ1時間ほどの大休憩。スターバックスは1970年代がモチーフである。先程の美荷樓は一番新しい部屋で1970年代。この70年代って香港に取っては心地よい時代なのだろうか。日本人も昭和を懐かしく振り返るけど、あまり古い時代までは振り返らない。ある程度心地よい時代じゃないと振り返るのも辛いだろうし。
 大休憩の間に中環に夕方が迫る。街に出る。
 
 退勤らしい人もちらほらと見えるようになった。もう少し中環をふらつく。平地から山へと登るエスカレータ。道沿いにはパブがちらほらあってこの時間帯、欧米系の旅行客なのか在住の人なのか、ハッピーアワーのお酒を楽しんでいる。そんなエリアからちょっとずれたところ、
 
 警察の官舎を改装して作ったというショッピングセンターがある。この中にも昨日訪れたGODが出来ている。買うべきものは買ったつもりだが、時間が有り余っているので寄って行く。店が大ぶりな分、品揃えも豊富。昨日訪れた銅鑼湾の店舗にない商品もあってなかなか楽しめる。
 同じフロアにある香港デザインギャラリーという店舗も覗く。こちらはデザイナーが半分趣味、と言う訳ではないだろうが、そんな感じにやっているようで、尖がった品物が目立つ。結局買ってないから申し訳ないのだけど、見ていて楽しい事には変わらない。
 さて、そろそろ香港最後の食事にする。中環の山側にいるなら外せないこの店に。
 
 九記牛腩。牛バラスープの美味しい麺屋さんで日本にいても無性に食べたくなる時がある。香港に行ったら外せない物って一杯あるけど、その筆頭だ。
 毎回昼に行って長い行列に並ぶことが多いのだが、今回は初めて夕方に来た。18時半だからもう拠るというべき時間だが、案外と行列がなくてすぐに入れる。勿論相席だが、それはいつもの事だから気にしない。
 注文すると程なく麺が出てくる。
 
43HKD。また値上がった。デフレなのは日本ぐらいだから、日本の感覚で考えても仕方ないけど、為替の不利もあって、割安感はすっかり消え失せた。濃厚なスープは健在で頂けるからまた来るけど、次はいくらになっているのだろう。
 人気店だが、回転が早い。スープも麺もすぐにお腹に仕舞われる。二人合わせて86HKDを支払うまでほんの15分だった。そろそろ19時。ホテルに戻ろうかと思う。
 平地へと降りてトラムの停留所。やって来た電車はラッシュ時らしく混んでいる。電車に乗って一息つく。あれっと思う。
 
 ニスが鈍く光る窓枠。飴色の照明。明らかに普通の電車と違う。この電車、120号車は1980年代に行われた車体更新の際にそのまま残された車両。1950年代のトラムをそのままに残した貴重な存在である。特に狙った訳でないけど、偶然乗れてしまった。
 
 日常に紛れ込んだ1950年。今日は香港の歴史ばっかり追って来たような一日だったけど、この最後に本物を引き当てるとは本当に幸運だ。
 ホテルのそばまでしばし時空を超えた旅を楽しむ。空間は非日常なんだけど、繰り広げられる景色は日常。お客さん降りて、そして乗っての繰り返し。
 
 電車を降りる。広告も古い電車のイメージに合わせて当時の雰囲気になっている。実は乗る時には全く気付いていなかった。
 19時半過ぎにホテルに戻る。この後もしどこかで観光するなら夜景だろうが、さすがにビクトリアピークに行くには時間が足りない。シンフォニーオブライツには興味がない。そんな訳で少々早いけど空港に向かう。ホテルで荷物をピックアップ。
 すっかり暗くなった街を歩いて香港大学の駅へ。ここからは来た道を戻る事になる。中環で乗り換えて機場快綫へ。タイミングよく電車に乗れる。空港までは30分弱。ホテルまで1時間で到着となる。
 
 21時前の空港に到着。まだまだ出発便の多い時間だが、搭乗手続きはスムーズ。出国も並ばずに出来る。早々に出国となった。時刻はまだ21時前。飛行機の時間まで4時間ある。
 飛行機の搭乗口、まだ決まっていないので一番近くのラウンジ、キャセイパシフィックのザ・ウィングに入る。ラウンジは空いているからその間にまずシャワーを済ませる。
 
 ひと汗流した所で、ビールを頂く。ラウンジの過ごし方をしては最高かも知れない。
 
 結局、担々麺で汗をかいてしまったけど。
 ラウンジが混んで来る頃、搭乗口が36番と出ている事に気が付く。36番なら別のラウンジの方が近い。引っ越しすることにする。
 
 着いた先はキャセイパシフィック航空のラウンジ、ザ・ブリッジに。この時間、ラウンジはがら空き。余裕で座れる。先程のザ・ウィングとは雲泥の差である。暫くゆっくり。間もなく日付が変わる。