目覚めると夜が明けていた。ホテルの二階からは向かいの住宅が見えている。外は曇り空。旅先のマレーシア、ペナン島で迎える初めての朝になる。外はどうやら雨が降っているらしい。
 今日は一日、ジョージタウンで過ごす。雨なのは残念だが、照りつけられるより良いかも知れない。身支度をしてまずはホテルの朝食を頂く事にする。
 レストランは混んでいる。日本人がいるかどうかまでは分からないが各国からのお客さんで賑やかだ。

 イスラム国らしくソーセージが鳥だったりする今日の食事を頂くといったん部屋に戻る。もう一度出かけるときには雨は止んでいる。そろそろ出掛けよう。
 まずすべき事は両替。そして明後日の切符入手。それから少々ジョージタウンを観光しようかと思う。

 ホテルを出て両替屋探し。歩いてゆける所にコムタというタワービルを中心としたショッピングセンターがある。ジョージタウンのどこからも見えるランドマーク的な存在。その中に両替商があるとのことでそちらに向かう。9時半頃のコムタはまだ目覚めたばかり。あまり開いている店は無く、シャッターばかりが並んでいる。仕方ないので次の目標に移動する。両替商が並んでいるというインド人街へ。インド人街へはバスで行くことになる。幸いコムタにはバスターミナルがあるから移動は楽である。バスターミナルに出て乗り場探し。JETTYという名前のバタワースへ行く船が着く埠頭に向かうバスに乗れば良いのだが、どの乗り場から出るのか分からず、うろうろ。すると土地のお爺さんが声を掛けてくれる。Little Indeaに行きたいと伝えると、着いてこいと言われる。どうなのかなあと思いつつ付いて行くとバスターミナルの外。

 そこにはバスが2台停まっている。Jetty方面は乗り場が違うのだった。
 お爺さん、なおここで一緒に待ってくれる。Jetty行きのバスが来て、あれか?と聞くと違うと言い、次のバスが来て、また着いてこい、と。そして運転士に、「この人たちをインド人街で降ろしてくれ」と声を掛けてくれる。そして自分は乗らない。親切でここまでしてくれるのは本当に嬉しい。観光客を金づるとしか見ないような国ばかり旅行していると、こんな素朴な土地が実に嬉しく、好ましく思える。

 インド人街はここだよ、と運転士に声を掛けられて街中で降りる。一緒に降りた人があっちだよと教えてくれる。日本に帰ったら遠来の人にお返しをしようと心に決める。


 さて、インド人街。インド人女性が大きく写る看板に台音量のインド音楽。両替商がたくさんあると聞いていたが歩いてみても見つからない。右に左に探し回ってようやく一軒。クアラルンプールの空港よりはレートが良いので1万円両替しておく。1万円は368リンギになった。
 次に明後日の切符を購入。先程乗ったバスの終点。JETTYに向かうが、歩いてもさほどの距離ではないから歩く。インド人街を抜けると漢字が目立つようになる。ペナン島は華僑が多いようで、インド人街以外は漢字表記が妙に目立つ。まるで台湾かどこかに来たような錯覚を覚える。

 建物はイギリス統治時代以来と思われるクラシカルな雰囲気。いろいろな文化が混じり合った、混沌とした雰囲気がジョージタウンにはある。

 Jettyのバスターミナル。その脇に船乗場へと続く通路がある。

 その途中にKTM、マレー国鉄のオフィスがあった。営業時間は10:00ー17:00だそうだ。窓口には係員が一人いて、その人に14日にバタワーズを出るバンコクゆき36列車の切符をお願いする。アッパーかロワーか、どちらが良いか聞かれたので上下で同じ所をお願いする。37、38という切符が出てきた。値段は2枚で220リンギほど。上段は下段に比べると10リンギほど高い設定である。
 これでひとまずやるべき事はやった。それでは観光に移ろうかと思う。時刻はまもなく11時になろうとしている。朝の曇り空はどこかに消え、この時間のジョージタウン、青空が広がっている。
 Jettyのバスターミナルから歩いて右手へ。

 このあたりは小ぎれいなコロニアル調の建物が目立つ。銀行だったり、貿易会社だったり。そんな建物が街に並ぶ。

 海側は埠頭になっている。このあたりは発着するのは対岸のバタワースへ向かうフェリー。そのバタワース、フェリーで20分ほどだそうだ。香港島と九龍よりは遠いから別の街と言った方が良いかも知れない。

 白亜が青空に良く映えるビクトリア記念時計塔の先、古びた煉瓦積の壁が現れる。壁沿いに歩くと、これまた古びた真鍮の砲の列。ここイギリスが築いたコーンウォリス要塞。

 一際大きい砲門が海を狙っている。
 折角なので中を見学。

 ささやかな堀に掛かる橋を渡るとこれまたささやかな城門。城門に入ったところに受付がありここで入場料10リンギを払う。中は広々とした広場。でも日本の著名な城に比べるとささやかなものかも知れない。いい加減暑くなってきていて、ついつい

 こんな所で休憩となる。ジュース2リンギ、ビール8リンギ、ビールが余りに高いので、コーラで喉を潤す。
 テーブルの上にココナツが置いてある。よく見ると上がココナツの木。落ちてきたらしい。こんな所で籠城なら楽だろうなぁと詰まらない事を考える。

 改めて先程の砲門を眺める。この砲門をさわると安産になるそうで、なんて事がガイドブックに書いていた事に後になってから気が付いた。何で安産なのだろう。

 兵舎らしい建物。これはベトンなので後の建物だろうか。中は、

 ベットですかねぇ。炎天下にさらされているが、日さえ遮れば涼しいのでまぁ何とか過ごせそうだ。

 要塞自体はそんなに大きくはない。天然の要害でもなさそうだし、日本の城の方がよほど立派に見えるが、それでも一周する。街側の土盛り、一部がくり抜かれている。砲撃から身を寄せるためだろうか。その中が今はちょっとした展示ゾーンになっている。中には第二次世界大戦、日本軍のマレー侵攻なんて展示もある。どこの国も無かった事にはしてくれない。それでも現代のマレー人、おしなべて親切である。
 コーンウォリス要塞の見学を終えて、ライト通りに出る。ここからそのままライト通りをゆくと高等裁判所、ペナン博物館を経て、イーストオリエンタルホテルと英国統治に建てられたコロニアル建物群が続く。途中を曲がり、マスジット・カピタン・クリン通りに出ると今度はいろいろな寺院が続く。

 今日は高等裁判所の角を曲がって進む。その先にまず見えるのは

 セント・ジョージ教会。白亜の建物が青空に良く映える。木陰に入って芝生に座り込みしばらく眺める。本家のイギリスなら曇天の下だろうが、白亜はやっぱり青空の方が映えるようだ。
 もう少し歩くとすぐに雰囲気が変わる。先程のLittle Indeaにほど近いところ。両替商が並んでいる。Little Indeaの両替商とはここの事だったか。
 しかしこの辺りはどちらかというと中華街の様相。いや、ジョージタウン自体がでっかい中華街で、至る所に漢字の看板があるのだが。

 そんな中に観音寺という中華寺院がある。この暑い最中でも熱心に線香を上げる人が目立つ。線香は香港の黄大仙で見たような長くて太いもの。文化的には全く同じような匂いがする。
 もう少し歩く。まもなく車道を挟んで向こう側に見えてくるのは

 マハ・マリアマン寺院。ヒンズー教の寺院になる。車道を挟んでちらっと眺めただけで、次。今度は車道のこちら側になる。現れたのは

 カピタン・クリン・モスク。つまり、通りの名になっているモスクである。堂々とした建物がどんとそびえる。こちらを見学してゆこうかと思う。
 モスク内、肌を見せるのはNGで、異教徒の女性はだいたいそうだが、モスクを見学する際はヒジャブの着用を求められる。当然、手持ちなんてあるわけないけど、貸し出し用に何着も準備があるので何にも問題はない。ちなみに足を出した男性もNG。ヒジャブの着用を求められる。
 スカーフまでは被らなくても良いみたいだけど準備はある。妻はヒジャブにスカーフまで被ってにわかムスリムに。

 モスクの中は写真OK。でも異教徒は絨毯のあるところまでは入っては行けないらしい。それを知らずに足を踏み入れてしまい、係りの人に注意される。笑いながらだったけど。マレーシアのムスリムは異教徒に寛容だ。ちなみに次の見学客には入っちゃ行けないと先に注意していた様子。
 薄暗いモスクの中は真夏の一番暑い時間でも涼しげ。何人か所在投げに座っていた。
 そろそろ13時になる。いい加減お昼ご飯にしようかと思う。最初は何となく今いるところから少し歩いたシントラ通りにある飲茶の店、なんて話になる。シントラ通り、100年前は日本人街だったそうだが、今はすっかり華僑の街。
 目的の店。昼間のこの時間は閉店。周りを見てもあんまり開いている店は無く、結局「肉粽」という看板を出した店に入る。

 一つ6.5MRY。つい先程までモスクにいたのに、その直後に中華の惣菜、しかも豚肉なんぞを食べている。
 こちらとしては二つ頼んだつもりだったけど、請求されたのは一個分の値段。もう一個分お金を払ったら、持ち帰り用を1個渡された。何か良く分からないが、この一個はホテルで食べよう。
 お昼にこれでは足りないし、喉も渇いている。もう一軒、お茶でもとぷらぷら。
 辺りは外国人が経営しているらしいゲストハウス兼カフェがいくつかある。マレーシア人の店だとカフェはマレーシア語でKAFEと書く。不思議な綴りだが、マレーシア語はいわばローマ字みたいなものなので、バスはBASだったりするし、カフェはKAFEになる。でも外国人が経営しているとカフェはあくまでCAFEと出ている。

 ビールがあったのでつい頼んでしまう。Tigerの大瓶、15リンギもする。約450円だから日本の居酒屋並みである。マレーシアはあくまでイスラム国家なので、お酒には少々厳しい。以前訪れたクアラルンプールではコンビニエンスストアにビールが無かった。華僑の多いジョージタウンはお酒事情、だいぶ楽であるが、値段はかなり高めである。

 春巻をあてに頂く。こちらは5リンギだったかな。先程の肉粽と合せて、これでようやくお昼ご飯を食べた、という気になる。
 いい加減、暑い午後になっている。この調子で歩き回るのは辛く、この後は妻の買い物時間に切り替える。

 ジョージタウンのどこからでも見えるコムタのショッピングモールに向かうことにする。
 大通りに出てバス停へ。コムタまではさほどの距離ではないらしいのだが、バスを待つ。ジョージタウンには先程乗った路線バスの他に中心地を循環するCATという名のバスがある。料金は無料。20分毎の運転らしいのだが時刻は表示されていないから何となく待つことになる。

 5分ぐらいでやって来た。外観は路線バスと一緒だが、系統番号があるところにはFREEの文字。そして乗車口には運賃箱が無かった。車内は座れない程度の混雑。数分でタワーの横、先程のバスターミナルに到着。CATの乗り場は最初に悩んだターミナルでも親切なお爺さんに案内されたJETTYゆきの乗り場でもなく、また別の道路脇である。これでまた一つ、ジョージタウンのバス事情に知識が増える。
 コムタのショッピングセンター。ジョージタウンのどこからでも見えるタワー部分ではなく、その横にある。

 先程来眺めてきた街と打って変わった雰囲気となる。こちらで妻は靴探し。ゴムを産するマレーシアは靴が安いのだそうだ。二軒、三軒と廻って、二足お買い上げになる。
 荷物も増えたのでいったんホテルに戻る。コムタからホテルはさほどの距離ではないが、暑い最中の移動。すっかり疲れてしまった。ホテルに戻るとベットにごろり。そのまま本格的に寝てしまう。
 目覚めると夕方だった。本格的に寝入ってしまい、頭の芯がまだ眠いが何とか起きる。夕方はもう少し買い物。今度は靴ではなく、スーパーに行って日用品、お土産、自宅用の色々なものとなる。 
 ホテルの外に出る。暑さが緩み、だいぶ楽になっている。スーパーに行く前に妻が行ってみたいというエッグタルトの店に足を伸ばす。

 漢字だらけの看板を見ていると、香港あたりに迷い込んだ気分になる。
 お目当ての品は売り切れだそうで、普通のエッグタルトを買ってお持ち帰り。こちらもホテルの部屋で食べることになる。
 さて今度はスーパーへ。先程のコムタのすぐ近くなので少々歩くことになる。コムタの近くの交差点を右に折れるとそこにあるのはGAMAというスーパー。地上5階建てぐらいだろうか。見た目には日本の総合スーパーそっくりに見える。


 スーパーのキャラクターらしいが、きちんとムスリムをしているのが土地柄。
 1階が食料品売り場でそちらをぶらぶら。日本産コーナーが充実していて、間違ってない日本語。きちんとした日本メーカの品物が並んでいる。他のコーナーには間違った日本語の食料品もあったけど。
 肉売り場が二つあって一つはHalal、もう一つはNon Halalなんてのも土地柄だなぁと思う。ちなみにHalalコーナーは鶏肉しかなかった。そういえばお米はほぼタイ産。
 二階から上は衣類や雑貨の売り場。食料品売り場に比べると閑散としていて、この辺りは日本の総合スーパーとそっくりだったりする。一番上の階でハンガーをいくつか購入。これは後ほど役に立つことになる。
 荷物をいったん置きに戻る。改めて夕食を食べに出かける。

 日も暮れて涼しくなって来た。昼間は寝ていたような街も賑やかになってきた。先程買い物に訪れたGAMAの近くに戻って、今日頂くのはナシカンダール。

 ご飯の上に、好きなおかずやカレーをいくつか掛けて貰う、一種のぶっかけご飯ですね。マレーシアの国民食、フライドチキンにカレーを二種類選んで8リンギほど。ご飯は勿論、インディカ米。
 これだけだと難なので、ホテルに戻る途中、賑やかな屋台に寄り道。

 テーブル席がずらっと並び、その周りに屋台が10軒少々。道端に出現したフードコートの体である。1ドリンク頼んで、後は好きな屋台から食べ物を買い求めるのがこちらの流儀。食べ物は屋台に頼むとテーブルまで届けてもらえる。

 ビールは相変わらず高い。14リンギで大瓶一本。

 そして頼んだサテーが届く。こちらは1本1リンギ。大瓶一本を飲み干すのにちょうどいい感じである。
 軽く1本飲んでホテルに戻る事にしたが、屋台はというよりジョージタウンの街はこれからいよいよ賑やかになる様子。昼が静かな分、宵っ張りなのである。