昨日はよく寝た。昼寝をしたのに普段と同じ時間に寝て、今朝は7時半まで。

 この時間の札幌。曇り空の切れ目に青空が広がっている。予報では北海道も今日は雨になるそうだが、どうなるだろうか。
 札幌のホテルは今日でチェックアウト。荷物をまとめつつ、身支度。朝食を外で食べようと9時頃いったん外に出る。今朝は妻が行きたいと言うスイーツの店。

 普通のモーニングセットはクロワッサンに半熟卵、サラダとコーヒー。それと別にスイーツのセットはオムパフェというスポンジケーキでくるんだパフェとコーヒーのセット。どちらも¥490。北海道価格にしては高いなぁと思うけど、内容の充実ぶりを考えると立派なもの。

 地元客半分、観光客半分と言った店内でゆっくり朝食を頂く間に街は雨が落ち始める。ポツポツではあるが、傘を部屋に置いて来てしまったから、戻るときは雨に濡れて歩く事になる。
 ホテルの滞在は11時まで。そして今日はこの後、移動を控えている。
夫婦して旅行は趣味の一つなのだが、興味関心が完全に一致する訳ではない。譲る所は譲り、主張する所を主張し、お互いの興味に敬意を払いながら行程を選んで行くわけだけど、今日はそれを端的に体現する事になる。
移動は列車で。11時40分の出発。ちょっと早い目にホテルを発ち、駅へと向かう。少々買い物。そして窓口で切符を購入。今日は道央圏で普通列車が乗り放題になる一日散歩きっぷを使って移動する。まず乗るのは岩見沢までの区間快速列車。

 少々早く着いたのでホームで列車の到着を待つ。目の前には札沼線のキハ141がいる。言わずと知れた50系客車からの気動車改造と言う稀有な経歴の持ち主。他の50系客車が悉く薄命に終わった中で、車齢30年以上を刻んでこれた幸せ者である。
 とは言え、札沼線もこの6月に電化だそうで。目の前の車両がその後どうなるのかは分からないけど、札幌駅に発着する元50系を眺めるのはこれが最後になるかも知れない。

 キハ141の出発を見送るとまもなく、目的の列車がやってくる。721系の3連。転換クロスの座席がさらりと埋まるほどの乗車。隣のホームから出る快速エアポートの方が混んでいる。4連休の初日だけにこれから出掛ける人、多いに違いない。
 快速同士、同時発車の筈が、新千歳空港行きの方が一足先に出発。結局逃げられた。札幌郊外へと歩みを進める。空は曇り空で冴えない景色の中を15分も走ると、畑が大きく広がる、そんな北海道らしい景色となる。

 岩見沢まで40分弱。ここで乗り換えとなる。次に乗るのは滝川行き。今度は711系になった。ボックスに一人二人と言った感じで席が埋まる。

 北海道らしい二重窓のクルマ。内側の窓も閉められており、まだまだ耐寒仕様で運用中。札幌を20分遅れて出発した特急に抜かれるとこちらも出発時刻が近付く。
 列車が動き出す。所々、雪捨て場だろうか。山積みになった雪が残っている様子が見える。今年は雪解けが遅かったようで、ついこの間、連休前に雪解け水の影響で土砂崩れ、というニュースがあったりする。

 二重窓の向こうに広がる曇り空。そして雪山。まだまだ冬のような景色の中を、東に向かう。

 砂川で列車を降りる。今日最初の目的地は、駅から少々離れたところ。バスの便もあるが少々間が空くので、タクシーを使ってしまう。

 国道を走ることしばし、メーターが上がり始める頃に目的地に到着。観光スポットらしく自家用車の駐車待ちがある中を、真ん前までつけてくれた。

 着いたのは北菓楼の本店。
 北海道のデパート、空港、果ては千歳のサクララウンジでもお馴染みの北菓楼。本店は炭坑の街であった砂川にある。札幌の各デパートに出店しているから漠然と札幌の店だと思っていたのだけど、冴えない元炭坑街、砂川の店と知って本当に驚いた。砂川にはメロンゼリーやとうきびチョコのホリも拠点を構えており、砂川市の観光案内には「砂川スイートロード」の文字も踊る。ついでに言うと隣の滝川にはジンギスカンの雄、松尾ジンギスカンの本店があったりするから北海道の地方都市、なかなか侮れない。

 北菓楼の本店、喫茶室が併設されている。オムレツが素晴らしそうだが、今日は売り切れ。喫茶室自体も順番待ちで、名前を書いて呼ばれる前に買い物を済ませておく。店は混んでいる。さすがにゴールデンウィーク。北海道の感覚では3日からの4連休という捉え方のようで、イベントの案内もテレビニュースも今日から連休という風情である。つまり連休初日。賑やいで当然である。
 30分少々で順番が来て案内される。パスタとカレーの中からパスタを選ぶ。200円でコーヒーとケーキが付くからそちらも合わせて。

 パスタが運ばれてくる。野菜たっぷりのミートソースは自分で作るものより圧倒的に美味しい。中でもナスの存在感は見事。でも時期的に言ってナスの季節じゃないよなぁ。

 舌に乗せると溶けそうなケーキで締める。この200円はそれ以上に価値ある200円だとつくづく思う。
 到着して1時間少々。荷物が重くなり、お腹も重くなったところで駅に向かう。今度はバス。砂川と滝川の間は1時間に2本程度のバス便がある。先程、来る時はバスがちょうど良い時間に無かったものでタクシーを活用した。喫茶室の待ち時間を考えると、それで正解だったようだ。


 天気は悪いし昨日より寒いが、砂川も春。水仙の花が咲いている。バス停までは数分程度。そして時刻表の時刻通りにバスが現れた。

 砂川から滝川を経て芦別まで行くバスに乗る。乗客は数人程度。人家の途切れない国道を走るといつの間にか滝川市内に入る。15分程で滝川駅隣の滝川バスターミナルまで運ばれた。

 ここから汽車の旅に戻る。今度乗るのは根室本線。15:23に滝川を出る新得行きである。
 まだ30分ほど時間があるが、新得までゆく列車は9:37の次が15:23で6時間開いている。6時間を思えば30分は大した時間ではない。

 滝川には駅そばのスタンドがある。こんな所の蕎麦を食べる機会はそうそう無いだろうと食べてみる。ここの駅そば、写真撮影禁止だそうだ。たかが駅そばで、と言っては失礼かもしれないが、正直驚く。天ぷらそばを食べたが、写真はないので文章で書く。麺はそこそこに噛み応えがある。コシとは言わない気がする。出汁は黒くてしょっぱい。典型的な関東スタンダード。そして天ぷらはかなりがっかりの類。
 北海道は列車別改札で案内があってから改札口へというのが基本なのだが、滝川の駅、自動改札になっているから案内と関係なく改札を通れる。一応、「ただいまから旭川行き特急スーパーカムイの改札を始めます」なんて自動放送が入るけど、案内がないから改札口で通せんぼ、なんて事はなかった。

 これから乗る新得行きをホームで待つ。改札すぐ前の1番線で列車を待っているとどこからともなく人が集まる。地元客7割、観光客3割だろうか。鉄道好きという風情の人も数人。そして、側線にいた気動車旭川側へと動いた後、ホームに入ってくる。これが新得行きの普通列車となる。1両の気動車、ボックスがほぼ埋まる程度の混雑。

今度の列車も二重窓だが、内側の窓は開けられている。
 出発時刻が近づいたが、遅れている特急の接続待ちとの事で発車が遅れる。北海道の列車、石勝線で昨年起きた事故の影響で減速運転を行っていて、全体的に数分遅れが常態化しているようだ。遅れてきた特急から数人、乗換客を受けてこちらも発車となる。全部で40人ぐらいは乗っているだろうか。前の列車から2時間近く間隔が開いている事もあろうが、先程乗ったバスに比べると良く利用されている。
 非力なキハ40がゆっくりとカーブを行く。妻が「マレー鉄道みたい」と仰る。こちらの発想には到底出てこない思考なのではっとする。確かにゆっくりと動き出す様はそっくりかも知れない。マレー鉄道はゴムのプランテーションの中を行くが、根室本線の序章は元炭鉱地帯を走る。根室本線に炭坑線のイメージは無いのだけど、歌志内線と丘陵一つ挟んだだけで、この辺りも炭鉱地帯。

 赤平や芦別は80年代後半、国鉄分割民営化の直後まで現役の炭坑であったから、駅は広大で、使われなくなった貨物側線が残っている。国鉄時代にやめてしまった所であれば、余剰財産として国鉄精算事業団に移管され、売却されたところだろうが、JRに残ってまもなく余剰化した土地。荒れるに任せるまま放置され、線路の間には白樺の木すら生えている。もう20年もすれば、ここは白樺の林になるのかも知れない。
 上芦別までに数人の下車。特急からの乗継客の中にも降りる人がいる。列車は山間へと進んで行く。所々流れるエソヤマザクラの花は膨らみ掛けたままフリーズ状態。昨日咲そびれた花が開く暖かさはこの連休中にはこないらしい。
 暗い曇り空。それでも雨は降り出さないまま、列車はさらに山間へと進む。空知川を遡り、ゆっくりと進んで行く。

 上り列車とすれ違う。向こうの方が空いている。

 ダム湖に沈んだ谷間を避けるように長いトンネルを抜け、空知川を渡ると富良野の街にさしかかる。滝川から1時間。何か都会に来たような気分になる。

 列車はここで15分停車。妻と交代で改札の外に出てみた。

 ホームを飾るへそ踊りの人形。「北の国から」やラベンダーで観光地になる前の富良野の目玉だったが、今はどうなのだろう。へそ踊り推しは聞かないが、今も律儀に観光客を迎える。

 駅前の光景は冬そのもの。何だか薄ら寒さも感じる。

 売店にメロンゼリーのやたらでかい物が売っていて衝動買い。これで¥315。後で二人で分けてみた。味が単調で一人で食べると飽きるかもしれない。

 15分の間にお客さんが入れ替わる。富良野に買い出しに来てさらに奥へと帰るお客さんで、やっぱりボックスに1〜2人と言ったところ。隣のボックスに座ったおばさん二人組。会話が聞き取れない。所々分かる言葉はあるのだが、意外なほど方言が難解。
 1両の列車はさらに薄暗くなった空知川の谷間を淡々と掛け登る。富良野から3駅、4駅進むと一人、二人と降りて行くようになる。どこも駅前もささやかな市街地が広がるだけの死んだような街。何かまとまった買い物はやはり富良野まで出ないと難しいようで、クルマを持たない人には鉄道が生命線であろう事は容易に想像出来そうだ。

 金山で2度目のすれ違い。相手は相変わらずの1両編成。

 金山のダム湖が車窓を流れる。晴れていれば素敵な景色かも知れないが、曇り空、暗くなりつつある夕方の時間帯では景色も冴えない。
 幾寅まで来る。まとまった数のお客さんが降りて行き、車内が空く。終着の新得まではあと二駅。

 そして石狩側の最後の駅、落合で列車は呼吸を整える。そして列車は一つ二つ、トンネルを抜けた後、新狩勝トンネルへと吸い込まれる。まもなく暗闇の中にレールが現れ、石勝線と合流。列車の速度が上がる。トンネルの中、タタンタタンとリズミカルにレールの継目を刻んで行く。

 十勝側に抜ける。辺りは真っ白。速度が緩む。霧の影響で減速運転をしているとの事。運転士の案内が入る。まるうで視界が利かず、これでは減速も仕方ない。
 峠を下ると次第に霧も晴れて行き、速度が上がる。そして終着、新得駅。少々の遅延で到着。
 一日散歩きっぷの有効範囲は新得まで。この先は使えないので切符を買い足す。帯広までは¥810。滝川のベンチで見かけたカップルは1番線に入ってきた札幌行きの特急へと乗り換えた。この列車は新夕張にも停まるから特例として新得新夕張の間は一日散歩きっぷだけで特急に乗れる。そのまま札幌方面へと戻るのか、トマム辺りまで行くのか。
 帯広方面へは普通列車が連絡。先程の列車で見かけたお客さんが数人ほど。新得からのお客さんは数人だろうか。新得の出発は18:26、帯広までは1時間ちょっと掛かって19:30の到着となる。札幌から8時間の移動。途中観光付き。改めて書くと今日の移動は費用と時間と観光を秤に掛けて色々と迷った。特急なら2時間半で到着。もちろん高速バスという選択肢もある。そんな中で一日散歩きっぷで費用を安くあげ、かつ、観光要素を入れる。さらに観光地として、例えば富良野を考える、或いはトマムを考えると言った中から、砂川の北菓楼に行き着いたのは妻と自分のキャッチボールの中からの選択。まぁクルマ無しで動く北海道としては悪くなかったのではないかと思う。
 列車は暗闇を走る。一駅毎にお客さんが乗ってくるのはなんだかんだ言って帯広の吸引力。新得までの区間とだいぶ雰囲気が変わっている。芽室で12分停まって特急に抜かれるのも、何か別人になった感がある。
 帯広の市街地に差し掛かり、高架に上がる。夜でも街が広がっているのが良く分かり、本当に都会に来た気分。そして帯広には定刻の到着。

 さすがに最後は少々だれた。19時半。今日は帯広のホテルに泊まる。列車を乗り継ぐ一人旅ならまぁ常識の範囲であるけど、妻を連れての二人旅だとちょっと遅めの到着時刻。

 この時間の帯広。湿っぽいが路面は乾いている。駅の近くはホテルばかりだが、その中の一軒にチェックイン。連休のまっただ中だけに混んでいるようだ。「明日の朝食は大変混雑が予想されますので時間に余裕をもってご利用ください」との事。
 ホテルに荷物を置くと20時。外に食事に行くことにする。特に決めていなかったけど、ホテルに置いていたおすすめの店というチラシの中から一軒を選択する。鳥のお店。帯広地場のチェーン店らしい。店は混んでいてカウンターに案内された。

 たまたま置いていた地元紙のトップ記事が「居酒屋ひしめく」の文字。何かのんびりしているなぁと思う。



 串で頂いたり、唐揚げを頂いたり、美味しいのだが、カウンターに立つマスターの凄みに居たたまれなくなる。どこかのテーブルから声が掛かる度にどの店員が反応するよりも前に「5番さん呼んでるよ」とか。仕事は出来る人なのだろうが、カウンタにいるとその勢いを受け止めきれない。
 かなり早い目に退散。まだ何となくホテルに戻るには早い気がしたので何となくラーメン屋に寄ってみる。駅近くの繁華街、適当な店に入る。

 飲み足りない気分だったが、ビールがサッポロじゃなかったから回避。根室の日本酒、北の勝があったので飲んでみる。何故か焼酎の銘柄が書かれたグラスに注がれて出てきた。

 醤油、塩、味噌、豚骨となんでも有る店で正直選択に失敗した感が漂っていたのだけど、覚悟していたよりは食べられるラーメンだったのでまぁ安心。もっともお勧めはしないけど。後でホテルの部屋でチラシを見たけどこの店は載っていない。
 部屋に戻ると21時半過ぎ。ニュースは関東と東北の大雨を告げている。雨から逃げ回っている連休後半の旅だが、明日はいよいよ捕まるらしい。