グリーン車で巡る銚子

 4時半ごろ、妻が先に起きだした筈だが気付かなかった。半分起こされたような感じになったのが5時。もう少し寝ていようかとも思ったが気を変えて起きることにする。せっかく5時に覚醒しかけたのに寝てしまっては勿体ない。
 今週末、妻は母娘で旅行に出掛ける。母と娘と言うのはどこの家でも仲が良いものらしい。実際にはそんな単純に言って良いのかどうかはあるけど、概ねそう見える。実家の母親も妹と二人で何度か旅行に出掛けている。
 父と息子の組み合わせでも別に良いと思うのだけど、そういう機会は今のところない。誘ってみても良いかなあとは思うのだけど。
 そんな訳で週末、自分は留守番だが、18きっぷが一枚残っている。それを使って小旅行でもしてこようかと思っている。一緒に家を出て南太田へ。京急線

 11運用816編成から二人で都内に出る。スカイライナーで空港に向かう妻と日暮里まで。自分は18きっぷが無いとちょっと行き辛い銚子電鉄を見に行こうかと思う。そこでちょうどやってきた常磐線の電車へ。我孫子からの成田線廻りで銚子に入り込んでみようかと思う。我孫子からの成田線、こんな機会でも無いと乗る事はない。
 常磐線で30分弱。我孫子に着く。7:27という電車に乗ればと思っていたが目の前には1本前、7:05と言う電車がいるから乗ってしまう。東京標準みたいな顔つきのE231系がここにもいる。成田線なんてまだ103系が走っていても全く違和感が無いのだけど、これも時代だ。
 住宅の建ち並ぶエリアも数駅で途切れて濃い緑色の景色が流れるようになる。駅に着くとそれなりにお客さんが乗ってくるから全くの田舎では無い不思議な電車だ。

 単線なので列車行き違いで停車。ローカルな雰囲気の駅に10両編成の通勤電車が入ってくるのはどこか不思議だ。
 車窓に田圃が現れる。実りの9月。黄金色の大地を通勤電車は駆け抜ける。そんな中を真新しい高架が貫いている。スカイアクセスの線路だ。成田湯川の駅らしいものが見えたが、こんな何も無いところに駅だけ出来たのか。
 成田到着。ここで乗り換えとなる。乗り換えの案内放送。千葉東京方面を丁寧に案内した後、成田空港ゆきの案内。銚子行きは最後に一言加えられただけだ。8:18、30分程時間がある。おそらく最初に予定していた電車だろう。まあ、いい。
 銚子行きの電車を拾う。211系や209系が幅を利かせている房総地区だが、待っていたのは113系。ボックスがいくつも空いていてその一つに座る。さほど混雑しないまま、発車時間となった。銚子まではこの先1時間半掛かる。ずいぶんと遅いが、一駅目でまず待ち合わせ。

 また二駅進んで待ち合わせ。停車時間が長いのである。
 空いている電車が佐原で一際空いた。日の当たらない側のボックスに一人ずつ人影が見える程度だからとんでもなく空いている。

 また待ち合わせでしばらく停車。
 銚子に近づくにつれて多少はお客さんを集めたけど、その程度で銚子に着く。

 銚子電鉄の発車は2分後。着いたホームのその先にグリーン車の姿が見える。いきなりだったから面喰らった気分で乗り込む。窓が全開でまた驚く。冷房が付いているのに使っていないのだ。電力事情が許さないのだろうが、こんな例、珍しいのではないだろうか。キハ28のいない時のキハ58ぐらいしか思い至らない。後は一時期の地下鉄乗り入れ車か。他にもあるのだろうが、自分は知らない。
 2両つないだ電車。濃いエンジ色のモケットは京王帝都の雰囲気をどこか漂わせている。まあこの車両が京王線を走っていた頃は自分自分は知らないのだが、5000系の雰囲気に通じるものがあるので、何とか分かる。伊予鉄時代にあったLED表示器がなくなっている分、むしろ京王帝都の頃に近いのかな、とも思う。
 車内は空いている。1両で十分な程度の乗客しかいない。車掌が来たので一日乗車券を買い求める。周りの人は普通乗車券の方が多い。観光客が少ないなぁと思う。18きっぷが使える最後の週末だから混んでいるだろうと勝手に想像していたのだけど、銚子電鉄、大丈夫かなぁと心配になる。まもなく発車時刻。電車が動き出す。
 動き出すと心地よい風が全開窓から吹き込んでくる。これならば冷房は要らない。天気概況を見ていると銚子の気温は31℃とか32℃とか関東近郊でも断トツに低い。海に囲まれている分、他の街から運ばれてくる熱気がないのだろうと勝手に想像しているが、ちょっとした避暑地気分になれる。
 仲ノ町の駅に元2000系の片割れ、2002ー2502編成がいる。今日走りを撮れるのはグリーンに塗られた2001ー2501編成だけのようだ。もう一運用ある筈だが、元営団車が走っているのだろう。

 どこまで行こうか少々考え、すれ違い駅である笠上黒生で下車。向こうから1002編成が単行でやってくる。鉄子の旅塗装車と並んで各々が発車するのを見送ってから、駅をでる。どこか駅間で写真を撮ろう。適当に歩き出す。
 外川の方へ向かって歩く。道路が線路と離れてゆくので途中で右へと折れると西海鹿島の駅に出てしまった。もう一駅来たのか。この近くで撮れないかと思ったがちょっと難しく、もう少し先へと歩く。また線路と道路が離れる。太陽の関係を見ると外川に向かって右側に立ちたいが、線路を渡れる踏切がない。どこかで渡れないかと歩いていると現れたのは海鹿島の駅。二駅来てしまったのか。
 ようやく右側に渡れて少し戻る形を取る。納得はいかないが、ひとまず場所だけ決めて先ほどの電車が戻ってくるのを待った。

 畑の中、2001が顔を出した。

 2501側。この顔でグリーン車。当初、5000系も在来のグリーン塗装となる方向で検討が進められていたような話、鉄道ファン誌の京王5000系特集だったか鉄道ピクトリアル誌の京王増刊だったか忘れたけど、どこかで読んだ記憶がある。まさか46年を経て2010年に現実になるとは誰も思わなかっただろうなぁ。
 余談ながら5000系がグリーン車で登場したなら、6000系グリーン車になっていたなんて想像も出来なくはない。もはや妄想の世界だが、そうしたら2010年の京王線はどんな光景になっていただろうか。正面グリーン塗装の京王9000。想像してみる。

 元営団車がやってくるのを眺めてから駅へと戻る。海鹿島の駅でも西海鹿島の駅でもいいのだが、笠上黒生の駅まで引き返した。先ほどの折り返し電車を撮ってから、もう少し奥まで入り込もうと思う。一駅半戻る訳だが、字面ほど大変ではない。15分少々で振り出しに戻る事になる。

 先ほどは遠目に眺めた5000系風2000系グリーン車を今度は間近に眺める。交換待ちの間に再び乗車。今度はまあまあ乗っている。1時間経って観光客、銚子にたどり着いた人が増えたに違いない。先ほど歩いた道が車窓を流れてゆく。次は犬吠で下車。観光客のほとんどもここまでである。

 湘南顔を見送ってから外にでる。写真は撮りづらいなあ。ひとまず一日乗車券の特典、

濡れ煎餅の交換をしておいてその場で食べる。これの為に犬吠でおりたような形になった。先ほどの電車が引き返してきたので乗ってしまう。今度は一駅、君ヶ浜で下車。ホームから望遠で遠ざかる電車を撮ってみた。

 キャベツ畑、端境期で白々とした土が広がっている。青い時期ならもう少し絵になるかも知れないなぁと思いながら電車を見送る。
 ちょっと歩くと海に出れるらしいがいい加減日差しが厳しい。バブル期に出来た観光駅舎が経営難で放置されているから、何か廃墟のような駅で次の電車を待つことになる。
 外川行き電車に乗りこむ。どうするかは決めていないが犬吠で降りても仕方ないから、終点の外川まで行くのだろう。
 今度の電車は観光客多数。1両だからかも知れないが初めて、盛況と言う言葉を使いたくなる状況となる。その半分以上は犬吠で下車。残ったのは、カメラを持った人たちが殆ど。残り一駅、外川へと運ばれる。

 ここは昔ながらの駅舎が大事にされている。

 奥には2000系の入線で職を失った在来車が留置。放置になるのかも知れないが、今のところはどっち付かずだ。

 さらにトロッコ車も留置。蜘蛛の巣が張っているぐらいだから、これは放置になるのだろう。観光資源になるような気がするのだけど、うまく行かないんですかねえ。
 さて。いい加減湘南顔を順光で撮りたい。犬吠の辺りはしばらく無理そうだが、観音か本銚子ならと考えて戻ってみる。犬吠からまた観光客多数。ボランティアのガイドも乗ってきて車窓の案内を始めた。先ほどの君ヶ浜の駅には駅猫がいるそうだ。自分が降りたときには居なかったがこの暑さで日陰に隠れているとのこと。なるほど。
 切り通しの本銚子。カメラ好きの人はいい写真撮れますよと案内。降りようとするといい写真撮ってくださいねと声を掛けられる。ありがたいがひとまず坂を下って銚子の街。昼飯を志す。何となく寿司でもと思っていたら寿司屋が一軒、迷うことなく入ってしまう。
 メニューを見ると上握りすしが¥1,300で特上だと¥1,600。犬吠駅そばの観光客向けの店だと¥2,100だった記憶がある。特上と上は何が違うのと聞くと1貫増えて巻物が付くとのこと。じゃぁと特上を注文。そして、サッポロのポスターがあったから生ビールも注文してしまう。

 どこから来たの?の質問があったりして二言三言。日帰りだと言うとバスが安くて早いよと進められた。東京駅八重洲口まで¥2,500。でも18きっぷ持っているからなぁ。一応事情は話しておく。
 流れで銚子電鉄を撮りに来た話になる。主人によると新車が入ってこの間は大阪から撮りに来た人がいたそうだ。そんな有名ですかねぇなんて呟くから「みんな知ってますよ」と答える。一連の騒動には触れないが、有名になった事は間違いない。
「でも乗らないからなぁ」
 予想の範疇ではあるがやはり考えさせられる一言である。銚子電鉄だけでなく、総武本線も最早地元の眼中にはない。極めて重たい事実である。

 寿司が出てくる。まぁまぁかなぁ。おまけで付けてくれた真タコが美味しい。今朝揚がったばかりのタコだそうで。結局魚は鮮度が命、なんだろうなぁ。寿司ネタの全てをベストの鮮度で揃えるには、ある程度の集客規模か相当なお金がいるんだろうなあ。
 空いていたし食べるのは早いから本銚子の駅に戻ると30分経っていない。次の電車、2000系である。

 切り通しの濃い緑のなか、グリーン車2000がやってくる。まぁ、いい写真が撮れたかも、知れない。
 一日乗車券を生かして一駅、観音。たい焼き屋に駅が併設されたような所だが、たい焼きと一緒に割れ濡れ煎餅のパックも売っている。観光客向けの犬吠駅には無い商品。自宅で食べる分ならこのパックで十分である。一袋、自宅用に買ってから今度は一駅歩いてみる。仲ノ町まで。暑いが銚子電鉄の一駅、大したことは無いからすぐに着く。
 仲ノ町には車庫があり、入場券を買えば中を見せてくれる。中に入らなくてもそれなりに写真は撮れそうだが折角なのでお金を払って中を見せてもらう。

 車庫に入る前に、銚子へと流れ着いた2本の2000系が並ぶのを撮っておく。こうして見ると左の2000系はいわゆる偽新車に見えなくは無い。



 車庫の奥には引退した旧型車がそのまま佇む。狭い所だし置いておけないとは思うが、解体する費用を捻出するのも大変なのだろう。大畑のキハ22みたいに動態保存出来れば楽しいだろうが、お金の問題、熱意の問題。ハードルは果てしなく高い。

駅の待合室に戻る。窓口の横。販売中、販売終了のグッズ類の展示に混じって、なぜか「府中競馬正門前」の行き先幕が展示。
 そろそろ引き上げ時かなと思い始めるが、最後にもう一回、グリーン車を撮りたい。今日半日、一通りなめ回した銚子電鉄の中で一番絵になった本銚子の切り通しにもう一度行ってみる。

 同じような絵になったけど、今日は満足した。写真は少し引き気味のものを乗せておく。
 本銚子の駅にあった時刻表。今から乗る電車が13:38に銚子に着くがJRの普通列車は13:37に出てしまう事が書いている。まさか、そんな意地悪はしないよねと思って電車に乗ったら、本当に銚子駅を出発してゆく電車が見えたから驚いた。次の電車は成田線経由は14:28。総武本線経由は14:37。一時間近くある。成田線総武線を適当に散らしてくれればいいのにとブツブツ思うが、余った時間で最後に

 こんな写真を撮ってみる。京王線時代のグリーン車と緑の色合いが違うなんて言う人もいるようで。その時代を知らない自分としては何とも言い様が無いのだけど、でもまぁ眼福は眼福として喜びたいと思う。色の問題と言うのは難しくて、日塗工の記号とかマンセル記号とかで同じコードを指定しても、並べてみると別の色、普通に起こり得る事なのである。色見本のやり取りをしても厳密に同じ色になるかと言うと分からない。それを思うと鉄道会社の色の管理って、凄いのかも知れない。2本電車が並んだけど色が微妙に違うという事は、あるのかも知れないけど見たことはない。補修ペンキの色が違うなぁと思ったことぐらいはあるけど。
 写真を撮っていると「何でこんな色にしたんだろう」なんて話を誌ながら乗って行くグループがいたりする。一般的にはやっぱり、野暮ったい色なのだろう。正面がグリーンの9000系なんて、妄想の範囲だったに違いない。
 発車して行くグリーン車を見送り改札をでる。まだ成田線普通列車には時間がある。待合室でぼっとしているのも難なので暑いが利根川まで歩いてみる。銚子電鉄の沿線は結構歩いているが銚子駅前を歩いたことは一度もなかったりする。

 日陰を選んで歩いてゆくと港と思ってしまうような幅の広い、利根川が現れる。対岸が遠く、そして水量も豊か。先週、両毛線から眺めた利根川も立派だったが、大河という言葉が相応しい眺めだ。
 利根川は立派だったが暑いのでいい加減駅に戻る。

 10分ほどの間隔で千葉へと向かう二つの列車は発車待ちをしている。来るときは成田線経由だったから帰りは総武本線経由が望ましいが、先に千葉に着くのは先発の成田線廻りである。ならばと成田線廻りに乗る。今度は211系の5両。車内は空いている。今日は何時乗ってもがら空きな成田線にまた付き合う。
 朝早かったし動き廻っている。昼にはビールも一杯入った。条件は揃いすぎているから、眠る。眠って当然だし眠るべきである。目覚めると1時間経っている。まだ佐原を過ぎていなかったら悲しいが滑河の文字が見えた。成田の二つ手前である。まぁまぁの進み具合か。成田からは別人になったように混雑して立客も出た。
 千葉での乗り換えは内房線からの快速。混んでいるので見送って千葉始発の久里浜行きを選ぶ。余裕で座れるが出発を待つ10分で満席になった。
 津田沼船橋と進む間に降りる人の方が多く、東京駅に着く頃には空席が目立つようになる。代わりに乗ってくる人は少なくて、これならボックス席でも十分に楽。千葉から横浜までの間に今日の分の恥辱をかなりの部分まで追い込める。横浜には17:44到着。銚子から3時間20分少々。
 地上ホーム同士の乗り換えなのでまぁまぁ楽で17:46の普通車に乗れる。49運用

 811編成。まだ明るいうちに南太田到着。朝からまるまる12時間。一日の小旅行としてはちょうどいい所かも知れない。