五能線への序奏

 土曜日のリゾートしらかみ。想像以上に空いているが少しずつ乗客が集まってくる。座席が半分ぐらい埋まったところで時間が来た。ゆっくりと動き出す。このあたりは非力なキハ40系列を素性とする故、仕方ないところ。少しずつ、少しずつ、速度を増して行く。気がついたら遠くに母校が流れていった。特急のような自動放送が二か国語で流れる。ついで検札が廻る。車内販売も始まった。検札の車掌が女性で車内販売は男性。まぁ、時代が変わったというのだろう。
 東能代までの奥羽線区間は序奏区間というか、何というか。追分と八郎潟が営業的には停車だが、ここで早くも降りる人もいる。スーツを着たリゾート列車には似つかわしくない集団もいたが、キセル、というよりこまちからの乗り継ぎ列車がたまたまリゾートしらかみ、何て人なのだろう。入れ替わりに乗る人もいるから秋田を出た時よりは乗客。増えた様子だ。それ以外には、まず大久保で運転停車。どこからか「山手線の駅みたい」なんて声が聞こえてきたから首都圏からのお客さんらしい。鯉川でも運転停車がある。深淵とした鯉川の駅でしばらく。杉木立を見て「リゾートって雰囲気になってきた」と話をするのは妻。鯉川とリゾート、秋田県民には結びつかないけれど、東京の人には珍しい景色かも知れないなと考え直す。

 東能代で10分停車となる。秋田からの女性車掌に代わり東能代運輸区の男性車掌が乗ってくる。時間が余ったから妻と一緒に2号車のボックスシートを見学。いつの間にか8室中7室が埋まっている。空いている1室、ためしに腰掛けてみる。フラットになる座席も試してみる。これは楽でいい。
 
 青森始発のリゾートしらかみ2号を迎えて、こちらも動き出す。海の見えてくる八森までは序奏の続きだろうが、リゾートしらかみならではの仕掛けは次の能代から炸裂する。
能代は全国制覇58回を誇る能代工業高校を有するバスケの街です。次の能代で5分停まります。ホーム上の1号車付近にバスケットのゴールがあり、シュート体験をして頂けます。シュートが決まった方には記念品を贈呈致します。皆様ふるってご参加ください」

 早速参加してみる。ホームには確かにバスケットのゴールがあって、ボランティアらしい人と駅員さんが待機。早20人ぐらいの行列が出来ただろうか。その中に二人して加わる。ホーム上だからゴールは近い。高さは体育館にあるのとそんなに変わらない、と思う。
 順番が回ってきてボールを渡される。ぽんっと放ると簿ボールはそのままゴールに吸い込まれる。

ファンファーレが鳴って記念品を渡された。秋田杉で出来た乗車証明書だ。
 5分は短いようで結構時間がある。同じくホーム上に設けられた能代工業の展示コーナーを眺め、木都能代を思い起こすような秋田杉のパズルなんてものにも挑戦するとまもなく発車の案内。シュート体験は2巡目にチャレンジする人もいたようだ。シュートが決まったのは5人に1人ぐらいだっただろうか。変な電車で楽しいと言う妻と一緒に席に戻る。最後の一人がシュートを決めて車内に戻るとドアが閉まる。ゆっくり動き始める。