真っ暗なうちに目が覚めた。時刻は5時半。日本時間なら6時半、やっぱり時差が解消しない。何時もの事なので仕方ない。
 昨日は香港だったが、更に西のクアラルンプールでも時差は香港と同じ1時間。必然的に朝が来るのは遅くなる。しばらくはネットを繋ぎ、恥辱を前に進めておく。
 6時過ぎでもまだ外は暗い。暗いが真下のモノレール駅には電車が出入りしているから街は動き出したのだろう。

 6時半を過ぎてようやく明るくなってきた。今日はどっちみち、8時半にならないと動けない。ホテルの朝食、7時からなのだが、7時を過ぎてようやく明るくなった所でレストランに向かう。

 ムスリムが多い土地柄だし、牛を食べられないヒンズー教徒の印僑もいるので、食べ物にはやたらと制約があるのがマレーシア。華僑の多い所に行くと制約は無くなるけど、ホテルの食事は基本ハラル食となる。つまり鶏肉がメイン。玉子もOK。

 ちょっとお代わり。チャーハンに鶏肉の煮込みを掛けるとナシカンダール的な物になる。
 いったん自室に戻る。

 外はすっかり明るくなった。感覚的にはこれで7時前だが時刻は8時前。埋めていない時差1時間の他に、時計と太陽の光が合わない1時間があるような気がしてならない。

 モノレールが出入りするのが見える。LRTも頻繁に行き交う。
 今日は連泊になるのでホテルに荷物を置いて行くことが出来る。昨日のためにもってきた一眼レフのセットから望遠レンズは抜いて、その代りにペットボトルの水とガイドブックを入れる。8時半近くになったので出かける。
 まずはKLセントラルの駅へ。KLIAエクスプレス、LRTのRapid KLの改札。その先にKTMコミューターの改札があって、エスカレータを登ると今度はKTMインターシティーの待合室と切符売り場になる。その切符売場へ。
 明日の午前中、バタワースまでの切符をお願いする。8:30のでいいかと聞かれて出てきたのが、

 イポーまでの乗車券。おいおい、と文句を言って出し直してもらったが、9時発になった。KTMインターシティ。2009年にKLセントラルからシンガポールまで乗ったときはディーゼル機関車が牽引する客車列車だったが、数年前にイポーまで電車列車が走るようになり、最近になって電化区間が伸びたのか、バタワース行きや国境の町、パダンブサールまでゆく電車列車も設定されている。今回はマレー国鉄の西海岸線、まだ未乗で残っているクアラルンプールからバタワースまでの間に乗るつもり。
 とにかく明日の9時のバタワース行きの切符を取った。値段は79リンギット。昨日のKLIAエクスプレスと比べるとさほど高くない。因みに水が1リンギットから買える。コーラは2リンギット程。1リンギット100円と考えると何となくイメージとしては付く。バタワースまで7900円なら、そんなものと思えるし、KLIAまで5500円と言われると、高いなぁとなる。
 次にするのが交通系ICカードの入手。クアラルンプールにも交通系ICカードがある。この街はLRTやモノレール、バスを運営するRapidKLという会社、それに国鉄であるKTMが運行するKTMコミューターの2種類があって、両方で利用できるICカード、Touch'n GOというカードを手に入れたい。昨日ネットで調べたら、このカードを新規に購入できる窓口は限られていて、KLセントラルだとTouch'n GO Hubという窓口があって、そちらになるそうだ。
 構内をウロウロ、航空会社の搭乗カウンタがあるあたりに目的の

 Touch'n GO Hubを見つける。銀行の窓口みたいに、受付整理券を取って応対して貰う方式。順番はすぐ来る。
 カードの発行には10.2リンギット。それにチャージする金額を伝えてその金額を支払う仕組みである。どれだけ使うか分からないが、今日はこの後、クアラルンプール乗りつぶしをするので、少し多いと思いつつ、50リンギットをチャージしてもらう。これで今日の仕込みは完了。
 
 まずはRapidKLが運営するLRTをやっつけようと思う。

 KLIAエクスプレス乗客用のチェックインカウンタの上を高架が貫いていて、LRTがひっきりなしに走って行く。KLセントラルから郊外方面、Kelana Jayaへと向かうべくホームに上がる、間もなく

 丸っこい電車がやって来る。空港の中辺りで走っていそうな軽車両。レールは無く恐らくゴムタイヤ式の車両だ。無人運転であり、車内、運転席が全くない状態。よって

 一番前にいるとかぶりつきが出来る。結構人気だ。わざわざ前に来る地元の人もちらほら。

 時折すれ違う電車を撮りつつ、先へと進む。
 電車は加速鋭く、クアラルンプールの街を進んでゆく。一駅ついて、乗り降り。次の駅でも、乗り降り。一駅一駅進んでゆく間に車内が空いてくる。つまり、郊外に出たと言う事。

 窓外の景色、緑が増えてくる。

 手元のガイドブックでは終着駅はKelana Jayaとなっている。そのつもりで現地に着いてみると高架はその先にも続いていて、お客さんも結構残っている。何時の間にか延伸したのね。扉の上にある路線図もよく見ると、路線が思いっ切り伸びている。KJ24のKelaya JayaからKJ37のPutra Heightsまで。駅の数にして13駅。そして終着のPutra Heightskarahaは別の路線に接続しているようにも見える。
 電車が先に進むのでそれに合わせて先に進む。

 すっかり建物の背が低くなる。連なるのは一戸建ての家々。ここは郊外の高級住宅街と言った所か。曲がりながら先に進む高架線が見えて、前を行く列車の姿も確認できる。車内は空いてきた。お客さんはちらほら。そんな中でも一番前をわざわざ選び、立って景色を眺める人もいる。鉄なのか何なのか分からないけど。延びてゆく線路やら過ぎる街並みを眺める事が好きな人はどこにでもいる、らしい。
 途中、どこかの駅に到着。ドアが閉まり、動こうとした瞬間、何か妙な感触があって、動かなくなる。何事かと思ってたら係員がやって来た。どうやらこの列車、この駅止まりらしい。残っている人がぞろぞろと案内され、一つだけ空いていたドアから降ろされる。

 しばらく待って後続の列車に乗り換える。今度は2両編成である。ラッシュ時には混みそうな車両だが、郊外ゆきの電車は思いっ切り空いている。前の4両編成から乗り換えた人を座らせても十分なぐらい。
 列車は郊外の住宅街を行く。途中、SS18だの、USJ7だの、およそ地名とは思えない、北海道の北一号線とか、そんな駅名を思い浮かべるような駅がある。これらも新興住宅街だったり、商業施設がでんとかまえる郊外型の街を列車は進んでゆく。

 何時の間にか車内。全くお客さんがいなくなった。終着まではあと一駅二駅。窓外には造成地が広がるようになった。

 殺風景な中に少し大きな駅が見えてくる。終着のPutra Heights。 

 向かいには同じRapidKLのアンパン線の電車が停まっている。こちらも手元のガイドブックではSri Petalingが終着となっているのだが、同じく延伸してきたようだ。

 駅構内、路線図にはクラナ・ジャヤ線、アンパン線。両方の路線が書かれている。手元のガイドブックだとアンパン線の終点、Sri PetalingはSP18だが、ここのPutra HeightsはSP31。13駅伸びた訳だが、路線図の駅には2つ欠番がありスペースが空いている。これから開発、というエリアなのかも知れない。
 RapidKLのLRTを乗りつぶす、と言うつもりで今朝は出てきており、いずれにせよアンパン線にも乗らねばならない。いずれにせよアンパン線に乗り換える。同じRapidKLであり、改札内での乗換となる。先程のクラナ・ジャヤ線よりおおぶりな電車に乗る。

 車両は大きめ。普通に運転台がついていて、女性運転士が乗り込んでいった。マレーシアはイスラム国家だけど、女性の社会進出という点では他の国と遜色ないようだ。

 電車は動き出す。殺風景な造成地がしばらく続いた後、4〜5階建てぐらいの集合住宅が広がるエリアを進む。先程のクラナ・ジャヤ線は高級住宅地風のエリアだったけど、アンパン線は下町を進むのか、思う。この辺は勝手な判断、かつ相対的な見立て。
 都心方面へ進む電車だからか、少しずつお客さんが増えてゆく。立派な高架から降りるといままでの終着Sri Petaling駅。ここからは先は地上の線路を進む。KTMの幅狭レールが寄って来るとBandar Tasik Selatanの駅。ここでお客さんが多少降りる。KTMコミューターとの乗換客かも知れない。
 立客が目立つようになったChan Sow Lin駅で下車。ここはAmpang駅へ続く路線との分岐点。目の前にちょっと草臥れた、角々しい電車がいて、これがAmpangらしい。乗り換えるとまもなく発車。Putra Heightsへ続く線路と立体交差で別れるとAmpangに向け速度を上げる。
 再び郊外行きの電車。車内はスカーフをしたムスリムの女性が目立つ。今日は平日月曜日。この時間の郊外電車。確かに働く人の乗る時間では無い。地上の線路。低層、中層の集合住宅や一軒屋が目立つ辺りを進む。

 鉄道の開業が早い分、街が成熟しているようにも思える。一駅毎に少々乗り降りがあって、だんだんと空席が目立って行くようになると、終着のAmpang。

 生活感漂う景色が現れる。
 KLセントラルからPutra Heightsを経てAmpangまで2時間少々が経過している。時刻は11時過ぎ。

 ひと世代前の電車を眺めてから一旦改札の外に出る。ICカードから差し引かれたのは3.5リンギット。50リンギットもチャージしたのは多すぎたか。

 改札を眺め、改めて路線図を見る。ガイドブックに出てこない路線もあって狼狽えるが、よく見ると建設中の路線だった。ひとまず先を急ぐ。

 Ampangの駅。線路はぶつっと途切れていてその先は街が広がっている。路線を伸ばす事は考慮されていないようだ。Chan Sow Lin側に車両基地があって、一世代前の角々した電車が体を休めている。
 AmpangからChan Sow Linまで戻る。先程はバタバタと乗り換えて良く分からなかったが、Chan Sow Linの駅は3線4面。

 Ampangからの列車は真ん中のホームに着いて両側のドアを開ける。Putra HeightsとSentul Timur。どちら方面へも階段を使わずに乗り換えできよう、考慮されているのは立派。

 そして電車はAmpangへ折り返してゆく。メイン系統はPutra HeightsとSentul Timurを結ぶ路線のようだ。

 そのメイン系統、Sentul Timurへ向かい電車が来る。車内は比較的して空いている。頑張れば座れたかも程度の埋まり具合。先程、Putra Heightsから乗って来た電車と比べても空いていた。途中駅始発の電車かも知れない。
 電車はクアラルンプールの都心へと進んでゆく。

 マスジット・ジャメ駅を出ると間もなく、駅名にもなったマスジット・ジャメ、そしてムルデカ・スクエアが見えてくる。
 今度は何でもない川。この川、ゴンバック川と言い、もう一つ、クラン川との合流点に出来た街がクアラルンプール、マレー語で泥(lumpur)が合流する場所(kuala)となった。

 茶色い小川にしか見えないのだが、ある意味由緒正しいありがたい川である。いや、川で無くて泥なのか。
 12時ちょっと前。電車は北側の終着、Sentul Timurに着く。 

 引き上げ線が見えて、その先延びうるのだろうか。良くわからないが、南側の終点、Putra Heightsに比べればずっと都心よりである。

 一度改札を出ておく。すっかりお昼時になっている。

 LRTの延伸を伝える看板が出ている。マレー語なので内容は分からないが、2016年6月30日に開業したようだ。って事は延伸して1か月ちょっとと言う事になる。手元のガイドブックは昨年ペナンに行った時に買い求めたものだが、そりゃ掲載は無いか。ちなみにこの文章を書き綴っている時点ではwikipediaの日本語も対応できていない。
 さて、次の未乗線はRapidKLのモノレール。前に来た時にはKLモノレールという名前だったと思う。
 モノレールに乗るにはLRTでTitiwangsaの駅まで戻る。改札を出たので折り返しの電車、と言う訳にはゆかず、1本後の電車で2駅戻る。モノレールとの結節点。Titiwangsaの駅まで。直角に交わるモノレールのホームとの間。後付けしました、という感じの連絡通路を通る事になる。

 この先に伸ばすにはモノレールの桁を上げるぐらいしか方法がないだろう。
 LRTを降りた時にモノレールの電車が来たのが、歩いている途中に行ってしまったので次の電車を待つ。高架の駅、汗ばむ事しばし、やって来た電車の冷房で今度は冷やされる。

 ペトロナスツインタワーを遠くに眺め、クアラルンプールの中心地へ。途中のBukit Nanasまでが未乗区間。ひとまずこなすと、これでお昼までに3路線、片づけた事になる。
 12時を過ぎたのでお昼にする。今日は軽めにしたい。具体的には、バクテーを頂きたく思う。昨日一昨日と機内食続きで疲れた胃を休ますにはちょうどいい食事だろう。
 2009年にもクアラルンプールでバクテーを頂いているが、芸がないけど同じ店に行く。モノレールを インビで降りる。外に出ると物凄い熱気である。ましてや幹線道路沿いの歩道。照り付ける太陽と行き交うクルマの排ガスでくらくらしそうだ。
 大きな交差点を何とか何とか渡って、見覚えのあるバクテー屋さんへ。

 この店先、見覚えがあるのだが、前と違うのは廻りにやたらと観光バスが集まっている事。どうやら中国人観光客の団体が押し寄せているらしい。一応席に通され、バクテーとご飯。それに飲み物を頼む。メニューにあるコーラは無いと言われ、適当に冷たいお茶を。

 先にお茶が出てくる。海外のお茶らしく甘い味付けだが、程よい甘さなので口には合う。喉も乾いているのでついごくごく飲んでしまう。

 バクテーも出てくる。漢字で書くと肉骨茶。骨付き肉の漢方スープ煮。そんな書き方をすると何だか薬を飲まされているみたいになるが、滋味に溢れた肉スープと言った感じで胃に染みこんでくる。相変わらず美味しく、大いに満足したのだが、お会計はご飯とお茶、それに税金が掛かって24リンギットとなる。1リンギット100円という感覚が身に付きつつあるので、これは大いに高い。
 相変わらず観光バスとそのお客さんであふれている新峰肉骨茶を後に、今度はモノレール、Bukit Bintangに向かう。別にインビ駅に戻っても良かったのだが、交差点を渡る流れでBukit Bintangの方が歩きやすかった。

 違った、この駅。Air Asia Bukit Bintangだった。日本でもすっかり定着したネーミングライツの類、らしい。

 駅構内もエアアジア一色。跨線橋にはお馴染みのフレーズ、NOW EVERYONE CAN FLYの文字が踊る。

 これ、飛行機の窓を模っているのね。
 モノレールに乗って午後の乗りつぶしを始める。まずはBukit の駅まで。路線図ではLRTのクラナ・ジャヤ線との乗換駅とある。多少距離があって、一旦改札を出た後で、

 仮設みたいな屋根のついた通路を歩き、さらに歩道橋を渡ると

 クラナ・ジャヤ線のDang Wangi駅。この辺りの区間は地下化されているのでさらに地下へと潜って行く事になる。
 先程乗っていない北の終点、Terminal Putraを目指して移動する。やって来た電車は多少立っている人がいるぐらいの混雑。

 クラナ・ジャヤ線はクアラルンプールの中心街を地下で駆けてゆく。ツインタワーも見ないままに、中心地を過ぎた所で地上に戻る。郊外に向かうにつれて、だんだんと住宅地へと変わって行く。

 この街の雰囲気は東京郊外と言っても騙せるかも知れない。

 この写真は、、、無理だけど。
 山に切り開いた住宅街を走ると、電車は終点のTerminal Putraへと到着する。

 電留線が見えて折り返し電車が屯している。

 乗って来た電車も人の乗り降りが済むと電留線へと引き上げて行く。
 これでPapidKLが運営するLRTとモノレールは完乗となる。一旦改札を出て回りの様子を伺うと、都心方面へ引き返す。
 残っているのはKTMコミューター。路線図では2系統であり、これから乗り始めて全部乗るのは容易そうだが、KLセントラルを中心に4つの終点を往復すると考えるとなかなかしんどい。郊外電車であるが故、終着駅は遠いし、本数もLRTに比べればだいぶ少ない。それに時刻もしっかりとは把握していない。
 ひとまずクラナ・ジャヤ線をKLセントラルの一つ手前、Pasar Seniまで引き返す。

 泥水流れるクアラ川を渡るむこうにあるのはKTMのクアラルンプール駅。KLセントラルが出来る前のターミナル駅である。
 ここは戦前に建築された駅舎が荘厳で、ターミナルの地位をKLセントラルに譲り、KTMコミューターの一駅に落ちた後も観光名所になっている所。
 でも、荘厳な駅舎は線路を挟んで反対側だったようだ。見そびれたままホームに入ってしまう。
 来た電車、どこ行きでもいいから乗ろうと思ってホームに立つ。次はバトゥ・ケーブスゆきのようだ。しばらく間がある。
 駅のホーム。線路全体を覆うよう屋根が掛かっていて、日差しは当たらない。が、空調がある訳では無し、かなり暑い。

 KTMコミューターの回送電車らしい。KLセントラル側へとゆっくり走って行く。KLセントラル始発があるのだったら、KLセントラルに行った方が良かったかも知れない。

 反対側、駅舎に一番ちかいホームにETSがやって来る。IPOHゆきの特急電車。半分少々は席が埋まっていただろうか。結構な人気である。客扱いをして発車してゆく。

 そしてバトゥ・ケーブスゆきがやって来る。時刻は15時過ぎ。
 列車は6両編成。うち真ん中2両が終日女性専用車だそうだ。この処置が痴漢対策なのか、宗教上の理由なのかは良く分からない。先頭車に乗る。3つドアロングシート、冷房強め。車内は外国人観光客の姿が目立つ。この外国人、というのは欧米系の事。バトゥ・ケーブスは観光名所なのであった。観光地入りするのはいささか遅い時間とも思えるが、少し涼しくなってから、という魂胆だろうか。
 クアラルンプールをでた列車は街の外周を走って行くようだ。KLの高層ビル群は見えるが、時にはえらい叢の中に入り込んだり、とても首都を行く電車とは思えない。
 プトラの先で、イポー、バタワース、或は遥かチェンマイまで続く西海岸線の線路と分かれる。先程乗って来たクラナ・ジャヤ線から見えたのと同じビルが見えたりして、比較的近いルートを走っているのは分かる。分かるが、

 窓外には水辺が見えたりもする。マンション群が建っている所あるから開発は進んでいるのだろうが、LRTの沿線に比べるとまだまだ。
 クアラルンプールから20分少々で山が近づいて来て終着のバトゥ・ケーブスになる。

 列車が到着し、ドアを開ける。観光客が大挙して降りてゆくのと入れ違いに、観光客が大挙して乗り込んでくる。駅名になっているバトゥ洞窟の最寄り駅である。

 駅前からもう観光地の匂いが漂っている。今日はパスするけど。
 折り返しの電車。時刻表らしきものが見当たらないので、とりあえず乗って何時とも知れない出発を待つ。少しずつお客さんが増えてきて、席がおおよそ埋まった所で出発。時刻は15:40近くになっている。
 先程眺めた景色を巻き戻しつつ電車はクアラルンプール市街へと戻る。この先、手元のガイドブックでは、ポートクランまで行くように書かれているのだが、車内の掲示には、系統を見直した旨の案内が出ている。この電車はKLセントラルからスンガイ・ガドゥーゆきとなるようだ。
 KLセントラルまで20分少々。ここで観光客がみんな降りてゆき、代わりに地元のお客さんが乗って来る。都心と絡まない郊外行きの電車は本当、クアラルンプールの普段着だ。
 立客大勢を乗せて列車は南下してゆく。スンガイ・ガドゥーは西海岸線の駅。以前、KTMインターシティーとして乗っている路線であり、全く新しく乗る、という所では無いのだが、ひとまず終点まで行くことにする。今が16時。仮に1時間ぐらい電車に乗るなら、18時過ぎにはKLセントラルに戻れるだろう。そうすれば、もう1系統。全線は無理でも多少は乗れるのではないかと思う。
 半日以上動き回って少々疲れを感じている。電車に乗って座っているだけだから、疲れる訳はないのだが、なぜかそうなる。ダメだと思いつつ、意識が朦朧として暫く。LRTの線路が見えて、電車が流れて行ったのは何となく意識にある。
 気が付いたら17時になっていた。列車はだいぶ空いて来ている。外はくもり空。ヤシの木だかごむのきだかが、車窓に広がる。ここはどこだ?

 まだ半分しか来ていない。。。。。

 窓外にはプランテーションが流れてゆく。明らかに午前中のLRTから眺めたクアラルンプール近郊の新興住宅地、という雰囲気からは遠ざかっている。かなり遠くまで来ているものと思われるが、終着まであと、何分掛かるのだろうか。
 時折街が現れ、駅に停まる。

 シンガポールまで行くときに見たような駅だなと思いつつ。お客さんが降りてゆくのを見送り、列車は更に郊外へと進む。複線の線路、時々上りのKTMコミューターとすれ違う。思ったよりも頻度があるみたいで15〜20分毎の運転だろうか。外に見える景色と電車の運転間隔、ギャップが激しい。
 以前の終点だったスレンバンには電留線がある。何本か今まで何度となくすれ違ったような電車が停まっている。既にクアラプンプールを出て1時間半近くが経過している。あと二駅。 

 寂しくなった車両に揺られて2駅を15分程。高架にある真新しいスンガイ・ガドゥーの駅に着いたのは17:50過ぎであった。バトゥ・ケーブスからたっぷり2時間掛かっている。

 最後まで乗っていた人もちらほらいて、三々五々、改札へと向かう。一度改札を出て折り返しの電車に乗りたいが、

 折り返しは17:47の出発。時間が過ぎているが、今乗って来た電車、少し遅れていたようだ。その後は18:12とあり、20分少々待つ事になる。
 改札を出て一度駅前へ。

 あたりは街というものがなく、タクシー、なんて声を掛けられる。でもすみませんがKLまで戻ります。駅前を一瞥だけしてコンコースへ。また長時間乗車になりそうなのでお手洗いを済ませておく。これが、間違ってPrayRoom、つまり祈祷室に入りそうになって、慌ててしまった。一番手前の便利な所がPrayRoomで、ReatRoomは一番奥。これもお国柄なのだろうが、戸惑った。

 ホームに戻り、傾いてきた日の中で列車を待つと不意に折り返し列車がやって来る。この電車は定時のようだ。

 今度は中ほどの車両、セミクロスシートに座ってみる。先頭車は全てロングシートなのだが、中間車は半分だけクロスシートになっている。そちらに座ってみる。冷房の吹き出し口なのか、どうにも寒いが我慢する。
 定刻18:12にドアが閉まる。発車して間もなく370㎞ポストを見つける。どこ起点の数字か分からないが、バタワースから、だろうか。KLセントラルに着くまでにどれだけ数字が小さくなるか、見ものだ。
 空はまだ明るい。一駅二駅走ると結構な数のお客さんが乗って来て席が埋まる。隣の席もインド系の女性が座って、寒そうにしている。地元民だから強い冷房に慣れている、訳ではないらしい。

 徐々に日が暮れてゆく中、列車は駆けてゆく。一駅毎にお客さんが乗ったり降りたりしながら増えてゆく。立客も目立つようになってきた。東京の郊外電車そっくりの光景が広がる。
 1時間走るとプランテーションが段々と消えて、街並みが広がるようになる。LRTの線路が並ぶ。KLIAエクスプレスの電車が疾走してゆく。道路は帰り道の車で渋滞している。橋を渡ると視界が広がる。段々と降りてきた闇の中にツインタワーが輝いて見える。クアラルンプールに戻って来た。
 KLセントラルに着くと19:40を過ぎていた。スンガイ・ガドゥーの駅から1時間半以上が経っている。キロポストの数字は、300を切るところまでは確認した。片道70㎞。東京から国府津まで行って戻って来たようなものだ。そりゃ、ちょっとした旅にもなる。
 KTMコミューターはまだ1系統残っており、今日はまだ4時間あるけれど、もうやめにしようと思う。

 改札を出る。今朝LRTの改札を入ってからほぼ11時間が経過している。ホテルの近く、インド人街で夕食を済ませる事にする。


 賑やかそうだった店に入ってナシカンダールを頂く。この辺り、ホテルが多いからか外国人の姿が目立つが、まぁ良いだろう。酒を出す店よりはリスクは低いに違いない。

 この手の店は指さしで注文が出来るから言葉の分からぬ人間にも敷居は低い。二品適当に選んで

 さっと頂く。これで4.5リンギット。庶民の味方を地元民も観光客も同じようにつつく。
 ホテルに戻る前に昨日見かけたスーパーへ。スーパーと看板にはあるけど、コンビニよりも多少大きくしたぐらいか。ビールの種類が多くコンビニよりも選択肢がありそうだ。そのビールと、頼まれ物の白珈琲を買い求めるとホテルに戻る。
 このホテルも明日でチェックアウト。荷物を多少括る。そして先程買い求めたビールと、香港で買って昨日冷蔵庫に入れておいたギネスを頂く。ギネスは香港で買うとマレーシアの半値以下、そりゃ、持ち込みたくもなる。