5時の目覚ましで起き出した。外はまだ暗い。雨で路面が濡れている。夜のうちに降ったようだ。
 荷造りをして出掛ける。傘は迷ったが置いてゆく。先日京都に行ったときに折りたたみ傘をどこかに置いてきてしまったのが痛い。代わりを途中で買うことになるかなぁと思う。
 今日は会社を休みにした。金曜日からの4連休になる。それを生かして今日はちょっと遠出する。手元には秋の乗り放題パスを言う名前の切符がある。以前は鉄道の日きっぷと言っていた切符だ。去年から使い勝手が変わって名前も変わっている。
 ちょっと早く出てきたので乗り継ぎの時に朝食を買っておく。ここで買っておかないとこの後、10時近くまで食いっぱぐれるであろう事は経験上知っている。

 中途半端だが多治見行きに乗車。朝ラッシュの時間、10両つないでいるが、逆方向へ向かうので空いている。ロングシートであったが今のうちに朝食を済ませておく。
 多治見で後続の中津川行きを待つ。

 目の前にはキハ47の4連なんて列車がいて、これは太多線。普段は小さなディーゼルカー2両編成なんて様子しか見ていないもので、ギャップが新鮮である。乗りたくなる衝動を抑えて、発射を見送る。何とも鈍重な走り出しを見て、また良いなと思う。

 中津川行きは6両で来る。高校生を中心にお客さんが多く混んでいる。とりあえず転換クロスの座席には座れたが、ドアのあたりに立つ事を選ぶ人も目立つ。朝食を摂れる環境ではなかった。高校生は二度三度入れ替わりながらも途絶えない。そのまま7時半過ぎに中津川に到着する。

 ここからは松本ゆきに乗り換え。2両になる。この列車も高校生で混んでいる。今度は座れない。座れないがはるばる長野県まで通学する高校生もいないだろうから、途中で座れるだろう。
 読んだ通りに二つ目、坂下で高校生は降りる。ドアが一カ所しか開かないで、ほとんど全部のお客さんが降りるものだから、降車に手間取る。でもここで特急待避だったから影響はない。

 写真を撮る余裕もあるぐらいだった。
 すっかりラッシュは消え失せて木曽谷を山深くへ入り分けてゆく。

 雲が低く垂れ込める今日の木曽路。この先、大雨で流されそうなところばかりを進むので、今日一日あんまり雨に降ってほしくもないが、眺めている分には雰囲気は良い。
 特急に道を譲りつつ木曽谷をあがる。木曽福島も曇り空。観光客がたくさん列車を待っていたが、大多数は名古屋方面へ向かう普通列車のお客さんだった。こちらに乗ってきた人は峠を越えた奈良井まで。代わりに地元の人が乗ってくるようになる。主役はすっかりお年寄りに変わっている。

 川の流れ、向きが変わる。だんだん開けてくると共に雲が切れる。谷間が広がる塩尻に着く頃には、青空が広がった。
 列車は松本まで行くが、塩尻で20分以上停まる。その間に中央東線からやってきた普通列車が先に発車するのでそちらに乗り換える。

 中央東線普通列車は6両編成。塩尻で見ると長いなぁと思うのだが、この列車、高尾始発である。そりゃ、6両つないでて当然だよね、って気に急になるのが不思議と言ったら不思議。ラッシュ明けだから6両の長さを持て余しているようで、塩尻からでもボックスを占拠できる。混んだ列車を想像していたので、拍子抜けした。
 列車は広々とした松本平、青空の下を走る。北アルプスが青空に映えて、先程の木曽谷とは打って変わった雰囲気となる。

 松本に着く。駅構内には従来の115系と共に211系の姿が見える。一時期房総各線に入ったグループも含めて長野方面に転用となるそうだ。先程の塩尻でも疎開してきた211系の姿は見かけたが、松本にいるのは信州色になった211系。既に運用が始まっているようだ。
 この先は長野に向かう。普通列車は11:08の出発。50分ほど待ち時間がある。一度改札の外に出るが行くところがあるわけではないのでホームに戻る。松本市発の列車はわりと早くからホームに入っている事が多い。でも同じホームを10:50に出る特急があるから、入ってくるのはその後になりそうだ。
 お昼には早いが今のうちに駅そばを食べておく。この先、乗り換えが短く、お昼がどうなるか定かではない。


 松本駅の駅そば。麺が二種類ある。特上は生そばだそうだ。茹でるのに3分掛かるそうで。ちなみに普通の駅そばは1分で提供とのこと。
 確かに待ち時間3分というのは駅の立ち食いの感覚ではなかった。出てきたそばはそれなりに美味しい。値段を考えると満足できるそばである。
 ホームを塞ぐ特急が少々遅れている。中央線、東線も西線も同じだけど、単線区間の行き違いがあるせいか、数分の遅れが発生しやすいようだ。今日も中央西線のしなのは概ね2〜3分遅れて走っていた。今度の名古屋ゆきは5分ほど遅れて松本を発車して行く。その直後に、長野方面から普通列車が到着。短い2両編成と案内があって

 現れたのは701系、じゃなかったE127系。この車両。大糸線専用だと思っていたが、活躍の場を広げつつあるようだ。乗客がたくさん降りて代わりに同じぐらい乗る。ボックスの一角に居を構えたがさてどうなるだろうか。
 座席はほぼ埋まる。遅れてやってきた特急列車の影響でこちらも少々遅れて発車。

 北アルプスの峰の連なりが左手に見える。この車両、アルプスの眺めに配慮して片方の座席をボックスシートにしました、という触れ込みであったが、その配慮は篠ノ井線でも遺憾なく発揮されている。ただ、大糸線が延々とアルプスの裾野を行くのに対して、篠ノ井線善光寺平へ向かうべく、山道へと分け行る。だからまもなく景色からアルプスは消える。
 トンネルに次ぐトンネルで松本平から善光寺平を目指す。最後は山道を下る。途中、「姨捨から眺める善光寺平は日本でも有数の景勝として知られています」なんて案内が自動放送で流れる。ワンマン列車の放送としては珍しいかもしれない。残念なのは姨捨の眺めはロングシート側であること。案内に反応する人は無く、反対側のボックスに座る自分は人の肩越しに景色を眺める事になる。
 列車は善光寺平へと下る。2両の電車は最後は込み合って長野駅へ。出発は遅れたが到着は概ね定時だったようだ。ここでの乗り換えは10分ほど。あまり余裕はなく遅れると立ち往生していたかも知れない。あまり遅れずに済んでまずは良かった。

 この後は飯山線に乗り換える。5番線から3番線へと向かうとちょうど2両のディーゼルカーが入ってくる所である。12:32の越後川口ゆき。ここの接続は絶妙である。名古屋から接続よく飯山線に乗れる事に気付いたのは、出向して三河住まいとなった直後であったが、何時かこの接続、乗ってやろうと思っていた。
 長野の予想気温は30℃だそうで、この時間、日が照りつけている。夏の強さは無いけど、暑いこと暑い。そして入ってきたディーゼルカーは冷房が効いている。
 2両のディーゼルカーはボックス部、ロング部、どちらも席がさらっと埋まっている。旅行者らしい大荷物の人もいる。席の埋まったディーゼルカーは定刻に発車。軽やかに加速して行く。幸先の良い走り出しだが、お客さんは北長野で早くも下車。次の三才でも降りる。結局、飯山線へと進路を振る前にお客さんは半分近くになる。若干、拍子抜け。長野で座れなかったボックスシートに引っ越して飯山線に入り込む。

 窓の外を林檎の樹が流れて行く。手を伸ばしても届かないだろうが、赤い実をたわわに実らせた木々がそこかしこに広がる。長野らしい眺めを堪能していると、右手から千曲川が寄ってくる。この先、飯山線はひたすら千曲川に沿って走ることになる。既に長野の各地で水を集めた千曲川は幅の割には水量が豊か。その川に忠実に寄り添うように右に左にカーブする。その度に太陽の向きが変わる。

 途中、替佐で列車行き違い。ススキが風に吹かれている。この秋、ススキを見たのは初めてかも知れない。この時間の長野、結構暑いのだが、季節は間違いなく進んでいる事を知らせてくれる。

 秋を堪能していると上り列車がやって来る。信号が青に変わり出発。再び千曲川を横目に列車は進む。

 川に沿って下る下り列車がまるで峠越えをしたような山間を抜けると大きな街が広がる。遠くから真新しい高架が近寄ってくる。飯山である。長野から50分、延々走ってきた感があるが、かの高架、北陸新幹線が開業すれば長野から10分、15分という世界になるのだろうか。

 市街地をまっすぐ貫く高架に感心する。よほど建設に協力的だったのだろうなぁと思うと飯山の駅。ここで半分ぐらいの人が降りて行く。

 代わりに乗る人もいたけど、車内は2両あわせて十数人程度までに減る。
 列車は飯山の市街地を抜ける。車窓に千曲川は消えたが、川の気配が漂う盆地を行く。戸狩野沢温泉でさらにお客さんが減る。山が再び迫ってきて千曲川が姿を現す。川の流れに忠実にカーブを繰り返し、集落が現れると駅があって列車は停まる。たまに年寄りが一人二人と降りて行く。平日の真っ昼間だからかも知れないが、降りて行く人は全部が全部、歩くのも難儀そうな年寄りばかり。ちょっと元気な人ならクルマを使うのだろうが、自力で動くことが難しい人の、最後の移動手段が鉄道なのだと言うことを実感するような飯山線である。
 列車は長野と新潟の県境に近づく。水量豊かな千曲川を右手に列車は進む。飯山線がこれほど川を眺めが良い路線だったとは認識を新たにする事になる。川と鉄道と言えば個人的には天塩川に寄り添う宗谷線天竜川に寄り添う飯田線の印象が深いが、それに匹敵する今日の飯山線。このローカル線に乗るのは三度目なのだが、一度乗っただけの印象で語っては行けない事を改めて認識する事になる。

 川を挟んで向かいの国道、護岸工事をしているのが見えた。こちらも20km/hで最徐行。のり面のコンクリートが真新しい。先日の台風18号では飯山線も被害を受けたのだが、その現場だったようだ。
 日本最深積雪記録というありがたいのかありがたくないのか分からないような記録を持つ森宮野原の駅を過ぎると長野県から新潟県に変わる。横を流れる川の名前も、千曲川から信濃川に変わる。沿線の家は2階に玄関を設けた3階立ての建物が目立つ。雪が深いので1階に玄関を設けると冬の間は出入り出来なくなるのだそうだ。今の季節は日本のどこの田舎とも違いは無いけど、その雪深い景色、一度は見てみたいと思う。
 山間が広がって街の気配がしてくると十日町の駅である。列車は20分停まる。

 折角なので改札の外に出てみる。空腹を感じるのだが、さすがにどこかで食べて行くほどの時間はない。酒屋で新潟限定ビイルとつまみを買って列車に戻る。
 15:19出発という列車には下校の高校生がちらほら。2両の列車を占拠する程の勢いはない。部活帰りだとまだ早いだろうし。

 ビールとつまみを軽く口にする間に列車は動き出す。静かな車内にエンジン音だけが響く。鈍い日が車内に差し込む。駅に停まる度に帰宅の高校生を降ろしてゆく。またお客さんが減る頃、

 関越道が現れて魚野川を渡る。どこか東京の香りがしてきて、上越線と合流。終着の越後川口に到着となる。


 長野から3時間以上が過ぎている。もちろん、自分以外に乗り通した人など、いない。
 上越線の上り普通列車、越後中里ゆきが入ってくる。冬季間は水上まで延長運転をしていて、それに乗れれば21時には横浜に戻れる。最初のプランは名古屋ー横浜の飯山線廻りだったのだが、明日から世の中三連休。今日は反対側に向かう。下り列車には若干時間があったのでちょっと駅前を歩いてみる。まっすぐ行くと国道17号が通っていて、その先は魚野川の堤防である。

 ちょうどいいので川面が見える所まで往復して駅に戻る。

 長岡ゆきの普通列車は長野色の115系であった。そういう運用があるとも思えないので、転属でもあったのだろう。座れる程度に空いていたが、一つ進んだ小千谷で高校生の大量乗車があって賑やかになる。
 越後川口では強かった日差しがどこかに消え失せると長岡到着。新潟行きは30分ほど間が開く。

 既に列車の姿はあたので列車に乗って発車を待つ。今日の恥辱を進めておく。その間にどんどん薄暗くなって行く。
 17時過ぎの列車、高校生よりも大学生や通勤帰りらしいお客さんの方が主役。長岡と新潟という大きな街同士を結ぶ列車だからかも知れない。6両つないだ列車はボックスに二人ぐらいずつ。先客があるボックスにもさっとさりげなく座ってくるのはボックス慣れしている田舎だからかも知れないが、スマートな振る舞いに見える。一駅毎に結構な数のお客さんが乗ってくる。その人たちが暗いホームにぼんやり浮かぶのは、ちょっと珍しい光景で新鮮に感じる。都会の電車だとホームが明るいので、暗がりにたくさんの人、とはならないのだ。たくさん乗ってきて混雑になるかと思ってみたが降りる人も多いので席は溢れない。
 長岡から1時間。最後は明らかに乗ってくる人の方が多くて立客大勢となる。


 新潟に18:16到着。最後の最後に雨粒が窓を叩いた。ホームも結構濡れている。二時間前の越後川口は快晴だったが、午後6時の新潟。予報通りの雨となった。

 今日は新潟に泊まる。まだこの先へ進もうと思えば進めそうだが、最近は17時か18時、遅くとも19時には行動を終わりにしたいと強く思うようになっている。出来れば朝も遅い方が嬉しいが、そこを遅くすると普通列車乗り継ぎではロクに移動できない事になるので、朝は諦めて早起きしなくてはならない。まぁ理想は 先生の阿房列車だけど。
 予約しているビジネスホテルに荷物を放り込む。そして少々買い物なのだが、雨がどうしようもないのでその前に傘を買っておく。ビニル傘でも良かったけど無くした折りたたみ傘の代わりを購入。次にスーパーに行って新潟限定、サラダホープと風味爽快ニシテをお買い上げ。買い物が終わる頃には雨は小降りになっている。大雨なのは着いた後の一瞬だったかとがっかり。
 ついで夕食。やはり新潟限定ビイルを生で頂きたく、適当な店に入ってみる。



 ビイルありきで入ったので何の店か分からないかったけど串焼きの店だった。まずはビールとお通しで乾杯。結局ビールは三杯頂く。頼んまなかったが日本酒が¥400以下で出てくるのもポイントが高いかも知れない。
 滞在一時間ほどでホテルに戻る。ホテルの部屋。狭いのは構わないけど、見通しが悪いせいかWiMAXの電波が入らない。新潟でまさか使えないとは思わず、正直、参ってしまった。
 少し恥辱を書いて、ビイルを飲む。明日も早いので23時過ぎには寝てしまう。