5時過ぎ、聞き慣れない目覚ましの音で目が覚めた。止め方が分からず混乱する。出先である新潟のホテルで迎える三連休の初日。今日は秋の乗り放題パスを使って移動する。身支度を済ませると5:40過ぎにチェックアウト。駅へ向かう。天気はぐずついているが、雨には降っていない。駅へと向かう。

 今日乗るのは白新線新発田ゆきの列車。夜の明けた新潟駅に停まっているのはE127系の6両編成。平日なら新発田を往復する間に朝ラッシュを迎えるのだろうが、今日は土曜日である。
 列車は10数人のお客さんがちらほら座っている。案外乗っているなというのが印象。朝飯を列車で食べようと前の日のうちにパンを用意しておいたのだけど、この列車ではちょっと無理っぽい。
 夜が明けたといっても雲が垂れ込め薄暗い中、列車は走り出す。一駅二駅でお客さんは降りてゆく。この人たちは夜を引きずっている人たちかなぁと漠然と考える。
 天気がはっきりしないまま40分。列車は新発田に到着。ここで乗り換え。待っているのは新津から羽越線を辿る坂田行きの普通列車。2両の気動車は高校生で埋まっている。夜の列車から朝の列車に乗り換えたようなものだ。

 車両はキハE120。初めて乗る車両だ。最近は自らの関心がどんどん狭くなってきていて、出たのを知らない新車なんてものがあったりもするが、この車両に関してはそれに近い。新潟の限られたエリアでしか走っていない事とか、ワクワク感がないからとか、理由は色々ありそうだ。

 乗ってみると出足は鋭いし、悪くない車両である。座れればもっと良かったけど、一駅毎に乗ってくる高校生がこの列車の主役。自分はあくまで乱入者。

 この列車にそのまま乗っていれば山形県は酒田まで運ばれるが、今日は坂町で降りる。高校生はまだこの先まで行くようで、入れ替わりにたくさん乗ってきた。今日はここから米坂線に乗る。上りの始発列車となる米沢ゆきの列車は既にホームに停まっている。

 先程と同じ2両編成の気動車。車両はJR東日本のローカル線ではおなじみのキハ110系である。列車は気の毒な程、空いている。自分と同じ列車に乗ってきた人が10数人乗り換えてきてようやく列車の体裁が整った感がある。山登りらしい大きな荷物のグループがいるが、この天気では気の毒な感じ。上り普通列車の接続を受けて発車する。空いた列車で朝食代わりにパンを食べていると、外は大雨になる。回復しないのかぁと少々がっかり。だんだん近寄ってくる飯豊連峰、雨に煙ってほとんど姿を見せていない。

 雨の中を米坂線気動車は走る。あんまり降られると不通になってしまいそうで心配だが、今のところは快調そのもの。

 増水した荒川やその支流を橋で跨ぎ、トンネルを抜けて列車は進む。こんな書き方をするとずいぶんと高規格な線路のように見えてしまうが、実際には荒川は切り立った峡谷。線路を敷く平地などどこにもないのである。
 長いこと人の気配がしない山の中を走り続けて、ようやく平地が広がる。小国である。

 小国で5分ほど停車。地元のお客さんが多少乗ってくる。列車は山形県に入ったが、川の向きは日本海側を向いている。まだまだ登り坂が続く。小休止の後、発車となる。しばらく街並みが続いたが、まもなく山が迫って谷間となる。どうやら峠越えのようだ。強力なエンジンを積んでいる、とされるキハ110形も脚が鈍る。隣の国道を走るクルマに何度も抜かれる。重たげなエンジン音が響き続ける。
 ようやく峠を上り詰める。まずエンジンの音が軽やかになる。車内の空気も軽くなる。少々速度も上がる。

 川の流れが逆になる。少しずつ谷間が広がって行く。そして盆地に出る。羽前椿に到着。12分停まるそうだ。

 運転士に断って外に出てみる。外は小雨。

 刈り取りの終わった田圃が広がっている。秋めいた東北の空気が心地よく胸一杯に吸い込んでみる。

 上り列車が来る訳でも無いのに12分停車。外に出る余裕まである。まるでPhoto stopと言いたくなる停車。実際には羽前椿始発8:34なんて列車があり、この列車が今泉を出ないと閉塞が開かないから、らしい。一日何本もないローカル線で20分前に列車、と言うのも信じられない話ではあるが、置賜盆地の平坦な区間には、何本か列車の設定がある。たまたま二本の列車の時間が近付いてしまった、というのが真相らしい。
 何人かお客さんが乗ってきたから停まっていた甲斐もあったようで、時刻通りに列車は動き出す。
 山間の厳しさは消え失せ、列車は穏やかな盆地を淡々と走る。雨もどうやら上がった。一駅毎にお客さんが二人三人と乗ってくる。そして左手から山形鉄道のレールが近寄ってきて、今泉に到着となる。今度は25分停車。間隔調整なのかも知れないが、趣味で乗っている人からするとPhoto Stopと呼びたくなる時間。


 時代掛かった山形鉄道のホームから停車する列車を撮る。米坂線のホームは屋根も待合室もこぎれいになっていて、最近建て替えられたようだ。以前は同じような時代物の屋根が掛かっていた記憶がある。同じローカル線でも運営会社の体力差をまざまざと見せつけられる感がある。

 山形鉄道、赤湯からの列車が来て出ていった後にこちらも発車となる。山形鉄道米坂線という乗り換えをした人はいなかったが、米坂線から山形鉄道へ乗り換えた人は数人。20〜30人程度の中の数人だから、バカにしてはいけない需要ではある。
 25分の停車が終わる。いつの間にか青空が見えてきた。

 その青空の下、列車は走り出す。小国、羽前椿、今泉と3駅で40分以上停まっている。急ぐ訳ではないのだけど、少し遅く出てくれれば朝早起きをしなくても良かったのにな、と思わなくはない。
 列車自体は時間調整をした甲斐あって、各駅で10人単位でお客さんが乗ってくる。初めてあてにされている感が滲む。
 この列車の目的地、米沢は古い城下町。そのせいか鉄道は街の中には入れてもらえなかった。奥羽本線は街の東外れに駅を構え、米坂線は街の外周を回り込むように走り、その途中に西米沢、南米沢という駅がある。市街地の外れには違いないようだが、人によっては便利なようで、この二駅、むしろ降りる人が目立つ。

 坂町から2時間40分。米沢に到着する。案外と乗り通した人がいる。三連休の初日だから普段と流れが違うだろうが、へぇと感心した。

 山形県米沢市。ここから横浜方面に向かうには板谷峠を越えて福島へ向かうのが定石である。しかし板谷普通列車で越えるのは至難で、次の列車は13時まで無い。そうでなければ、山形から仙台に抜けるとか、福島までつばさを奢るとか、方法は色々ある。しかし今日は正攻法で行く。まずはおみやげ。山形名物、ミルクケーキとおらんだせんべいをお買い上げ。そして米坂線、坂町行きに乗る。先程の折り返し列車だ。ボックスシートが一通り埋まるぐらいの乗車。そして奥羽線の上下列車が相次いで到着し乗り継ぎ客を乗せるとそれなりに車内、混み合いましてとなる。

 奥羽線の列車が遅れたので3分遅れて出発。そして折り返しの30分、その間に雨が降り出している。その雨の中、置賜盆地を巻き戻し今泉へ。今度はここで降りる。Photo stopでは無く、通常のすれ違い。
 今泉駅、4番線に坂町行き、1番線には赤湯ゆきがいる。

 そこに坂町側から米沢行きが、ついで荒砥ゆきがきて、4本のホームすべてが埋まった。今泉ジャンクションの本分全開である。
 山形鉄道の運転士がJRの運転士に身振りで○と示す。乗り継ぎ客はいないよの合図。遅れている米坂線はそれを受けてドアを閉める。現場同士の連携は見ていて気持ちがよい。一方、JRから山形鉄道への乗り継ぎ客は案外といる。長井高校のジャージを来た高校生が多いようだ。米坂方面からも羽前椿方面からも長井に向かう一定の需要があるようだ。国鉄長井線廃線にならずに第三セクター山形鉄道として残った背景を垣間見た気がする。

 荒砥ゆきのディーゼルカーは単行編成、

 その座席は想像以上に埋まっている。とりあえず座れない。先程の米坂線坂町ゆきと乗客の実数は変わらないのだろうが、一両にんっている分だけ混雑が激しいように見える。
 米坂線の坂町行きの後を追うように走り出す。実際、途中の信号所までは同じ線路を走るのである。米坂線と分かれると北に向きを変える。列車は置賜盆地を進んで行く。第三セクター鉄道らしくこまめに駅が現れては停まる。全てで乗り降りがあるわけではないが、それなりに降りるお客さんはいるから需要には応えているようだ。
 国鉄時代の線名の由来となった長井でそれなりに降りる。一応は座れたがまだ車内は混んでいる。米坂線には無い規模の街で、確かに長井との行き来はあるだろうなあと思える町並みが広がっている。
 ボックス席に人を埋めたまま、列車は長井の街を後にする。

 再び田園地帯が雨に濡れる。新しそうな駅と国鉄時代そのままの駅が交互に現れる。


 右にカーブすると最上川を渡る。酒田に河口を持ち、延々山形県内を潤す最上川置賜は最上流にあたるはずだが結構な立派な流れだ。最上川を渡ると荒砥の駅である。
 乗っていた人、半分以上は団体だったようで「歓迎 東京白鷹会」なんて看板がでている。白鷹はここの町の名前である。三連休ならではの特需だったようだ。


 折り返しは11:38。すぐにでるので駅前だけちらっと眺めて列車に戻る。

 上り列車のお客さんは15人ぐらいだろうか。来た道を再び戻る事になる。途中駅で二人三人と乗ってきて列車の体裁は整う。中心駅の長井では乗降共に多数。南長井は高校の最寄り駅らしく、高校生が降りると当時に乗ってくる。土曜日だからかも知れないが、高校生の動きも複雑だ。
 今泉からは今日乗っていない区間。先程、米坂線では置賜盆地の南縁をなぞったが、今度は北縁を進む。

 沿線に時折ビニルハウスの骨が見える。中には何かの木。これはサクランボの農園らしい。林檎でも梨でも普通の果樹は向きだしだが、サクランボは囲って育てる繊細なものらしい。果樹園と市街地を望む山形鉄道の沿線。ひたすら田圃だった米坂線とはだいぶ趣が異なる。歴史を紐解くと開業は山形鉄道の方が早い。開業から今年で100年だそうだが、今でも背景が納得できる、そんな光景だ。

 奥羽本線の線路に寄り添うと終着の赤湯となる。時刻は12:40。今度は奥羽本線の列車に乗り換える。いったん改札の外にでる。駅弁が売っている。殆どがお隣、米沢のものだが赤湯オリジナルのものもあったから買ってみる。
 ホームに戻ると米沢ゆきの列車がやってくる。みてガッカリ

 701系である。この車両の存在、忘れていた。列車は座れない程に混んでいる。駅弁を食べるどころでは無い。
 ロングシートの電車、中程に立って、高速で飛ばす列車に揺られる。、今度は置賜盆地の東縁だが、今まで乗った二つのローカル線とは世界が違った。
 15分程で米沢に戻る。接続列車として福島ゆきの案内がある。6分の待ち合わせ。乗り継ぎが成立する。

 今乗ってきた米沢ゆきは山形へと引き返し、代わりに719系が待っている。今度は十分に座れる程度の乗り具合。駅弁を開く事も出来る。