目が覚める。枕元の時計を見ると午前6時を指している。日本時間なら午前7時、つまりいつもの時間である。日本と香港の時差は1時間。どうせ2泊3日の短期滞在。無理に1時間の時差をあわせる必要も無い。1時間早く動いてもどうという事はない。
 昨日は遅かった妻はまだ寝ている。冷房を弱めに効かせて妻には毛布を掛けておく。自分は起き出して恥辱を進めておく。傍らにはNHK-BS。昨日の大雨を伝えていたニュースが終わりメジャーリーグ中継に変わったのを機に地元の放送局にチャンネルを合わせる。ニュース番組のオープニング曲が何気に耳に馴染んでいる。また一つ香港を実感する事になる朝の始まり。


 妻も起きて身支度ができたので朝食を食べに出かける。9時半過ぎの佐敦の街はまだ目覚めきっていない。閉まっている店も多く、開いている店を探していたら、油麻地の方まで来ていた。

 ビルを貫き道路が通る。駐車場のアプローチでないから普通のスピードで車がビルに吸い込まれたり、飛び出してきたり。

 結局、油麻地の先で何軒か店が開いていたので、そちらの中から一軒を選んで、麺を頂く。

 一緒にミルクティーも。甘ったるいミルクティーなど普段は絶対に手を出さないけど、香港では気がつくと飲んでいたりする。意外と抵抗は無い。


 麺は牛腩麺。麺は河粉で出てくる。妻が頼んだのは魚皮餃麺。こちらは普通の麺。この玉子麺。決して美味しいものではないけど、こちらに来ると無性に食べたくなる。次に麺を食べる機会があれば、この麺にしようと心に誓う。

 食事を終えて店の外にでると雨が降り出していた。昨日に続くスコール。今日は念のためと傘を持ってきたから立ち往生せずに済む。まもなく雨もあがった。
 ホテルに戻る途中、ちょっと寄り道。翡翠市場を覗いたり、乾物屋に寄ってみたり。大量に売っている帆立貝柱には宗谷産の文字。北海道に触れずに単に宗谷産で通じてしまうあたり、この街の北海道マニアぶりが見て取れた。
 ホテルの部屋に戻る。すでに掃除が終わっているが何か変。妙に寒い。よく見ると

 冷房の設定、10℃になっている。掃除の人が日本人仕様の28℃設定に音を上げて、一番低い温度にしたに違いない。気づかなくてすみませんなぁ、と申し訳ない気分になる。
  今日はノープラン。この後どうしようか、いくつか案を考えて決めた行き先は九龍塞城公園。香港返還前まで存在し無法地帯として有名だったいわゆる九龍城の跡地である。
 地下鉄ではちょっと行きづらい場所なので、バスで行くことにする。調べてみると尖沙咀のフェリー埠頭から出るバスが彌敦道を通るのでそれを捕まえる。1系統というのだそうで、言われてみると彌敦道で何度か見かけた覚えがある。

 バス停に着くとまもなく目的のバスが現れる。2階席の一番前が空いていたから、観光客らしく座ってみる。

 マングローブ並木の続く彌敦道から出発。まずは北上となる。先ほど朝食を食べに行ったときと通り二つぐらい挟んで並行に走ることになる。

 オープントップバスと併走する。土曜日だけど観光客の姿は少ない。今の時期の香港、観光的にはシーズンオフなんですかねぇ。
 バスは地下鉄荃湾線に沿って北上。東に入ったからそろそろ離れるのかと思ったら、太子駅なんて出てくるからまた荃湾線。ようやく本格的に東に向かう。走る通りは界限通。新界が最初に割譲された時の清と英国領香港の境界だそうだ。

 佐敦から40分近くバスに揺られて、九龍塞城公園に到着。公園はバス停から道路を渡ったすぐ向かい側となる。地図を見て無くても雰囲気でそれとなく分かる。

 小さな入り口だがこちらはいわば裏門らしい。中は樹が鬱蒼と茂っていて木陰を風がくすぐってゆく心地よい空間。

 高低差を生かした水の流れもあって暑苦しい真昼間でも涼しさを感じることが出来る。涼を求めて木陰で寝転ぶ地元の人が目立つ。観光地というよりは地元の憩いの場らしい。

 碁盤ですかねぇ。こんなものもありました。

 こちらは九龍塞城に元々あった兵舎が転じて養老院として使われていた建物。今は展示施設となっているようで、見学してゆく。


 20年以上前、啓徳空港があって、九龍城があった頃のパネル展示。人が来るとパネルがライトアップされて音が流れ出す、そんな凝った展示になっている。特に何にも期待せずに入っているから、いい意味で裏切られた。

 改めて展示施設。昔は日の光も届かなかったであろう。その頃の暗さは残ってないなぁ。
 今の九龍城界隈。空港も無くなって建物の高さ制限が掛からないからか、高層ビルが建ち始めている。そしてちょっとしたグルメタウンなのだそうだ。お昼をだいぶ回っているし、折角なのでこの辺での昼食を志す。
 街をぶらぶらしていると、タイ料理の店、ベトナム料理の店、と東南アジア系の店が目立つ。タイ産物のスーパーなんてのもある。その中で目に付いたのが、

 イスラム料理の店とある。ハラール認証を受けた食事を提供するのだそうだ。もちろんアルコールは置いていない。
 結構混んでいたし折角の機会のなので入ってみる。

 お酒が無い代わりにコカコーラとなる。イスラム圏ではかなりの人気だそうだ。この店で食事をしている人の全てがモスリムではないだろうが、ほぼ全ての人がコーラは飲んでいる。
 2人で3品頼み、適当に取り分けることにした。まずは最初の一品がやってくる。

 清真炒飯。イスラムチャーハンと訳せば良いようだ。辛いとあったが、後からじんわり痛めつけられる予感も無く、まぁ難なくクリア。

 葱油餅。皆さん頼んでいる様子だったがこれ自体にはあまり味が無かった。何か取り合わせて一緒に食べるのが良いらしい。

 牛肉餅。揚パンの中にはジューシーな牛肉。口に含むと肉汁があふれ出す。揚げ小籠包といえば感じが伝わるだろうか。これは文句なしに美味しい。
 牛肉餅のためだけに旅行する価値があるのか、良くは分からないが、食べて損は無い一品であったあ。また近くに来る機会があれば、食べてみたい。
 最後は場所を変えてデザートを頂く。

 こちらの口甜舌滑という店。以前ガイドブックにも載っていたそうだが、中心地には店が無く、ここ九龍城の一店舗だけらしい。

 マンゴープリンを頂く。妻はマンゴーミルク。店の名前に偽りは無い。この店なら十分中心地に出店できそうだけど、繁華街は家賃も高く、採算が取れないのかも知れない。

 この後は妻と別行動。18時に紅磡駅で待ち合わせなのだがその間、香港鐵路博物館にゆく。場所は東鐵線の大埔墟の近くになる。今居る九龍城からまずはバス。

 啓徳空港の跡地を臨んでバス停がある。少々渋滞したが20分程で旺角東の駅に運ばれた。ここで紅磡へ向かう妻とお別れ。こちらは郊外へ向かう東鐵線の電車に揺られる。3〜4分毎に頻発する東鐵線だが、電車は混んでいて、20分少々の道のりは立って行くことになる。

 大埔墟の駅から鐵路博物館へは街中を少々歩くことになる。要所要所に道案内が出ていて、それに従って歩くことしばし、

 博物館の看板にあたる。博物館はここの線路沿い。東鐵線と言うより九広鐵道の元大埔墟の駅舎を展示施設とし、何両か車両を並べたところ。小じんまりとした施設だが、家族連れなんかで賑わっている。

 女の子の二人組が展示車両をバックに写真を撮り合いポーズを取ったりする。ウェディングドレスにタキシードなんてカップルがカメラマンを伴って写真を撮ったりもしていて、記念撮影スポットなのかと思う。
 展示車両を少々。

 電気式のディーゼル機関車がどんと構える。20年程前まで本線で活躍していたそうだ。このアメリカンスタイルで国境を越えていたのかなぁと思う。

 こちらは既に廃線となっている枝線で活躍いていた蒸気機関車。御役御免となったフィリピンの製糖工場で働いていたのを呼び戻したとか。

 客車の姿も見える。こちらは車内を見学できる。

 3等車の車内。まるでスターフェリーのような、木の椅子が並ぶ。

 こちらは1等車。ゆったりとしたボックスシート。座ると尻がしずみこむような柔らかさ。日本のいわゆる並ロはこんな感じだったのかな、と異国の地で思ってみる。

 こちらは年代がだいぶ下った3等車。椅子の幅が思い切り狭く、通路が広い。大多数が立つ事を前提にした車両のようだ。

 この車両。台車には近畿車両の銘板。1974年製で1983年の九広鉄道電化時には御役御免なったのなと思う。


 駅舎の中にも展示物。ポイントの切り換えやらタブレットやら、どことなく日本の鉄道にも通じる展示物が並ぶ。香港も日本も、どちらも英国の影響を受けた鉄道だから、似たような雰囲気になるのかも知れない。
 展示物としては以上。よく整備されているけど入場料は無料。どうやって維持しているのかは、良くわからない。

 帰りはより近そうな駅、ということで一つ先の太和まで歩いてみた。数分で駅の入っているらしいショッピングセンターに到着。適当に歩いていたら改札にたどり着いてしまう。この後、妻と待ち合わせは紅_駅で18時なのだが、まだ16時を少々過ぎた所。どうしようかと思う。



 太和のホーム。鐵路博物館のイラストが見える。最寄り駅はこちらなのかなと思っていると、紅磡行きが入ってくる。ひとまず乗ってしまう。どこか途中で降りてホームで写真を撮ろうかと思うが、傾きかけた日が陰を作ってなかなか思い通りにならない。結局、紅_の駅、外に出て撮ろうと思い至る。そのまま紅_まで乗り通し。
 改札を出て地図を眺めて思案して、結局バスターミナルのそばまで来てみた。案の定、列車が走るところがしっかり見えている。

 保守用らしいディーゼル機関車の姿が見える。これは思いがけない収穫だ。


 30分少々行き交う列車を撮ってみた。本数は多いから枚数は稼げる。これで城際直通列車がやってくれば嬉しい所だけど、そんなうまくは行かない。本気で撮りたいなら時刻表を確認してから来るべきだ。
 17時を過ぎてしばらく経つ所まで頑張る。日が傾いてきて条件が悪くなってきたのでこれで終了。あとは紅磡の駅舎の中で、恥辱を進めておいた。

 妻とその友人とは18時きっかりに待ち合わせ。今日も20時からライブだそうで、その前に食事でも一緒にと話をしていた。2時間しっかり時間を取っているので昨日と違ってちゃんとした食事を、というつもりだったのだが、これからライブの成功を祈願する儀式があるというのでちょっと見て行くことにする。ライブの会場、駅と道路一本挟んだだけの向かい側である。


 豚の丸焼きらしい供え物が準備されていて、儀式が始まるのを待っている。柵のこちら側にはファンやらマスコミやらがいて主役が出てくるのを待っている。時折
 少々待ってそろそろ日が沈むかなという頃、慌ただしくなって主役が登場。関係者一堂四方に向かって礼をした後、

 線香を上げてから、火を焚いた後、豚を切り分けて儀式は終了だったらしい。後で整理するとそういう事だったようだ。
 儀式を見届けたので食事にする。だいぶ時間が押してしまい、ちゃんとした食事を取る時間もないから、結局は尖東の一角で茶餐廳となる。


 名前は忘れたけどチャーシュー載せご飯に空芯菜とミルクティー。これで40ドルぐらいだっけ?昨日に引き続き似たような夕食だが、これはこれで美味しい。グルメは堪能していないが、香港の日常に迷い込んでいる感は満ち満ちている。

 ライブの時間が近づいたので妻とその友人とはお別れ自分はホテルに戻るのだが、今日もちょっと寄り道をしていこうかと思う。昨日、ホテルの近くで飲んできたという話をしたら、尖沙_のナッツフォードテラスがおすすめなんて話を聞いたもので行ってみようかと思う。
 今日は尖東が起点なので迷いようが無く彌敦道にたどり着く。そして彌敦道からナッツフォードテラスに入り込む。とたんに世界が変わる。ケバケバしいネオンは消え失せ落ち着いた雰囲気のレストランやら何やらが並ぶ。

 その中にパブがあったので入ってみた。店内は空いている。お客さんは欧米人と香港人カップルだったり、香港人の二人組がビールを飲んでいたり。一人の客もちらほら。昨日のようにお酒が添え物の店ではなく、お酒が主役だったり、重要な道具だったりする空間だ。

 昨日と同じくギネスを頼む。グラスに注がれた漆黒の液体は魅惑的だが、口にしてみると昨日と同じ違和感。あまり美味しいと思えない。

 サンミゲルを頂いてみる。缶では何度も頂いているが、ドラフトのサンミゲルを頂くのは初めて。これは明らかに美味しく、素晴らしい。海を越えてきたビールがどうの、みたいな事を言う人が居るけど、確かにそうだと初めて思ってみたりする。
 今日も2杯で引き上げる。空けば持ってきてくれるライスクラッカー(Nutsと明細にはかかれてた)を併せて118ドルほど。まぁそんなものか。120ドルでおつりはいらないと言うのも中途半端な気がして130ドル渡しておく。レジでこちらを振り向いたので、いいからと目配せ。そのまま席を立つ。

 ホテルに戻る。時刻は21時を過ぎたところでまだ早いといったら早いが、自室で恥辱を進めておく。書かねばならない事はたくさんある。缶ビールを飲みながら恥辱を進めるといい加減良いが回り、そして、塩分がほしくなった。最後、近くで麺でも食べてこようかと思う。
 宵っ張りの香港はまだまだ賑やか。昼と変わらぬ熱気に包まれている。

 ちょっと歩き回って適当な麺の店に入る。ワンタンメンを注文。麺の種類は指定しなかったが、後ははあなた任せだ。

 頼んだワンタン麺、ワンタンが見えないが麺の下に沈んでいるのが香港流なので全く持って構わない。麺は香港独特なのか分からないけど日本では見かめない硬めの縮れた玉子麺。美味しいものではないが、これは何故か無性に食べたくなることがある。ありがたく頂く。
 24ドルのワンタン麺に満足して部屋に戻る。23時を過ぎたところで妻が帰ってくるまであと1時間ぐらいだろうか。今日は起きて待っているつもりだったが、結局はベットに潜ってうとうとしてしまう。自分の方が1時間以上早く起きているのだから仕方ない。日本時間ならもう真夜中だ。