最終便

 一気に夏に戻った沖永良部、気温は30℃だそうな。青く広がる空も海もまだ夏色。季節も夏に戻れば、まだまだYS-11は飛んでいられるのに、季節は9月。ラストフライト、最後の沖永良部だ。
 小さな空港は人で溢れている。展望デッキに鈴なりの人。ちょっと離れた高台にも沢山の人が居る。建屋の前では地元の人が歓迎の太鼓と踊り。ミスフロージア、とでも言うのかそんな感じのお姉さん。それにマスコミ、マスコミ、マスコミ。
 ささやかなターミナルもまた、人だらけだった。発券窓口にちょっとした人だかり。ダメ元でキャンセル待ちを入れてもらう。「マスター会員様ですね。Aの12番になります」まぁ無理だろうな。昨日の松山最終便が2人、高知最終便は0だった。それにしても「マスター会員」って。JASのマイレッヂマスターと言う言葉がまだ残っているのだ。
 展望デッキに出てみる。狭い階段、上から降りてくる人。上がろうとする人でとんでもない状況。その上から降りてきた人の一人が知人だったりする。朝の6時から並んでキャンセル待ちAの1番を抑えたそうだ。こっちに来るとは言っていなかったけど「一昨日落ちてきて来ちゃいました」「さすがです」来て当然といった感じ。これからキャンセル待ちの結果発表があるのだそうな。
 デッキには地元の人が大挙して押しかけている。どうやら搭乗開始となる様子。さっきの知人、制限区域内に姿を現した。
「Aの5番まで落ちてきました!」
 との事。執念の勝利だねぇ。自分も玉砕覚悟で沖永良部に前日入りすれば良かったかなぁ。それとも結果的に各地の最終を渡り歩いたこのスタイルの方が良かったのかな。自分の意思だけでどうなる問題でもないので、まぁ言っても始まらない事である。
「あの人たち、来た飛行機で帰るんだねぇ」「折角だから1泊してゆけばいいのに」地元の人たちの会話。全く持ってその通りで、ぜひとも沖永良部の人たちに遊ばれて欲しい、とは思う。とはいえ自分も人のことは言えない。折角の沖永良部だけど、自分自身、この後の3808便で帰ることになる。
 花束贈呈
 写真:乗務員の皆さんに花束贈呈
 記念撮影が始まる。掲げられた横断幕に「ありがとう 離島の翼 YS-11
 記念撮影
 写真:搭乗客全員で記念撮影
 搭乗開始
 写真:ようやく搭乗開始
 なかなか乗り込まない乗客も一人一人と機内へ吸い込まれてゆく。そして最後に乗り込んだのはマスコミのテレビカメラ。ドアが閉まる。プロペラが廻る。もう一つ廻る。ダートサウンドが辺りを包む。この音を最後に間近に聴けたのは良かったかもしれない。そんな気がしてきた。
 JA8766 taxing
 写真:YS-11 JA8766 がTaixingを開始。ターミナルの前を一旦左へ
 JA8766 taxing
 写真:YS-11 JA8766 ターミナルの前でくるりと反転
 JA8766 taxing
 写真:YS-11 JA8766 機首を今度は右へと向ける
 JA8766 taxing
 写真:YS-11を見送る沖永良部の地上係員たち
 JA8766 taxing
 写真:YS-11 JA8766が滑走路へと向かう
 一旦ダートサウンドが遠ざかり、そして、ひときわ甲高くなる。近づいて近づいて、目の前を通り過ぎ、天空へと舞い上がる。
 JA8766 Takeoff
 写真:YS-11 JA8766 沖永良部を後にラストフライトへ
 小さくなってゆくYS-11の機体。ダートサウンドは聞こえなくなる。それでもまた点のように見えているYS-11を何時までも見続けていた。左へと旋回してゆく様子を認めたのを最後に、分からなくなってしまった。気が付くと、沖永良部のデッキ、殆ど人が消えていた。