快速「はなさき」

 この時期、さすがに釧路でも夜が明けつつあるところだ。東の空が微かに明るくなる。金星が瞬く。乗り換えは5分。根室ゆき。網走ゆきも相前後して発車する。根室行きの乗客は10数人、大きなカバンを抱えた人も多く、ほとんどがまりもからの乗り継ぎ客らしい。まだ夜の続き。暖房が強すぎるぐらいに効いていて、眠気を誘う。私もまだ寝足りないし、眠ることにしようと思う。
 この区間のキハ54、また車内を改装している。今度は転換クロスシートになった。通路側に引き出し式のテーブルが付いていることから以前青函トンネルで使っていた50系のお古と知れる。モケットは明るい青地にタンチョウやらなにやらをあしらった賑やかなもの。
 突然の急ブレーキで眼を覚ます。カランカラン、軽い音が床下でする。列車は完全に止まってしまった。車内アナウンス。「ただいま、鹿と衝突いたしました。確認のためしばらく停車します」運転士と添乗の社員さんが現場へと走ってゆく。何を確認したのかよく分からないけど数分で戻ってきて発車となる。ブレーキ系とか大丈夫なのかしらん。再びブレーキ。鹿がまた出たらしい。今度は衝突しなかったらしく停まらずに発車。まもなく茶内となる。大きなカバンを抱えた人が一人降りてゆく。次が浜中。ここでも一人下車。高速バスも止まらないような小さな街と札幌を結びつける事がこの列車の役割、なのかもしれない。「北の動物王国」というポスターが出ている。ムツゴロウの動物王国ってそういえば浜中だったな。餓鬼の頃はよくテレビで見た。サマーランドに移ったんだっけ。相当苦しいフレーズだけど。でも、あれは何だったのだろう。駅を出てまもなく、車窓に馬が映る。車内は再び寝静まる。車窓を雪原が流れる。前に降った雪が解けずに凍りついた、そんな感じだ。空には雲ひとつ無く、右手前方から太陽が昇ってくる。今日は良い天気になりそうだ。
 列車は忘れた頃に現れる小さな駅を無視しながら走る。ようやく厚床停車。さらに根室半島へと入り込んでゆく。左手に海がちらっと見える。オホーツク海だ。ついで右手にも海。こちらは太平洋。太平洋には白波が立っている。相当荒れているらしい。そしていくつかの島々が浮かぶのが見える。落石に停まる。10年前に歩いたところだ。ちょうど同じ列車から降り立ったのだった。見た感じ当時と様子は変わらない。ここで高校生が数人乗車。ちょっと車内が賑やぐ。