無理無理矢理矢理、5時に起きた。週末の天気は悪いそうで、外は灰色に沈んでいる。久しぶりに出先の家、三河で迎える週末である。
 まぁ家にいても仕方ないので今日は出掛ける事にしている。手元の18きっぷ、まだ1日分しか使っていない。今日は二日目のスタンプを押して貰おう。向かうのは東海道線を西へ。関ヶ原を越え、京の都まで。
 横浜にいると京都は遠い。秋田からだと地の果てに思えるが、三河からだと18きっぷで余裕で日帰り出来る程度の距離である。そりゃ、戦国大名も上洛しようという気になる筈である。今日はお気楽に上洛でもしてこようかと思う。

 東海道線米原行きに乗る。区間快速とあるが、まぁふつうに快速電車。名古屋を過ぎ、岐阜をすぎると18きっぷの利用者と覚しき人が目立つようになる。

 冴えない景色を尻目に関が原を越える。米原には8時過ぎの到着。車内に緊張感が走る。

 米原からは新快速。すでに8両編成がホームで待っていて結構な混雑。意外な事に座れないぐらいである。ここで長浜からだろうか、4両編成がやってきて増結となる。こちらには若干の空席があったから何とか席にありつける。
 朝起きてから3時間ほど。いい加減空腹だが、この時間の米原。駅弁は無いし、下りホームにはそばのスタンドもない。意外と食糧難。キヨスクで見慣れない菓子パンが売っていたからそれを買い求め、朝食とする。


 地元産のメロンパンという、おおよそ流通ルートには伸そうにない製品。

メロンクリームパン、といえば良いのだろうか。素朴な味わいのパンを缶コーヒーで流し込む。
 この時期の新快速。米原18きっぷのお客さんに占拠されて地元の人は座れないという可哀想な状況である。まぁ学生の頃から幾度となくお世話になってきた18きっぷであり、新快速列車であるので、あまり言えないのだが、今日もその状況は健在。長浜始発の編成だからか彦根あたりで降りる人も目立ったけど、能登川の人はもう座れなかった。そんな調子で立つ人がどんどん増えて行く。今日は土曜日だが、人の動きは激しい。
 実はこのまま京都に直行してもちょっと早すぎるので時間調整を兼ねて石山で降りる。JRの駅の向かい、京阪の駅があって、今日はこちらに乗り換え。
 幼少の頃は「いしやまざか・ほんせん」だと思っていた石山坂本線。石山と坂本を結ぶが故の名前だが、今日はここから坂本まで脚を伸ばしてみようと思う。


 やってきた小さな電車に乗り込むとまもなく出発。大津方面、東海道線と絡みつつ走って行く。速度は半分以下。ひょっとしたら1/3かもしれない。そして駅の数は倍では効かない。そんな調子で世界が変わる。もちろん、好き好んで乗り換えたのだから、その全てが好ましい。

 法規上は路面電車。だから浜大津の先で路面を走る区間もあるが、基本的には専用軌道を走る。もし京王線が軌道のまま近代化していたら、こんな電車になっていたのかとも思ってみる。
 乗った電車は車庫がある近江神宮前どまり。


 ここで後の電車を捕まえ、終着である坂本を目指す。昼間は15分毎になるようだ。先程の電車よりは混んでいたが、それでも座れる程度。お客さんの数としては少ない。
 坂本に着くと意外と時間が経っていた。ここからJR湖西線比叡山坂本まで歩いて京都に出るつもりだったのだが、考えていた湖西線の電車には乗れそうもない。坂を下って10分弱。国道沿いにある殺風景なJR線の駅までてくてく歩く。雨はパラパラ程度。まぁ濡れて歩いてもいいかなって程度の雨である。
 予定していた電車には間に合わず、次の電車までも間があるので一駅、下り方向、雄琴温泉まで行ってから

 京都行きに乗る。JR東海では全車廃車になった117系がやってくる。幼少の頃のヒーローであり懐かしいが、座席はへたっていて、月日の流れを感じる。京都に着くと10時半近い。
 予定より遅くなってしまった。今日はこれから梅小路蒸気機関車館に行く。国鉄時代からの由緒正しい博物館だが、交通科学館と統合の上、新規にオープンするそうだ。大きくはなるのだろうが、今のままの形で一度見ておきたく、今日の訪問となる。
 博物館なんて何時についても良いのだが、梅小路の場合、蒸気機関車の体験乗車なんてプログラムがある。動態保存機の多い梅小路だからこそかも知れないが、その運転が11時から。それを逃すと14時なので先に乗っておきたい。そこで思い切ってタクシーを奢る。大した距離ではなくバスも出ているのだけど、バスの乗り場も時刻も調べていない。それに大した距離ではないからこそ、タクシーを使っても根本的に財布を傷めない。
 タクシーで10分弱。東海道線、山陰線、その連絡線が作る三角線の間にある梅小路公園に到着。どうやら間に合ったようだ。蒸気機関車館のある方に歩く。


 すぐそばで京都市電の保存運転なんてものをやっていてこちらも大いに気になるが、後にする。まずは蒸気機関車館へ。入場料は¥400。ICカード払いもできる。

 早速体験乗車の列へ。こちらは別払い200円である。行列が見えてそれと知れる。その先にはC622が蒸気を上げて待っている。

 さて乗車。C622が従えるのはオープンエアの客車。大阪で行われた花博の際に使われた車両だそうだ。残念ながら雨がちの天気ではあるが、席が一通り埋まる程度にはお客さんがいる。中には外国人の家族連れなんてグループまでいた。
 11時になり耳をつんざく汽笛が鳴り響く。列車という雰囲気ではないが、蒸機の息吹を感じながら列車はゆっくりとバックで進む。

右左にカーブする路線なので機関車の姿が見えるのもいい。200m程でいったん停車。傍らには東海道本線。新快速が勢いよく通過して行く。
 今度は来た道を戻って体験乗車の乗り場まで。併せて10分も掛からない程度。本線の列車に比べれば物足りないが、貴重な体験となる。

 今日は土曜日なのでもう一往復、運転があるそうだ。せっかくなので眺めて行く。


水蒸気や煙を吐きつつ木陰に消えて行くC62の2号機を見送る。短い時間で乗るのと撮るのを両方楽しめるのは、特徴的かも知れない。
 さて、機関庫の展示も見てみよう。


ここの特徴は扇形機関庫を現役時代そのまま博物館にした所。いや、書類上はいまでも現役の運転所である。梅小路をベースに名古屋から四国まで転戦するC56形160号機なんて機関車がいるし、嵯峨野観光鉄道で使うディーゼル機関車もいる。現役と言わないと失礼だ。

 機関庫の中で。この眺めは非常に新鮮。
 D52だのC54だの、型式としては知っていても実機で見たのは初めて、という機関車ばかりが並ぶ梅小路はやはり一度見ておくべきだった。遅きに失した感はある。
一通り眺めて満足したので梅小路を後にする。最後に先程チラッと見た京都市電に乗っていこうかと思う。市電の運転は梅小路公園の中で行われていて、先程見たのは折り返し点。

 公園内、300mの線路を往復している保存市電。たまたた蒸気機関車館の出口にほど近い折り返し点に電車が来ている。試しに聞いてみると片道なら150円で乗れるというので乗ってしまう。

 主幹制御器はオリジナルかどうか知らないけどデッカーのもの。それだけ見ると発車時刻となる。いや、時刻があって動いているのかどうか知らないけど。
 電車はちんちんとベルを鳴らすと釣り掛けサウンドを響かせて走り出す。ちょうど扇形機関庫の裏側になるのだろうか。ゴロゴロ転がってゆきカーブを曲がるとまもなく線路が尽きる。路面電車の駅としては立派な建物が現れてこここが本来の乗降場。これで150円であった。
 電車はポールの向きを変えて次の発車に備える。それを横目に来た道を戻る。300mだから歩いてもすぐである。さて京都駅に戻ろうかと思う。

 ちょうど京都駅に向かうバスがいる。梅小路公園と京都駅を直接結ぶバス。観光仕様の立派な車両があてがわれている。梅小路公園のための対応ではなくて、途中にある京都水族館へのアクセスバスという位置づけ、らしい。
 バスは空いている。京都水族館で少々お客さんを乗せて、京都駅まで10分ほどで運ばれた。時刻は12時半近く。
 お昼時。駅地下のモール街で昼食を志したが、混んでいたり何だかんだで食指が沸かない。夏休みの土曜日だから詩歌ないのかも知れない。

 何となく諦めて駅ビルへ。こちらも食指が沸かないまま、結局改札内。在り来たりだが立ち食いのスタンドでうどんにする。

 はも天と玉子丼のセット、なんてものにしてみる。期待しないで食べたけど、思ったよりは旨かった。
 さて帰り道。行きと同じく東海道線を上るのはたやすいがつまらない。ちょっと遠回りしようと思い、奈良線のホームに向かった。

 首都圏では見られなくなった103系がまだまだがんばる奈良線。ひさしぶりにノコギリ加速を楽しむ選択肢もあったが、

 快速が先にでるのでそちらを選ぶ。

 転換クロスシートががら空きだったのでビール片手に乗り込んだ。
 相変わらず湿りがちの中を快速電車は走る。昔乗った時は駅に進入する度に減速してまた加速の繰り返し。停まらないだけという印象があったけど、2013年の奈良線は多少複線化も進んで、それなりに走る。途中で単線になって園先は停まらないだけの電車になったけど、ちょっと印象が改まる。
 行き交う普通列車103系ばかりで、これほど103系の目立つ路線も今時珍しい。まぁ関西には阪和線という偉大な路線もありますが。出向が満了する前にもう一度、奈良線のために京都を訪ねるにもアリかも知れないと思う。
 名古屋に向かうなら関西線接続の木津が乗り換え。ぼんやり過ごしていたら木津を乗り過ごしてしまい、結局奈良まで行く。目の前で関西線、加茂ゆきが行ってしまったが、名古屋まで行くのなら30分後の列車でも結果は同じ出合った事が分かったので結果オーライとなる。

 改めて加茂に向かう。大阪から来た大和路快速も奈良を過ぎると人影はまばら。元来た道と木津で分かれてたった一駅。加茂で乗り換えとなる。

 向こうから小さなディーゼルカーが来てこれで三重県は亀山まで向かうことになる。乗り換え客で座席がさらっと埋まる。時間が来るとドアがぱたんと閉まり、エンジンが震える。同時に列車がすっと飛び出す。向こうに延びる細いレールは地に沿って反り上がる。その坂道にディーゼルカーは挑む。線路がカーブするその向こうには黒い雲が沸き上がる。
 木津川の渓谷に沿い列車は走る。深い谷に寄り添うように右に曲がり左に曲がり、ずいぶんと時間が経って思い出したように駅が現れゆるゆると停まる。何人かお客さんを降ろすとエンジンが鳴り響き車体を震わせ登り坂に挑む。

 いつの間にか谷が消えると列車は三重県に入ったようだ。駅名に伊賀が現れる。伊賀上野。まとまった降車客と乗車客がいる。乗ってきたのは高校生の団体。車内が賑やかになる。高原の趣漂う中を走る。山の向こうには黒い雲。どこかで雨に遭うのかもしれない。一際暗くなった柘植のジャンクション。草津線の電車とお客さんを交換。反対側からやってきたディーゼルカーは雨に濡れている。
 さて加太越え。暗い峠道、森の影へと消える鉄路を追って列車は駆け上がる。人煙稀な伊賀の山。長いことエンジンが唸り続けて、一呼吸置くのが加太の駅。一人二人と降りて行く。さらに列車は登り詰め、ようやく下り坂に変わる。降り出しそうな空の下をコロコロ転がると関に着く。宿場町の面影を残す街、観光客が少々乗ってくる。JR西日本最後の一区間を淡々と走ると、線路が広がる。オレンジ帯の気動車が姿を現し、境界駅の亀山に到着となる。

 春先、名松線を乗りに行った時の、帰りが同じ時間の列車であった。即ちこの先はもう時間が読めるのである。亀山から快速電車で1時間少々。すれ違いでやたらと停まるのも変わらない。名古屋には17時半過ぎに到着。

 最後は何となく中央線周り。たまたま元セントラルライナー313系がいてそれに揺られる。どこか得をした錯覚を覚えるけど、あくまで錯覚なのだろうなぁ。
 帰宅。自炊できる時間だったけど買い物に行ったら、ついつい見切りになっていた惣菜を買ってしまいそれでお茶を濁す
 明日は一日三河。天気は悪いようだが、さて、どうなることやら。