目が覚める。窓の無い上段寝台では外の様子は良く分からないが列車は停まっているようだ。体一つ、ベットから外に出てみる。結構大きな駅。スラーッターニーらしい。後の列車を待つらしい人がホームにちらほら。列車に戻るとベルの音が聞こえる。まもなく発車。ベットに戻るとすぐに眠りに落ちる。
 再び目が覚める。上段寝台から通路に出る。外は明るいようだ。列車の最後尾に行ってみた。

 冴えない空だが、夜は明けている。タイ国鉄南線の線路は相変わらず単線。でもコンクリート枕木に変わっていて、保守は良いようだ。バタワース発バンコクファランポーン行き、タイ国鉄特急36列車は流れるように走っている。 

 東の空は赤みを帯びている。もう朝は始まっている。ベットに戻る。妻はまだ寝ているようだから上段寝台に戻ったが、もうカーテンを開けて過ごす事にする。
 車内は少しずつ動き出している。人の起きた気配。洗面台へ向かう人。妻も起きたので下段に降りてベットに腰掛けさせて貰う。

 降り支度をする人が見えて、列車の速度は緩む。目覚めてから最初の停車駅。

 フアヒンである。ビーチリゾートの最寄り駅だそうで、外国人観光客も何人か降りてゆく。しばらく列車が停まっているので、朝食でも買えないかと想い外に出てみた。ホームは賑やかだけど朝食になりそうなものは売っておらず断念。

 折角なので先頭まで行ってみた。機関車はパダンブサールで見た機関車がそのまま。機関車の後ろにやはり同じくパダンブサールからの荷物車。1等寝台車が居て、あとは2等寝台車となる。
 乗車する10号車まで戻る途中に発車のベルがなるので乗り込む。車内は所によりベットが座席に戻されている。朝食の時間も始まっているようで、シートサービスが届いているところも。
 時刻は7時になった所。手元のガイドブックを開き、タイ全図を見る。タイ全土で見るとフアヒンはバンコクにかなり近い。それなりに走っているのだなと思ったところで、昨日の食堂係がやってきて、フアヒンだよ、と声を掛けてくれる。どうやら10号車でもサービスが始まるらしい。

 雲が切れてきて青空が広がる。時刻は7時半過ぎ。車窓には水っぽい景色。二期作の一期目が刈られた後だろうか。
 10号車の車内でも朝食の配布が始まる。粥だったりサンドイッチだったりする軽い食事で100バーツを払う気にはなれなかったので、こちらは頼んでいない。空腹でもないからまぁ良いけど、同じ時間のタイ国鉄東線、アランヤプラテート行きは頻繁に物売りが行きかっていた。三等車の旅とは勝手が違うなぁと思う。

 列車はペッチャブリーに到着。今度は降りる人が全く居ない。後で時刻表を見ても通過になっているから、運転停車だったのかも知れない。
 この辺りから車内販売の人が時々行きかうようになった。何か買おうかとも思ったけど、お菓子か何かのかごを持っていたので見合わせ。ひとまず水のストックはあるから何とかなる。というか水ぐらいは多めに持っておくべきなのかも知れない。 

 8時を過ぎる。マレー時間なら9時。今日も一日暑くなりそうな景色が広がっている。バタワースを発って19時間が過ぎている。バンコクまであと何時間掛かるか分からないが、単調だった景色も何時の間にか雰囲気が変わり、はるばるやって来た感は滲み出ている。

 列車の姿が見えて駅に着く。どうやらラーチャブリーに到着したようだ。下り普通列車トンブリーからランスアンに向かう255列車だろうか。ここで初めて食事らしいものを持った物売りがやってくる。折角なのでお買い上げ。

 もち米に豚肉で40バーツだったか。中に乗ってきたおばちゃん。人の財布から20バーツ札二枚をひったくるように去っていったのだが、どうやらラーチャブリー発車までに列車を降りるつもりだったらしい。その前に列車が動き出して降り損なった様子。観念して車内を一巡したのが後でもう一回売りに来ていた。
 このもち米。案外と美味しい。豚肉は生姜焼き的な感じでこれも美味しい。100バーツでさほど美味しくもない(であろう)サンドイッチ
 昨日寝台を作ってくれたボーイがやってきてベットを座席に戻してくれる。どうもこれは強制ではないみたいで、通路を挟んで隣のベットの主、女子大生二人組なのだが、ベットをそのままにしてもらって引き続きzzzzの様子。

 列車はメークロン川を渡る。昨年のタイ旅行で訪れたメークロン線、線路市場のあるメークロンの上流にあたる。だいぶバンコクに近づいているようだ。線路も複線になっている。
 車窓の景色も家々が目立つようになり、バンコクの気配がしてくる。何度目かの定点観察で列車の一番後ろに行ってみると 

 ずいぶんと近代的な駅が流れてゆく。高床式のホームが準備されており、タイ国鉄の汽車というよりは郊外電車の雰囲気がぷんぷん。まもなくチャオプラヤー川を渡る。北線が寄り添ってくるとバーンスーのジャンクション。
 ここからファランポーンはすぐなのだが、この数キロが意外と時間が掛かる。バンコクの都心を平面交差で行くが故に、踏み切りの開け閉めだなんだで信号待ちの時間が増えるかららしい。渋滞の深刻なバンコクではたとえ幹線鉄道であっても、道路交通の方が優先であるらしい。
 少々待たされたが、意外とスムーズにバーンスーを発車する。 

 そして何度か踏み切りが現れる。この時間、ラッシュ時間ではないからスムーズに走れるのかも知れない。今度は東線が寄って来るとファランポーンも近い。スラムを横目に二度三度、信号停止は喰らったが直に動き出すとファランポーンの駅に到着する。
 終着駅、ファランポーンには11時の到着。バタワースから21時間半の汽車の旅

 列車は歩みを止める。パダンブサールから乗務していた食堂の係がホームのベンチで寛ぐ一方で、車両のサボはすぐにバタワース・ハジャイ行きの35列車に変えられる。そして使用済みの寝具が勢い良くホームへと降ろされてゆく。

 向かいには日本からやってきたブルートレインが紫色に姿を変えて休んでいる。

 パダンブサールから36列車をエスコートしてきた機関車。記念撮影する外国人の姿も目立つ。 

 さて、バンコク到着。この街へ一歩を踏み出そう。
 ファランポーンの駅からホテルへはタクシーに乗る。駅のタクシー乗り場、声を掛けてくる運転手もいるけど、そばにはツーリストポリスも眼を光らせていて、一番前に停まっているタクシーに誘導される。ホテル名を告げると通じる。「Robinson Departmentのとこだね?」なんて聞かれたから、そうそうと。メーターも普通に使ってくれた。
 駅からさほど遠くないホテルまで10分少々。まっすぐ走れればもう少し早そうだがバンコクは一方通行が多くてどうも真っ直ぐはいけないようだ。さて。そのホテルが近づく。

 Robinson DepartmentがFireだという運転手の声に外を見ると、昨年も眺めた景色、どこか煙っている。ラジオのニュースでも言っているよといって、ホテルの前までは入れないからとここで降ろされた。さて、どうしたものか。まずはホテルまで行かねばなるまい。

 消防車にホース、流れる水が物々しいRobinson Departmentの奥がこれから泊まるホテル、センターポイントシーロムである。昨年もここに泊まっていて大いに気に入ったもので再度の登場なのだが、さて。

 煙たい感じの中で消防士もたくさんいて、間違いなく火事なのだがひとまず目の前のホテルは無事である。ただし、近寄れない。これから泊まるのだけどどうしようと思っていたら、隣の人はお金全部部屋なんだよ、どうすんのなんて言っている。そんな中でスタッフらしい人が声を掛けてくれる。火事でチェックイン出来ないから、別のところにひとまず案内するとの事。ひとまず付いてゆくしかない。
 案内されたのはチャオプラヤー川沿い、シャングリラ。ロビーに連れて来られてまずはこちらでお待ち下さいとの事。

 何か妙な事になったが、なるようになるしかない。そう思っていると、今度は宿泊中の人たちが連れて来られてロビーのソファーが埋まる。センターポイントのスタッフと受け入れ先であるシャングリラのスタッフが両方で対応に当たっている。普段から何かあったときの相互扶助協定でもあるのだろうかと思える程の連携ぶり。
 スタッフが廻ってきて部屋番号を聞かれるがこちらはちょうどチェックインする時であり、部屋番号なんてものは無い。その旨を伝える。荷物も大きなものを持ったままだし。ひとまず荷物は預かってもらえる事になる。
 ちょうどお昼時。食事を出すという事で案内された。つれて行かれた先はチャオプラヤー川沿いにあるシャングリラのレストラン。ランチバイキングが振舞われるらしい。費用はホテル持ちであり、大変な出費だろうなぁと同情する。非常時に如何に振舞うかがホテルというか組織の真価なのかなぁとぼんやり考える。現に焼け出された(いや、焼けた訳ではないけど)人たち、嬉々としてランチバイキングに向かっている。
 こちらも食事は頂くことにする。


 さすがに美味しいが食欲があまり沸かない。時間はあるのでゆっくり頂く。1時間もするとレストランの中も閑散としてきた。ホテル、戻っていいのかな?と思うが特に案内は無い。

 改めて先程のホテル。消防車の数は少なくなり、消防士の姿も見えないが、まだどことなく煙たい。ホテルのフロントまでは行く事は出来る。チェックイン出来るか?と聞いて見たがまだ無理だとか。16時以降と仰るが、まだ13時半。

 ちなみにこの火事はネットで記事になっていた。後日見つけた記事を貼っておく。

 閉鎖中の百貨店で火事 ロビンソン・バンラック店 2013年8月16日(金) 04時59分 《newsclip》

【タイ】15日、バンコク都内ジャルーンクルン通りで、改装のため閉鎖中のロビンソン百貨店バンラック店で火事があり、従業員の女性1人が煙を吸い込み病院で手当てを受けた。
 午前10時50分ごろ、2階で出火。消防が出動し、約30分後に消し止めた。飲食店の内装工事中に溶接の火が引火したとみられている。

 ひとまず観光に行こうかと思う。
 バタワースからバンコクまで丸一日夜行列車の旅に付き合ってもらった代わりと言っては難だが、バンコクでは主導権を妻に委ねている。まずはマッサージに行きたいとの事で、前回も行った

 こちらのマッサージへ。前回は2時間以上待たされてその後の行程が大いに崩れたのだが、今日は待ち時間は殆どなし。値段は50バーツあがって500バーツになっている。たった一年ではあるが、物価の上がり方がずいぶんと激しい気がする。
 マッサージはたっぷり2時間。気持ちよかったが、最後にチップで100バーツを請求された。文字通り請求で正直気分が悪くなる。こちらとしてはチップは概ね1割だろうと思っていたからびっくり。後で調べてみると100バーツぐらいが当然らしい事が書いていたので認識を改める事になる。
 日は傾き、バンコクは夕方の5時。一度ホテルに戻る。BTSで1駅半程度のなので歩いてもたかが知れている。さすがにホテルの前から消防車は消えていた。今日三度目のフロントへ。いや、一度目はフロントに入れても貰えなかった。
 今度はさすがに部屋に通される。ロビーはきな臭さが残るが、上層階までは伝わってこない。火事を起こした百貨店は改装中で休業だったとの事。この百貨店、地下にはスーパーやレストランもあり、使い勝手が非常に良いのがこのホテルの利点でもあったのだが、残念なところである。
 部屋はチャオプラヤー川が見える側。

 曇り空が残念だが、今の時期、バンコクは雨季。一瞬どかんと降るのがこちらの雨季らしく、ペナンでも雨に降られて困った経験はしていないが、朝晩は冴えない天気だった。そして今日のバンコクも夕方になるにつれて、この天気である。夜のお出かけは傘を持ってゆかねばならないだろうか。
 荷物を置いて、落ち着いた後、再び外に出る事になる。この分も主導権は妻に委ねる。課されたミッションは両替、買い物、夕食である。

 サパーンタクシーンの駅からBTSに乗り込む。BTSの運賃、何時の間にか値上げしている。前は切りよく25バーツだの30バーツだったりしたが、値上げで32バーツとか28バーツとか、妙に端数が多い。
 3駅ほど移動するとサラデーンの駅。地下鉄との結節点だから乗り降りしたことはあるが、今日はここが目的地。

 18時半過ぎのBTS、東京以上のラッシュである。KLなら次の列車を待つところだろうが、バンコクのラッシュはこれでも乗る。ラッシュ馴れしている日本人の目から見ても乗るなぁと言う感じ。
 駅を出たところはタニヤ通り

 日本人向けと言うわけではないだろうがやたらと日本語の看板、日本語の呼び込みが目立つ所である。ここに来た目的は、両替。レートの良い両替商があるのだそうだ。こう言った情報は女性の方が聡いなぁとは思う。
 両替商は酒屋さんと兼ねているそうで探してみてもなかなか見つからない。結局、タニヤ通りを一往復。駅の近いところにこじんまりとしたお店を見つける事になる。
 両替のミッションは無事完了。次は買い物。隣のパッポン通りへ。ここも歓楽街というか何というか。

 出店も沢山並んでいるが、ガイドブックによるとぼったくりな店ばかりだとか。勿論そんな店に用事があるのでは無く、この通り沿いにある路面店、バックの店に寄る。一年前のバンコクでも寄ったブランドの店だが、お気に入りなのだそうだ。
 買い物に付き合った後は夕食となる。今度はプーポッパンカリーの店。バンコクでも有名なソンブーン・シーフードレストランに向かう。
 一年前も食べたが前回は本店。今度の店は今居るパッポン通りに程近いスラウォン店。

 本店より大きいのではないかと思われるほどの建物。混んでいて若干待たされたが、程なく3階の席に通される。

 ビールはチャンビアの大瓶を頼む。確か110バーツ。向こうにぼんやり見えているのは妻の頼んだスイカジュースとなる。
 料理は3品。比較的順当に決まった。

 ここの名物、プーポッパンカリー。カレーと言ったらカレーだが、濃厚な風味が恐ろしいほどの味わい。他で食べた事が無いから何とも言えないけど、ここのプーポッパンカリーは旅の目的に成りえるんじゃないだろうかと思う。

 副菜として春雨と海老の炒め物を。

 そして野菜が足りないなぁと思ったときの救世主。空芯菜炒め。
 満足したが支払いも1000バーツ超え。結構な贅沢となる。
 相変わらずお客さんの途切れないソンブーン・シーフードレストランを後にホテルに戻る。ここからはBTS、チョンノンシーの駅が近い。駅へと向かう途中、マックスバリューなんてスーパーがあったので寄る。いわずと知れたイオン系列のスーパーだが日本のそれとは違いずいぶんと小さい。日本で言えばまるでまいばすけっと
 お土産やら日本で使う食材を買い求めるとBTSの駅へ。時刻は21時半。さすがにラッシュは終わっている。楽に乗れそうだ。


 BTSは座れないが楽に立ってゆける程度の乗り具合。二駅乗車してサパーンタクシーンの駅。ホテルに戻ると22時。バンコクはまだまだ夜の始まりだろうが、昨日とのギャップが激し過ぎる。今日は早々に寝ようかと言う気になった。