目覚ましの音で目が覚める。朝5時を少々回ったところ。週末の二日目、愛知のいわゆる西三河、出先の家で無理矢理起き出す。
 今日も少々出掛けようと思っていて、この時間。始発の電車を捕まえようと思って出てきたのだが、駅に着いてみると列車は出た後。正直、???なのだが3月のダイヤ改定で始発列車の時刻が変わっていたのだった。3分繰り上げに見事に引っかかった、らしい。次の電車はしばらく間が空く。
 せっかく早起きしたのに残念な事だが、時刻表を見ていない自分が悪いのだから仕方ない。黙って待つのも仕方ないので別ルートを志す事にする。電車を乗り継ぎ、何とか刈谷にたどり着いた。予定より40分ぐらい遅くなっている。
 刈谷に7時前。今日使用する切符を買っている間に普通列車が出て行く。7時に改札の中へ。
 今日の心づもりは武豊線武豊を往復してから名古屋。名古屋からは関西線、9:05の亀山ゆきに乗る。刈谷に7時に居れば十分出来そうな行程だが、あちこち邪魔があってどうもお宜しくない。

 まずは東海道線。先発は特別快速。これは武豊線の始発駅である大府には停まらないから乗ることが出来ない。後の普通列車、7:14まで待たねばならない。早々にやってきた普通列車。特別快速に抜かれ、貨物列車に抜かれてからの発車となる。大府までの二駅を移動するのに30分を要する事になる。
 大府から武豊線。7:28の武豊行きに乗る。最初に乗ったのが95年だったからもう20年近く前だ。目の前にいるのはキハ75。95年に乗った時はキハ47だった。そのメンツだけ並べてみると時代に流れは分かりづらいが、その間に自分だけは確実に歳を重ねている。
 定刻に列車は発車。出足鋭く大府を後にする。東海道線をまたぐと架線が消えてどことなくローカル線の風情。田園風景の中に住宅やマンションが混じり合う。


 日曜日ではあるけど朝だからすれ違う列車は多い。二駅連続で上り列車の待ち合わせをする。そして結構お客さんを集めている。そして列車がやってくる線路の脇には架線柱。武豊線、電化工事の真っ最中である。
 建物の方が目立つようになると半田の街。名鉄のエリアとなる。街の反対側には大きな工場も目立つ。大府で東海道線と分かれた辺りの雰囲気と一変して終着、武豊となる。


 この辺りの人は名鉄を使う人が圧倒的に多いようで、駅前は閑散としている。駅前に山積みされた酒樽が妙に目立つが、武豊や半田の辺り、酒に限らず醸造業が盛んな所である。
 折り返し列車は5分後の発車。駅前を一瞥すると列車に戻る。8:15の名古屋行きと言う列車に乗る。武豊の時点では殆どお客さんがいない。
 先程来た道を巻き戻す。一駅毎にお客さんが乗ってくるが席がさらりと埋まる程度。むしろすれ違った武豊ゆきの方がお客さん乗っているぐらいかもしれない。そういえばどこかで貨物列車とすれ違う。日曜日でも走っているんだと認識を新たにする。今度機会があったら撮りたいものだ。
 大府に到着。列車は区間快速として名古屋まで直通する。大府からお客さんでほぼ席が埋まる。ここで隣の線路を勢い良く特別快速が駆けていった。この列車が大府に停まれば、名古屋で乗り継ぎは間違いなく成立するのだが。個人的には恨めしいが、実際現場を見てみると、良く考えられたダイヤであることは分かる。
 特別快速の後追いで区間快速気動車は天下の東海道線を駆ける。良く走ったが、金山の前で徐行。名古屋の手前でも徐行。多分、先行している特別快速にアタマを押さえられている。
 定刻についても1分乗換は厳しいだろうと思っていたが、名古屋到着は2分遅れ。当然、

 関西線の亀山ゆきは行った後である。
 必ず乗らねばならない列車ではないからと自分を慰め、次の列車に乗ることにする。次案だと9:37の快速みえであるが、先に出る普通列車四日市へと先行してみる。
 名古屋から西に向かうにせよ、南に向かうにせよ、馴染みのないエリアに紛れる事になる。どことなく水っぽい景色を眺めつつ、ぼんやりと過ごす。電車だけは軽快で刻むリズムに着いて行けない感も若干。
 50分ほどで四日市到着。ここで後から来る快速に乗り換える。10分程の間に改札の外に出てみたが、


実に寂れた駅であり、駅前である。四日市の繁華街は1kmほど離れた近鉄四日市駅周辺。JRの四日市はどちらかというと貨物駅で、タンク車やらコンテナがごろごろしている。

 後続の快速列車がやってきて乗車。混んでいる印象が強い快速みえだが、4両つないでいて、なおかつ四日市で降りるお客さんもいたから座れる。
 先程の武豊線と同じキハ75四日市を後にする。都市近郊輸送と都市間輸送と性格は異なる列車だが、こちらの快速列車の方がキハ75にとっては本来の使われ方。線路も良いから結構な速度で順調に飛ばして行く。お客さんも遠距離の人が多いようで、車掌が車内を廻ると名古屋からの乗り越しを申告するお客さんがちらほら。1000円単位の補充券が何枚も売れて行く。

 伊勢鉄道を経由して、津。さらに松阪まで来て下車する。時刻は10: 。実は予定よりも早めに着いている。
 朝食がまだだったので、伊勢うどんを食べて行く。

 駅のスタンド、普通のかけうどんが¥230で伊勢うどんが¥250と言うから今時としては破格。ちなみにきしめんとそばもある。値段は似たり寄ったり。
 伊勢うどんをお願いすると実に長々と湯通しをしてから供された。太くて柔らかい伊勢うどんの茹で時間は半端ない。 


 これ、初めて見た時は衝撃だったよなぁ。

 今日はこれから名松線に乗る。松阪から名張を目指して敷設された路線だが、開業したのは途中の伊勢奥津まで。ちょっとした街から山間へ入り込んで最後は行き止まりという絵に描いたようなローカル線だ。昔はいくらでもあったタイプの線だが、国鉄改革の時に廃止されたり、第三セクターに移行したりして、JR線でこんな形で残っている路線、無くはないけど数を減らしている。
 名松線自体も廃止になるはずが平行している道路にバスを走らせられないという理由で廃止対象から除外された路線。条件が悪すぎて廃止できなかったという路線になる。JRからすればお荷物扱いであることは間違いない。
 そんな名松線。2009年の台風で被害を受けたのがきっかけで、山奥の方、家城と伊勢奥津の間が運休になっている。代わりにバスを走らせているとのことで、このままバスで実績を積んで鉄道を無くそうという魂胆にも見えなくは無いが、とにかく、様子の変わった名松線を見ておこうというのが、今日の趣旨。
 次の名松線。家城行きのディーゼルカーは11:19の出発。この時間帯、概ね2時間に1本は列車が確保されている。普通列車だけ見れば1日3本しかない田沢湖線、みたいな路線もある事を考えると立派ではあるけど、もっと本数が減れば、お客さんが相手をしてくれないだろう事は容易に想像できる。

 家城からの列車が到着して20人ぐらいが降りてくる。代わりに乗り込んだのは10人ほど。2時間に一本の列車としては物足りない。その後もお客さんはあまり増えない。
 遅れている特急の到着を待って発車。お客さん、結局15人ぐらいか。この辺り、名松線に沿って近鉄の線路も通っている。松阪からちょっと乗る程度の人は、本数の多い近鉄だけしか目に入らないのだろう。
 朝は寒かったが、この時間は日も高くなり、車内は暖か。眠気を覚えるが我慢して起きる。列車は畑や住宅地の混ざる中を走る。人が居ないわけではないのだけど、このあたりの住民にはあてにされていない名松線気動車は淡々と走ってゆく。右手には近鉄の立派な線路もちらっと見えた。
 近鉄と併走するのは一志まで。その一志でお客さんが二人乗ってくる。津と行き来するのであれば一志乗り換えが便利なのかもしれない。この先は少し山がちになる。

 列車が走っているのは谷間へと分け入る家城の駅まで。ここで代行バスに乗り換えとなる。この先、伊勢奥津まで延びている線路は錆び付き、信号には×印が付けられている。

 代行バスは駅前に待機している。こちらに乗りこんだのは15人ほど。松阪からのお客さんがほとんどそのまま残った感じ。鉄道好きという雰囲気の人が数人と、ハイキング風のお客さんが10人弱。伊勢奥津の更に先に桜の名所があって、そこへ向かうお客さんがいるらしい。地元のお客さんとおぼしき人は見あたらない。

 バス自体は中型車なので15人乗るとそこそこ席は埋まる。結構にぎやかに思えるが、列車の代行と考えるとやはり寂しい光景には違いない。
 バスには運転手の他にJRの社員が一人。制服姿では無くて背広姿なので本社か支社かの応援のようにも見える。12時ちょうどにバスは発車となる。
 バスは片道一車線の道路を山間へと入ってゆく。名松線の線路もちらちら見えているが、特に大きく損傷しているような所は見あたらず。もっと山へと入ってゆくと被害が明らかになるのだろうか。
 列車代行のバスなので、バス停はあっても無視。駅にあるところには律儀に寄り道をする。だんだんと山が迫ってきて川と線路ともつれながら遡る。途中、何度か観光バスとすれ違う。ツーリングの集団も来る。伊勢奥津の先にある桜の名所、三多気の桜というそうだが、相当有名な桜であるらしい。
立派な道路から分かれてわき道に入ると集落があって、バスが停まる。駅名を告げられ、誰も乗り降り無くすぐに発車となる。さらに山奥へと遡ると先程の立派な道に戻る。
 「この先、道が狭くなります。急ブレーキを掛ける事もありますので深く腰掛けて、荷物に注意してください」
 そんな案内があって、バスはわき道にそれた。確かにすれ違いも大変な道で山は迫り、線路ともつれながらバスはさらに奥へと向かう。エンジンの震えが背中に伝わり、もぞもぞする。腹痛が背中に来ているからそのせいだろうか。国鉄のローカル線廃止の議論で通院の年寄りにはバスは過酷だ、なんて話もあったのを思い出す。何事もその身になってみないと、辛さは分からないものだ。
 山間が少々広がり、集落が現れる。集落を避けるように道は続いて、その道からそれる。

そこが伊勢奥津の駅。12:38に到着。40分弱のバスの旅であった。
 伊勢奥津から家城に戻るバスは13:21、40分ほど時間があるので少々その辺を散策する。桜見物の人たちはここから先、さらにバスに乗り継ぐそうだ。名松線のうち名というの字の所以である名張へ向かうバス。普段はほとんど走っていないが、この週末は桜を見に行く人の為に増発しているとの事。バスの増発を知っていれば名張まで出ても良かったかなと思う。が持っているフリー切符がもったいないので予定通り名松線代行バスに乗る。
 駅前、というかバス乗り場というかには地元の団体が出店を出している。いろいろな物産の中にお弁当も売っていてひとつ手を出してみた。

 アマゴという川魚の炊き込みご飯。この辺りの名物のようで甘露煮でも売っていたりする。ご飯を買い求めると試飲用のお茶も一緒に貰える。これでお値段は400円。

 淡泊で上品な味わいの魚で、結構気に入る。甘露煮も試したくなったが、絶対に酒を飲みたくなるからやめておく。

 まだ時間があるので街をぶらぶら。

 駅には「みんなで守ろう名松線」の大きな看板。

 伊勢奥津は元々宿場町だったようで、何となくそんな雰囲気を伝える建物が残っている。


 名松線の利用に関するアンケートに答えると、缶バッチが貰えるそうだ。誰もいない、いわば無人アンケート会場。缶バッチだけもって帰る人もいるだろうなぁと思うが、無人でも大丈夫と言い切れるだけの実績があるのかな。


 こちらは酒の醸造元。結構モダンな雰囲気の建物でこれはこれでいいなと思う。

 街外れ間で来ると踏切にぶつかる。ひょろひょろと延びてゆく名松線の線路。
 廃止の打診もあったそうだが、結論としては自治体が補助を出して復旧するそうだ。2016年度をメドにと言うことなのでまだ3年も先のこと。特に大きく被害を受けたようにも見えないから、どうして3年掛かるのか、良く分からないが、とにかく何れは家城までの列車が伊勢奥津までやってくるそうだから、その日を楽しみにしたい。

 さて、駅に戻ろう。
 持て余すかと思っていた40分、経ってみると意外と短く、最後は慌ただしくバスに戻る。戻りのバスは13:21。もちろん先程と同じバスとなる。先程も乗っていた人、新しい人合わせて10人ぐらいだろうか。元来た道をバスは戻る。運転手が狭い道でクルマの行き違いに苦労する間、自分は背中の違和感と格闘する。昨日の高速バスは何とも無かったのだが、しばらくの間、バスに乗るのはやめた方が良いのかなとも思う。
 途中駅でお客さんが乗ってこないのは先程と同じ、と思ったら最後の伊勢竹原で二人乗ってくる。ようやく地元の人が利用する光景を見ることができた。

 再び40分掛けて家城に戻る。先程と同じ気動車がいる。気動車気動車でこの間に松阪を一往復して戻ってきた所である。


 のんびりとした乗換点で写真をのんびり撮っていたら、今度はボックスにあり付けず、ロングシートの一番後ろに座ることになる。

 バスに乗っているとそれなりに多いように思えたお客さんも、気動車の中に散らしてみると、実に閑散とした風景になってしまう。
 先程と同じ景色だが、今度は遠ざかるレールが見える。ぼけっと眺めていると踏切が開いてクルマが行き交う様子が見て取れる。クルマの人、やってられないと思っているかもしれない。そういえば家城から松阪までのいわば里の区間では「廃止反対」の看板、みないなと思う。
 沿線の温度差を感じつつ、松阪まで戻る。時刻は14時40分。今日はこの後、フリー切符を生かして松阪から鳥羽へと足を延ばすつもりだったが、何か疲れてしまった。鳥羽には行かずに帰ろうかと思う。とはいえ松阪へと来るときに廻りそびれた亀山の駅も気に掛かる。帰りは亀山廻りを志す。

 津まで一区間、快速みえに揺られる。座れたしこのまま名古屋まで行ってしまえば早くて楽なのだが、

 津で降りて向かいに停まっていた亀山ゆきに乗り換え。亀山へ行く普通列車、さらに特急の到着を待ち、ようやく出発となる。
 紀勢本線の津と亀山の間。特急が通るわけでもなく、取り立てて大きな町があるわけでもなく。沿線は田圃。ちょうど水を張っている所で、パッチワークのような美しい光景が広がる。世の中的にはこんな路線もローカル線と言うのだろうが、先程の名松線と今の紀勢本線。素性が違うし、客の数も違う。分けて考えないと紀勢本線がかわいそうだ。
 立派な途中駅に往年の賑わいを偲びつつ、亀山まで。3方向から鉄道の集まるジャンクションであり、寂れながらも独特の雰囲気が漂う駅である。どこか気になる好みの駅だ。到着前に乗り換えの案内。「関西線名古屋ゆきは16:24」と案内。40分以上の待ち時間。そんなにあるなら名古屋直行した方が良かったかなと思うが、もう遅い。
 亀山の駅。雰囲気は好きだが駅前に出ても意外なほどなにもない。亀山の名前と前面に出したテレビはあっても、会社自体がおかしくなっているからか、そもそもそういう所要客は鉄道を使わないのか、駅前は寂れたままだった。
 時間をつぶすのも困りそうな雰囲気だったが、駅前の大衆食堂に


「亀山みそ焼きうどん」
なる幟が立っているのが気になる。いわゆるB級グルメだが、最近は色々と種類が多すぎて訳が分からない。だから、全く予備知識なしにこんなものに当たる事になる。

 時間が中途半端だから店には客がいない。メニューには寿司の文字も見えるが、頼むのはみそ焼きうどん。価格は¥600だった。待っていると熱い鉄板に乗せられたうどんが供される。

 こちらの味噌らしく赤くて甘めの味噌で味付けされた焼きうどんは少々濃いめの名古屋味。物珍しいとは思うけど、これを目当てに旅行する程ではないかなぁと思う。
 とはいえ、持て余すかと思っていた亀山の時間がこれで流れていった。その点には感謝しなくてはならない。

 駅に戻る。まもなく名古屋方面から列車がやってくる。折り返し名古屋行きの快速列車だ。ぱらぱらと席が埋まる程度の乗車で発車を待つ。外が薄暗くなってきている。伊勢奥津ではしっかり晴れていたけど、どうも天気が崩れ気味。
 快速列車は四日市までは各駅停車。駅に停まる度にお客さんを増やして行く。少々疲れを感じて今度はzzz。桑名の大量乗車で目が覚める。立客が大勢出る程の勢い。
 列車の体裁は整い、次は終点名古屋の案内も凛々しく、桑名の駅を駆けだしていったのだけど、そこから先がダメダメだった。「列車行き違いのため、停まります」「列車行き違いのため、停まります」「度々恐れ入ります、列車行き違いのため、停まります」行き違いばかりで、そのたびにこちらが待たされる。時刻表では無停車でも実際には4、5回ぐらい待たされただろうか。何とも看板倒れの列車であったが、とにかく名古屋には定時に到着。
 名古屋からは普通に帰るだけ。松阪から鳥羽を往復するより30分ほど早くなっており、出先の家に戻るとまだ多少は明るい時間帯。