週末の朝を三河で迎える事になった。目覚めると7時を少々回ったところ。睡眠7時間半というのはちょうど良いリズムなのだろう。昨日とうって変わって爽快感もある。
 目覚めは爽快なのだが、外はうすぼんやり。昨日の晩から雨が降っている。たまにこちらに滞在するなら中部空港に飛行機の写真でもと思っていたのだが、数日前に天気予報が出た時点でご破算になりそうだった。
 とは言え、狭い家で一日をぼんやり過ごすのも気乗りしない。元々一年限定のつもりだったから、必要最小限のものしか持ち込んでいない。3年間生活の拠点になるのであれば、もう少し何かそ揃えても良かったのだけどなぁ。
 名鉄の駅に出る。ここで二日間有効の全線フリーパスを買う。¥3,800もするのだけど、中部空港をリムジンバスで往復すれば¥3,000するのだから、まぁ、悪い買い物ではない。
 名鉄線。2000年の5月に一通り踏破している。その後、出張やらなにやらで乗る機会は増えたけど、一方全く縁のない路線も多い。改めて乗ってみるのも悪くはない。ただ今回は別の目的もいろいろ突っ込んでみる。
 まず向かったのは犬山。名古屋を挟んで東から西への移動となる。1時間ではたどり着かず、着いてみると10時半。出先の家を出てから2時間が経っている。一度改札を出る。今日はここから明治村に行ってみる。
 明治村は明治時代の建物を集めた屋外型の博物館。名鉄が運営しているので、電車の中でも痛々しいまでにポスターを見かけるのだけど、今まで一度も行ったことはない。これは全線完乗なんて事を口走るヲタとしてはゆゆしき問題である。明治村には、明治時代の蒸気機関車路面電車が動態保存されていて、定期運行しているのである。法律上の鉄道では無く、あくまで博物館のアトラクション扱い。だから乗らなくても別に構わないのだけど、法律上では鉄道だからと、別府の遊園地のケーブルカーにわざわざ乗りに行くのに、明治村蒸気機関車路面電車を放っておくのはバランスが悪い。
 まぁ、アトラクションとしての鉄道に手を染めると大変ではあるから、法律で線を引っ張る事自体は必要なのだけど、目の前に行ける所にあるアトラクションには乗っておこうかと思う。
 前段が長くなった。明治村へは犬山からバスが出ている。こう言うところは自家用車か観光バスで行く所なので、わざわざ犬山駅前から路線バスに乗る人は少ない。一応休日のこの時間は1時間に3本、バスがあるのだけど、どこかの団地に行くついでに明治村まで足を延ばす路線であるらしい。

発車ギリギリになってやってきたバスを待つのは10人弱。名鉄バスだと思いこんでいたのに、やって来たのは岐阜バスコミュニティーという会社。マナカは使えないようだ。乗る前にわざわざチャージしたのだけどな。
 雨はやんだが空は冴えないまま。バスは乗り降りのないままニュータウンやら団地というエリアを抜けるとちょっとした山間に入って行く。道を跨ぐ堂々とした橋があって、高速道路の類かと思ったら、愛知用水の水路。中学の社会科か何かで出てきた覚えがある。へぇと思う。
 結局、犬山からのお客さんはすべて明治村まで。ここまで20分少々。入場券に乗り物の一日乗車券を付けると2,600円。なんか名鉄に貢いでばかりな気がするが、さて。
 村内、閑古鳥が鳴いている。どう動くか決めないままぷらぷら歩いて行くと、市電の駅にぶち当たる。

 ちょうど吊り掛けサウンドを高らかにN電がやって来たので乗ってしまう。先週、横浜市電保存館でみた電車の大先輩にあたる明治44年製の車両が今なお現役で活躍する。

 乗客は自分一人。それに運転士と車掌と二人いるから恐縮してしまう。電車はゆっくり、ゆっくり、本当にゆっくりと村内の山がちな所に敷かれた線路を走って行く。

 約5分ほどで明治村の中程にある市電名古屋駅に到着。電車はポールの向きを変えて、折り返し運転に備える。
 市電のうち半分を中途半端に乗ってしまった。次は蒸気機関車に乗ろうかと思うが、発車まで30分ほど。その間に辺りの建物を少々見学。

 そして駅へと戻る。遠くから汽笛が聞こえて

 小さな蒸気機関車が現れた。こちらは明治7年イギリス製という、鉄道初期に導入された蒸気機関車。客車も古い形のものが3両連なる。



 汽車が駅に着き、少ない乗客を降ろすと、機関車の入れ替えが始まる。係員が3人、線路の終端にあるターンテーブルに機関車を導く。そして手動で向きを変える。これは手が掛かっているなぁと思う。一日乗車券の1,200円が何か安く思えてきた。

 機関車が向きを変えてホームに戻るとそろそろ発車の時刻。客車に乗り込む。汽笛が鳴ってごとりと動き出す。ゆっくりゆっくり、転がりながら汽車は弾む。弾むとしか言いようのない不思議な乗り心地を楽しむとあっと言う間に終着に到着。

 戻りの列車はしばらく無いので、建物を眺めつつ市電の駅へと引き返す。残っている一区間をやっつけて、明治村に一区切をつけたい。



 山間を伸びる線路を眺めていると先程の電車がやって来る。
 発車まで少々間があったので

 先週もみたような直接制御器を。デッカーの物だが、よくみると「DK Works YOKOHAMA」の文字。デッカーで横浜ってどういう事ですかね。思い浮かぶのは東洋電機だけど、東洋電機製なら東洋の文字が入りそうだし。
 10分弱電車に揺られる。文字通り揺られた。これで明治村の鉄道は全線乗り通した。慌ただしいが12時半のバスで犬山に戻る。バスは空いていたが、途中で乗客を集めて、犬山に着く頃には席がほぼいっぱいになった。
 午後はフリー切符を生かして、名鉄線であまり馴染みの無いところを回ろうと思う。まずは犬山から御嵩に延びる広見線中部国際空港の駅でたまに「準急 新可児ゆき」なんて電車に出会うが、その新可児広見線になる。一度乗り通したきりでその後は縁がないからここいらで、乗っておくのは悪くない。
 広見線新可児までは15分毎に電車が走るが、その先、御嵩へは新可児で乗り換え、そして30分毎となる。時刻は調べていないけど、まぁいいやと直近の電車、二両編成の新可児ゆきに。

 この電車、各務原線普通列車犬山ゆきがそのまま新可児ゆきに化ける形。ロングシートの座席にぱらぱらとお客さんを乗せて走り出す。複線の線路を気持ちよく掛けてゆく。20分ほどでJRの太多線が姿を現し、新可児の駅に到着。
 御嵩行きは20分待ち。後の電車でも一緒だった。これなら犬山で食事をしてきても良かったかも知れない。広見線。この先の御嵩まではワンマン区間御嵩ゆきの乗り場は独立していて中間改札を通る形になる。
 駅にちょっとした軽食堂があったので食べてしまう。昼間から酒を飲んでる常連らしい客が店員と会話をしている、一見さんにはハードルの高いところだったが、可児の駅前、ほかに20分で食事が出来そうな所は無かった。

 さて、電車がやってくる。名鉄の路線、ワンマン運転しているところはたくさんあるが、中間改札を設けた上で運賃の授受を運転士が行う所は、広見線新可児御嵩蒲郡線の吉良吉田ー蒲郡の二区間。どちらも存廃が議論される状況の路線である。その新可児から先、20人ぐらいのお客さんを集めただろうか。時間が来て発車する。
 家が少々減り、枯れた田圃が目立つ沿線。そして駅毎に見える「乗って残そう名鉄広見線」の幟。30分毎ではなかなか相手にされないのか、朝晩は混みあうのか。今日の一段面だけみてもよく分からないまま、列車は終着の御嵩に着く。


 列車はすぐに折り返すので駅前をちらっと見ただけで列車に戻る。今度も列車は空いている。御嵩から乗った高校生、明智で後ろのドアから降りて運転士に捕まり、運賃を払っている。うまくいけばキセル、のつもりか知らんけど。開けるドアを運転席後ろの一つだけにすれば良いのに、といつも思う。

 新可児まで戻ると接続は中部国際空港ゆき。犬山までは普通列車。空港に行くのはたまたまで、日常のお客さんが乗り降りしている。犬山に戻ると14時半過ぎ。
 この先はしっかりとは決めていない。名古屋の西側の名鉄線、ということで津島線尾西線竹鼻線あたりが候補だろうとは思っている。津島線に回るならこのまま名古屋まで。竹鼻線なら各務原線で岐阜まで出る事になる。岐阜行きもすぐの接続であって大いに迷ったが、結局津島線もしくは尾西線を目指し、名古屋に向かう。結局その一つ前、栄生で下車。急行の一宮行きに乗る。まだ須ヶ口から入るか一宮から入るかという選択肢があって、迷うべき所。いざ須ヶ口に着いてみると

 津島線、佐屋行きの電車とちょうど接続。乗り換えてしまう。
 愛知の西側というのは殆ど縁の無い所だし、話題にもならない所。津島とか佐屋とか、名鉄線の行先になっているから何となく覚えているけど、実際どんなところか知らない。その津島に向かって一直線に向かうのが津島線。弥富と一宮を結ぶという古くて冴えない路線が尾西線。まずは名古屋直通の津島線に乗る。名古屋のベットタウンとしては犬山線名古屋本線の沿線と遜色無いのだろう。電車も混んでいる。複線の線路がどこまでも続く。すれ違う電車も多い。
 ちょっと大きな街が現れて津島に着く。ここが終点かと思うほどたくさんの人が降りてゆく。4両の電車はがら空きになる。線路の戸籍上、ここまでが津島線でこの先は尾西線となる。まもなく発車。
 佐屋行きの列車はよく聞くが佐屋の駅、列車の折り返し点といった風情。駅前に広がる街は古ぼけて冴えない。尾西線、ここから関西線連絡の弥富まで延びるが、複線が単線になり、列車の本数も減る。佐屋まで毎時6本がこの先は毎時2本。15分ほど間があるが、時間を潰せるような所もないので、ホームで暇を持て余す。

 弥富ゆきの列車が現れて残り2駅。単線の細道になって淡々と進むとJR線に寄り添って弥富の駅。ここが終点。少ないお客さんが散ってゆく。折り返しまでは10分ほど。

 弥富から名古屋にゆく人は近鉄かJRが殆どだろう。折り返しに乗る人もあまりいない。4両の電車を持て余しつつ、発車時間が来る。今度は名古屋本線豊明ゆき。津島まで乗る。
 尾西線は少々分裂症な所があり、弥富ー津島は津島線と一体化していて名古屋方面の列車が走り、津島から先は一宮までの運転。このままだと須ヶ口に戻ってしまうので津島で乗り換える。一宮までは15分毎に列車があるので、すぐに接続。今度は名鉄ローカル線の普段着みたいな2両編成の電車となる。部活帰りらしい高校生で賑やかな車内。列車が動き出すと一際馴染みのない駅名の連呼となった。
 疲れが出てうとうとしている間にお客さんが増えて立客が目立つようになる。外の景色は結構な人口密集地で確かに混雑しそうな雰囲気。まぁ、まもなく一宮という所ではあったのだけど。弥富と一宮の距離感も頭に入っていないので、もう到着ですか、、、という感じに一宮に着く。17:10。まだ外は明るい。
 尾西線は一宮終着ではなく、さらにこの先玉ノ井という駅まで続く。ここも直通列車は無く、必ず乗り換えという扱いになっている。

 尾西線に割り当てられたホームは1番線だけ。津島行きと玉ノ井行きはホームを前後で分け合う。どちらも2両だから為せる技。まもなく玉ノ井行きもやってくる。

 再び2両編成。今度も混雑している。今日動いていて座席に座れなかったのは一宮ー玉ノ井間が初。一宮を出るとしばらくは高架線、地上に降りても結構飛ばす。あたりは市街地で、三つ目、奥という駅でたくさんお客さんが降りていった。玉ノ井まではあと一駅。
 弥富から続いてきた尾西線の線路は玉ノ井という中途半端な所でぷつっと途切れる。明治の御代の尾西鉄道の頃にはここから木曽川の河原近くまで線路が続いていたそうだ。ちなみに午前中、明治村で見てきた12号機関車も官鉄から尾西鉄道に払い下げられて活躍していたそうである。

 折り返しは10分少々。電車は30分毎の名鉄ローカル線標準間隔。さすがにこの住宅街から一宮に出る人は少ないが、先程の奥でたくさん乗ってくる。30分毎のローカル線ではあるが、乗客はそれなりに定着している。これなら存廃の話題は出ないだろうなと思う。
 玉ノ井まで持ってくれた日もさすがに暮れた。この先、木曽川を挟んだ岐阜県側には竹鼻線羽島線があるのだが、これは別の機会にする。今日は帰ろう。
 一宮から直通で帰れると嬉しいがやってきたのは中部国際空港行き。名古屋で乗り換えると今度は座れない。直通なら良かったのに。最寄り駅に着くと19時。バスに乗らないといけないのだが、接続が悪い。20分待つぐらいならと歩く。結果としてバスを待つより早かったからちょっと気分が良い。
 行動としてはこれでおしまいだけど、夕食、どうしようかなと思って結局外に軽く飲みにゆく事にする。本調子ではないし、一人で普通の居酒屋に行き、自分のペースで飲むとどんどん値段が跳ね上がるからほんの軽く。

 ヱビスのスタウトがあるので頼んでみる。泡に力のあるビールだ。つまみを少々と食事のつもりでサラダうどんなるものを頼む。そして

 もう一杯お代わり。でもこれで打ち止めにしておく。日本酒や焼酎のラインアップが充実していて大いにそそられたのではありますが、自爆みたいな飲み方は、ちょっと。
 手元の乗車券は明日も使える。予報を確認すると心がけて早めに寝る。