目覚めると6時過ぎ。ずいぶんと早起きで起きてから苦笑いする。日曜日の朝は旅先、富山のホテルで迎えた。
 月曜日は赴任先の愛知で仕事。だから、今日は富山から愛知への移動となる。昨日の横浜から富山の移動に比べれば距離は短いし、どうにでもなる行程である。疲れているようなら11時にチェックアウトぎりぎりまで滞在しても良いかと思ったが、6時に起きたのなら、それなりの動きをしようかと思う。
 7時過ぎに食事を取りにゆく。最上階のレストランからは富山の街が一望できる。晴れていれば立山連峰を臨む事になろうが今日は曇り空。


 昨日は暗くて気付かなかったが、新幹線の高架がかなりの所まで出来ている。そりゃ、あと2年ちょっとだから当たり前か。
 ホテルにゆっくり滞在、という旅は身に合わないのか、結局8時前にチェックアウト。駅へと向かう。18きっぷの二日目に日付印を入れてもらうとホームに向かう。今日はこれから高山線に乗る。まずは猪谷行き。


 小さなディーゼルカー2両編成の猪谷行き。15分前にホームに行ったときにはがら空きだったが、発車時刻が近づくにつれてお客さんが増える。座席が軽く埋まる程度の乗車となる。
 列車は富山駅を出ると神通川を渡る。本来なら車窓に富山の市街地が見えるのだろうが、今見えているのは新幹線の高架。そして川を渡ると立派な高架線と分かれてこの先、岐阜まで続く細道へと分けいる。

 一週間前の富山は大雪だったそうだが、だいぶ溶けていて市街地では所々が白くなっている程度。郊外に出ると白一面の景色となる。お客さんは越中八尾までにほとんど降りて、残ったのは明らかに18きっぷのお客さんだけ。そして谷が狭まる。一つ駅を重ねただけなのに山の気配が急に濃くなってゆく。

 猪谷までは1時間弱。JR西日本と東海の境界駅で乗り換えとなる。同じホームで顔を付き合わせて停まっているのは、JR東海のキハ48。6分後の発車である。猪谷から先、本数は少なくなるが、接続は考慮されている。

 青地のボックスシートが続く車内。白いビニールカバーはJRになってからのもの。この雰囲気、165系大垣夜行を思い出す。
 猪谷からは先、美濃太田まで。ちょうどこの列車の走行区間はだいぶご無沙汰している区間である。昨日の篠ノ井線と同じく10年以上乗っていない。前回も普通列車で乗り通したが、確か後半は暗くなった筈で、車窓もあまり印象に無い。
 列車は一際深い谷に沿って走ってゆく。こんな山奥に何があるのだろうと思わなくはないが、それでも走ってゆけばささやかな平地が現れて人家があり、駅に停まればお客さんは乗って来る。

そしてまた谷沿いの細道を登ってゆく。道は登り一方だが、行政区分は富山から岐阜となり、少しお客さんが増える。谷間に広がる平地も少し広くなった。

飛騨古川ですれ違った猪谷行き。国鉄色に戻した車両がいるんですね。首都圏色は飽きるほど見てきたけど、この国鉄色は実は見たことが無い。
飛騨古川を過ぎると平地もかなり広がる。空も晴れてくる。同じような谷間の地、例えばお隣の木曽谷よりは人の暮らしやすそうな所に見える。

 平地が広がり、予備知識はなくてもこの地の中心のありそうな所で直に高山に到着。


今まで集めてきたお客さんがみんな降りてゆく。改札の向こうに見える街は賑やかそうだ。
 車内はすっかり寂しくなり発車時刻。何気にこの先、美濃太田に向かう区間普通列車で乗ろうとすると大変で、この後は4時間空いている。富山8時の後、10時過ぎの列車で来ても高山で2時間待ちを喰らったりする。早起きして高山線をスムーズに進もうか、ゆっくりしてから高山で待ちぼうけを喰らうか。妙な二択は前者を選択する事となった。
 高山を出るとまた谷が狭くなる。飛騨一ノ宮と久々野の間が峠になっていて川の流れ、向きが変わる。天気だけみていると晴れ晴れとしている高山は太平洋側のような気がしていたが、一応はこれで名分ともに太平洋側に出ることになる。

 川の流れが変わり、徐々に下ると雪も消えてゆく。青空が広がるから車窓は暖かく眠たげ。鉛色の猪谷から1時間半程。同じ飛騨でも住み心地は天地の差に違いない。



 高山に続きこの線の拠点は下呂。特急とすれ違い、こちらは10分程停車。ホームには温泉塔なんてものがある。確かに暖かいお湯が湧き出ていてほんの少し温泉気分を味わう。列車のお客さんはここで増える。温泉帰りらしいお客さんもいて、今までと雰囲気が変わる。ボックスがほぼ埋まった。
 三度谷は狭ばる。飛騨川の流れが岩を噛むのを横目に列車は進む。日の光が当たらない北向きの斜面にも雪は残らない。

 谷を抜けると暖かな光が列車を包む。そしてブラインドが閉められる。時々すれ違いで列車は3分、4分と停まる。特急とすれ違う度、そしてたまに来る普通列車にも道を譲る。最後には「度々恐れ入ります」なんて枕詞がつく。確か中川辺で3分停車。相手は普通列車である。時刻は12時を大きく廻っている。谷間が開けてそろそろ濃尾平野に差し掛かるだろうか。
 この列車の終着、美濃太田には13時過ぎにたどり着く。富山から5時間乗り通している人もいるかも知れないが、中心は下呂で乗ってきた人たち。土産物の袋を持っていたりするから温泉帰りの節約客ということになる。

 特急を一本やり過ごした後で太多線からのディーゼルカーがやってくる。乗っていた人はみんな降りた代わりにホームの人がみんな乗り込んで満席になる。5分程停まってから出発。
 荷物の大きな人は二つ目、鵜沼で降りる。ここから名鉄に乗るのだろう。これなら直通運転してもいいんじゃない?ぐらいの勢い。そのかわりに乗ってくる人もいるから車内は混んだまま。暖かくコートどころかセーターも要らないぐらいの列車は岐阜へとラストスパートを掛ける事になる。

 結局岐阜には14時の到着。225kmを6時間ほどで移動したことになる。天気と世界が目まぐるしく変わり時間の割に長さを感じない。
 朝はしっかり食べて来たけど14時になるとさすがに空腹。岐阜で食べていこうかと改札を出る。

 愛知県内に曲がりなりに居を構えて仕事をしているが隣の岐阜には全く縁がなく見知らぬ街である。考えてみると岐阜県内に宿泊した事もない。名物も思い至らないし、駅構内を見てもチェーン店しか見あたらないが、一軒、変わった店があったので入ってみる。総菜の量り売りで中で食べてゆけるという不思議なシステム。


 100g230円だそうだ。色々とったら¥931になる。味噌汁はサービスだって。岐阜の名物が揃う、訳ではないが他では見たことのないタイプの店。一つ気付いたのは味噌汁がいわゆる赤出しでなかった事。この辺は食文化が名古屋と違うって事なんですかねぇ。
岐阜で結局30分ほど時間を費やす。あとは名古屋を挟んで西から東に移動するだけなので非常に気が楽である。快速に座れる。見慣れた電車に乗るともう日常に戻った気分になる。
 名古屋15時。このまま横浜まで行けば20時か21時には着いてしまう事に気が付く。富山から首都圏の普通列車乗り継ぎ、高山線経由でも成立すると言うことに初めて気が付く。確かに対した距離ではないのだけど、発想としては無かった。
 まだ日の沈む前に出先の家に着く。恥辱の公開といい加減な夕食。それに明日以降の食事の支度。時間は十分にあって、余力を持って完了する。