寄り道東海道

週末は出先の部屋で迎えた。少し早い目、6時過ぎ。家でじっとしていても仕方ないので出掛ける。
 妻のいない横浜の自宅に戻っても仕方ないのだが今日は夕方には横浜に戻るつもりである。決めているのはそれだけでそれ以上の事は決めかねている。先週使った休日乗り放題切符を買い求め、どこかに寄り道しながら東へ向かうつもりだ。
 JRの岡崎に出て切符を購入。岡崎はこれから使う切符の範囲外だけど、有効区間である豊橋までの乗車券を提示するか同時に買えば範囲外でも切符を買うことが出来る。

 都合よく浜松まで直通の新快速が次の電車。タイミングは良いが豊橋1分停車。朝食用の駅弁を買う余裕もないから空腹を載せて浜松へ運ばれる。浜松には8:42。深く考えずに出てきたから先週乗ったホームライナーには間に合わない。まぁ1時間以上遅く出ているのだから仕方が無い。

 この先の選択肢を残すため、浜松の乗り継ぎは最短とする。次の電車、静岡行きの8分接続の間に朝食を駅そばで済ませる。ホームに戻ると発車1分前。午前中の郊外方面行きだから十分座れる。
だんだんと緑が濃くなり、茶畑の中を走り続けると明るい景色が一瞬翳る。金谷の駅。大井川鉄道乗り換えの案内に降りる決断をする。乗ってきた列車が出てゆくと静寂に包まれる。
 大井川鉄道といえば蒸気機関車。一応下調べはして来ていて、今日は朝の便が新金谷から家山までという若干イレギュラーな運行である事は知っている。そして

 接続良く新金谷まで電車がある事も調べておいた。蒸気機関車を撮る事を目的にするのか、列車に乗る事を目的にするのかで動き方が変わってくるけど今日は乗る事を主眼とする。
 ひとまず新金谷。団体バスが大量に到着しており、今日の第一便、10時10分発のSL急行は団体客のために走らせるついでに一般客を乗せるらしい事が分かる。賑々しい駅に不釣合いな小さな窓口には

 10時の便は満席、立席承知で販売とある。聞いてみると「相席」とのこと。なるほどと思う。相席を立席と言ってしまうのは妙な感じだが、観光鉄道らしいと言ったら、そういう事か。
 改札が始まって団体が大挙してホームに入ってゆく。改札からすぐ、蒸気機関車がどんと構えているからまずここで大撮影大会となる。

 鉄ヲタの撮影マナーがどうのという批判はよくあるし、批判されるなりの事はあると思うけど、今日の様子を見ているとヲタだからどうのと言う訳では無い事が良く分かる。どこにでもこんな人はいるものだ。それが良いとは思わないけど。

 段々と落ち着いてきたから最後には割りと普通に撮れるようになる。

 後ろに控える客車は5両。前3両が47系で後ろは35系。その最後尾が宛がわれた座席。乗ってみると結構空きボックスがあり、家山まで乗ってくるお客さんは居ないから遠慮なく空きボックスに移る事になる。

 最後の最後に補機として電気機関車が付く。こちらも実に古めかしい一時代以上前のもの。構内に屯する客車もみないわゆる旧型客車だから、何時の時代に来たものかと思ってしまう。

 汽笛一発が聞こえないまま、がったんと列車は動き出す。ゆっくりとリズムを刻みながら列車は時を遡るように走る。蒸気機関車に乗りに来た、と言うより客車に乗りに来たと思える時間だ。そしてこの時間には意義も価値もある。

 車内は暗く、だからこそ外に広がる茶畑が良く映える。トンネルに入る。列車はすぐさま夜汽車になる。薄っぺらい背凭れ、姿勢良く座らないとならない直角シートに昔の旅の苦痛へと思いは飛ぶ。
 家山までは30分少々であった。正直物足りなく、もっと乗っていたいというのが感想。でも列車は終着につく。

 山間の何にも無い家山が終着となるのはここに大きな駐車場があるからに違いない。新金谷で団体客を降ろしたバスは家山へと先回り。再びお客さんを乗せて次の目的地へと向かうのだ。そんな団体さんが大挙して降りてしまうと列車はまるで回送状態になってしまう。だから千頭までは、やめとこと事らしい。

 蒸気列車は折り返し回送として新金谷に戻る。一度切り離して水を補給すると再びドッキング。まもなく電気機関車を先頭に新金谷へと戻ってゆく。自分は次の普通電車を待つことになる。新金谷にクルマを置いて蒸気機関車体験と思しき家族連れが何組か一緒になって待合室に。駅前に足湯があったのだが営業は12時からだそうだ。

 新金谷までは近鉄車だったが今度は南海車の2両編成。往年の特急車両も車齢50年を越え、座席のクッションはへたり気味。さきほど眺めた大井川をまき戻すかのような車窓が広がる。20数分で新金谷まで引き返してくるとSL列車の第二便とすれ違いになる。客車を7両に増やしたC10が蒸気を吹き付けながら入ってきた。
 2時間少々、大井川の下流をちょこっと触れたような旅をしてから東海道の移動に戻る。やってきたのは何時もの興津ゆき。3両編成。座る所はある程度の乗り具合で、先程の老雄たちとは比べ物にならない俊足を披露する。座っている間に眠くなってロングシート、窓にアタマをもたれてzzzzz。人の動きで目が覚めるともう静岡である。乗っている電車は興津ゆき。どこかで乗換えとなる。直後の電車に乗るなら静岡下車だが決断がつかないまま電車は発車してしまった。
 結局清水で降りる。お昼を廻って13時。昼食の時間帯である。この時間に清水にいるなら、駅の港側、河岸の市に行くのが好みだ。

 河岸の市 http://kashinoichi.com/

 東海道線沿線は名立たる漁港が連なっている。焼津があり、沼津がある。どちらも観光施設があるから取れたての新鮮な魚を食べる事が出来るけど、にもかかわらず清水を選んだのは清水だと駅からすぐ港があるから。焼津や沼津は若干距離がある。
 駅から数分で目的地に着く。千円高速が無くなりそうだし、駆け込み客で混んでいるかと思ったが、そうでもなかった。確か今日で3度目だけど今日が一番空いている。
 前にも一度入ったことがあるような店に入って適当な海鮮の丼を頂く。テーブルが空くまで少々時間が掛かったが、着席するとまもなく供される。

 厚切り丼 ¥1,400

 馬鹿でかいマグロが自慢の一品。食べ応えはあるし、ご飯に対する具材の量が半端じゃないので食べ進め方を間違えるととんでもない贅沢丼になる。
 でもトロがそれほど美味しいと思わなかったんだよなぁ。脂っこいものに苦手意識は無かったけど、好みが年相応に変わってきたのかとも思う。
 着席まで時間が掛かったが、食べること自体にはそんな時間が掛からないから、駅に戻ってみると50分後の三島ゆきに間に合う時刻。今日3度目の211系。座れないけど空いてはいない。それなりの混雑。
 食べた後だしだんだん眠くなる。富士到着で「節電のため車内消灯いたします」と薄暗くなったのを最後に意識が途絶えた。目覚めると沼津。今日3箇所目の迷い所だが、向かいのホームに御殿場線国府津ゆきが停まっているのが見えて反射的に降りた。
 面倒になれば熱海経由の直行でもいいやと思っていたのだけど、節約効果を高めるなら断然御殿場線廻り。1時間に1本の御殿番線国府津ゆき。それが停まっていたのだが発車は25分ほど先の15時ちょうど。随分前から客待ちしているもので「どこの田舎電車か」と思ってしまったが、まぁ田舎電車には違いない。

 発車を待つ間に少しずつ席が埋まる。土曜日の午後。高校生の帰宅は既に大方終わっているのか先週乗った時より明らかに乗客は少ない。

 裾野を過ぎたが今日は富士山、顔を出してくれない。どことなく天気も崩れ気味だろうか。雲が目立つようになってきた。

途中眠ってしまう。目覚めたのは御殿場。たくさん人が降りていって代わりに乗ってくる人は少なかったからがら空きになった。御殿場から松田へ。隘路を軽やかに下ってゆく。山北で少々人を集めて松田到着。殆ど全てのお客さんが小田急新松田駅へと向かう。
 今日は直接横浜に戻るが小田急+相鉄乗り継ぎの方が多少安いから自分も小田急に乗り換え。暖冷房車みたいな電車に首都圏を感じる。走り出せば何処からともなく風が吹き通ってまだ過ごしやすいから救われる。
 海老名乗り継ぎ横浜まで戻ると17時半。岡崎からほぼ10時間を掛けた事になる。いろいろと引き出しがありそうな東海道の寄り道。次に機会があればまた別のルートを考える事になるだろう。

 自宅に帰る、当然一人であり夕食をどうしようかとちょっと悩んで近所の中華料理屋に出掛けた。メニューにある台湾ラーメンが気になるのだが、今日はサンマーメンにする。それにビールを合わせても1,000円で釣りが来る。


 炒め物が上品な味付けで美味しい店だけど、これがラーメンになるとインパクトが無く淡白な味、ということになってしまう。期待外れと思ったのだけど良く考えてみると¥500なのである。う〜ん、十分美味しいですと言う事にしよう。
 改めて帰宅、今日は早い目に寝る。明日がまたえらい早いのだ。