ゆさ!ゆさ!

 列車はゆっくりと秋田を離れ、徐々に速度を上げてゆく。ちらっと母校の姿が見えるのを、駅弁をつつく箸を止めて眺める。
 秋田でだいぶ降りたとは言え、その先まで行く人も意外と多い。決して寂しい車内にはならなかった。
 
 列車が郊外へと出て、どこまでも田圃が続く中を走る頃、窓を雨粒が流れ出す。予報悪化しているのかなぁ。まだ梅雨には早い季節だし、快晴の東北を期待していたのだけど、2度とも振られてしまった。
 東能代でまたたくさんのお客さんを降ろす。その次の次、鷹ノ巣が今日の下車駅。10時間以上、付き合ってきた列車ともまもなくお別れとなる。

 秋田内陸縦貫鉄道の線路が近寄ってくる。ディーゼルカーが遠ざかってゆくのが見える。ちょっと悔しい。
 実は、この先の行程、3月にやろうとして出来なかった旅行の焼き直しである。その時は、朝、羽田から大館能代に飛んで、タクシーで鷹ノ巣の駅に横付けしようかと思っていた。結局、大館能代の旅割が上手い事取れぬまま、帰りの航空券だけが中途半端に残ってどうしようか思いあぐんでいるうちに、土曜日に出張が入ってしまって結果キャンセルとなった旅行。
 今回は思い立ったのが遅かったので、JRのフリー切符を使って行きはあけぼので、と思ってた。特にその先はチェックせぬままだったけど、直前になって時刻表を見て驚いた。ダイヤが結構変わっている。本当なら9時ちょっと前に急行があってそれに乗れる筈だったけど、無くなってしまった。その代わり、9時過ぎに普通列車があって阿仁合までは行ける。その先は2時間近く待たされるという調子。
 で、良く見るとあけぼのの到着する2分前に出発する列車があると言う、どうもチグハグな状態なのである。知っていれば秋田から角館経由を考えたかもしれないけど、もう考えるのも嫌になって取り敢えず鷹ノ巣まで来てしまった。この先の事は、この先考えよう。
 
 出来る事ならもう少し乗っていたかったけど、ここでお別れ。

 JRの鷹ノ巣駅の隣、内陸線の鷹巣駅へ。今日の切符を購入。1日フリーパスが2,000円也。乗り通すだけなら普通に切符を買った方が安いですが、今日は何度か乗り降りしながら、角館へと向かうつもり。
 
 出発までだいぶ間がある。幸か不幸か、鷹巣は雨、降り出していない。少し駅前をふらつく。シャッター通り、に見えますが、まぁ朝の8時半だし。駅弁で朝食を済ませたのは正解だったようで。適当な時刻を見計らって、駅へと戻る。まもなく「どうぞ」と言われて改札開始。ホームへと向かうの、自分一人と言うのは、少し寂しい。
 
 汽車がやって来る。朝の八時半。「美人の卵がぞろぞろと降りてくる筈」と著書に書いたのはかの宮脇俊三先生だけど、目の前の汽車、一両から降りてくる人はぱらぱらと。「卵」もまぁ、いませんねぇ。
 一人ぽつんと汽車の中。待っていると少しお客さんがやって来て、辛うじて汽車の体裁が整う。9時ちょっとすぎ、タイフォン一発。汽車が動き出す。まもなく雨が窓を叩き出す。米代川の鉄橋を渡ると阿仁川に沿って、少しずつ登り、登りつめてゆくようになる。何処へ行くのかお客さんが乗ってきて、車内で挨拶を交わす。
 
 秋田の国は杉の国。杉の木立が幾度と無く通り過ぎる。

 
 40分少々掛けて到着した阿仁前田。ここを最初の下車駅とした。少しずつ集めたお客さん、半分ぐらい降りてゆく。
 
 妙に立派な駅舎ですが、温泉施設つき。いや、温泉施設のついでに駅があるのかも。10時から営業。時間はちょっと早かったけど入れてもらえました。と言うより、この汽車から降りたお客さん、みんな温泉に入りにきた人だったし。
 
 誰も居なかったので、一枚撮っちゃいました。塩化物泉で見た目透明。あんまり温泉らしくない気もしますが、しばらくお湯を楽しみます。
 次は阿仁マタギを目指しますが、まだ次の汽車までは間があるので、一旦鷹巣方向へ戻る事にして、ホームへ。
 
 駅の裏は製材所です。出ている看板からすると、積み上げられてる木材は、ピアノか何かに生まれ変わる様子。
 


 この先、写真追って公開します(17:45)

 やって来た汽車に。車内ぱっと席が埋まっている感じだけど、よくよく見ると乗客は20人少々。二駅戻って米内沢へ。
 
 汽車を見送り、振り返る。
 
 何でと思うほど荒れ果ててます。それが気になって戻ってみました。
 今度の角館行きまでは15分ほど、5分ほど歩けば温泉もあるそうですが、駅周辺で大人しく。ただ広いだけの駅前を眺めてみた。すぐそばの国道を行き交う車の音だけが街の生きている証。
 
 角館行きがやって来たのでこちらへ。この汽車もお客さん、20人ぐらいかな。
 
 谷峡の田圃に山並みが映えて。
 途中で中学生の団体が乗ってきたりして、結構賑やかになるけど、谷峡が狭くなるにつれて車内も空いてくる。運転拠点の阿仁合でごっそりとお客さんが降りると車内、閑散。
 
 阿仁川が深い谷を刻む。
 比立内で乗り損ねた急行とすれ違う。この先は第三セクター転換後に開業した新線区間。急に線路が立派になり、さらに山奥へ。谷が尽きようとする所が阿仁マタギ。米内沢から1時間が経っている。今度はここで下車。
 
 峠へ向かう汽車を見送る。