頭ヶ島を歩く

 空港連絡のバスが出るのは15時半。まだ2時間半ある。有川では時間は潰せないので一計を案ずる。空港の近くにあると言う重要文化財に指定された教会を見に行こう。空港へ行くバスは無いけれど途中、坂本竜馬の碑がある所へ行くバスは13時半にあるから、途中から歩けばよい。
 待つことしばし、やって来たのは先ほどと同じバスだ。うどんのお礼を言い、頭ヶ島教会に行きたいと言うとそっちには行かないという。分かっているけど最後は歩くから、と言うと呆れられた。上り坂だし、大変だよと。まぁ時間があるから大丈夫という事で乗せてもらう。
 バスは来た道を戻る。有川の中心地で数人を乗せる。さっき有川に来る時に見かけた老婆と孫娘も乗ってくる。ICのバスカードがエラーを起こすとひと悶着。兎に角のってという事で動き出す。今度の乗客は地元の人が5人と自分で6人。来た道を引き返して行く。見覚えのあるT字路で降ろしてもらう。ここから空港のほうへと歩くことになる。上五島空港3,000m、頭ヶ島教会3,700mの案内板。歩き出すと自転車に乗った地元の子供二人に「こんにちは」と声を掛けられる。こちらも自然に「こんにちわ」と返す。
 人里を離れるとアップダウンの激しい道をひたすらに歩くことになる。稀に自動車が走ってゆく。こんなところを歩く人なんていないだろうし、運転者はさぞかし驚いていることだろう。頭ヶ島への橋へと差し掛かる。遠くに空港のターミナルが見える。また上り坂だ。結構キツイ坂だな。昨日は病人気取りだった筈なのになぁ。おかしいなぁ。畑があって不意に地元の人に出くわす。声を掛けられる。不審者に思われても嫌なので教会まで歩くことを話して、どれぐらい距離があるか聞いてみる。「まだ結構有るよ、でも下り坂だから」ちょっと嬉しい情報。
 十字路にあたる。バス停がある。頭ヶ島と言うバス停。一日3便だけど待合室があってちょっと良い雰囲気。こんなところでボンネットバスでも見てみたいな。ここから坂道を下ってゆくことになる。急坂だ。今は楽だけど帰りは大変だな。道をひたすら下ってゆくと遥か下にささやかな集落が見える。そして集落の大きさには相応しくない立派な教会。ただ、残念なことにただ今補修工事中の様子。廻りを足場に囲まれている。
 ココまで来て引き返す事も無いので教会まで行く。人気の無い集落。遠くの畑で老婆が一人作業しているのが唯一の人の営みかな。石積みの立派な建物をしばし眺める。何にも入れるので折角だから入ってゆく。ふと思い立ってiPodを出し、誰も居ない教会の中でG線上のアリアを聴いてみる。しばし雰囲気に浸ったのち、お暇する。
 頭ヶ島教会 
 帰り道は上り坂を喘ぎ、先ほどの十字路まで戻って空港へ。教会から空港まで15分ほど。空港には流石に係員が居る。とは言え手続きは16時から。しばらく間がある。係員が待合室のストーブを入れてくれるけど、ずっと歩き詰めて体が暖まっているので丁重にお断りした。