花と鍾乳洞の島

JA8766

 光が差してきて目覚める。カーテンに隙間が開いていた。頭が痛い。二日酔いだ。そういえば昨日1円も金払っていないなぁ。何時だろう。時計を見る。6時25分。う〜ん、もう少し寝たい。寝たい。寝なくては。寝付けん。今日クルマ運転するんだったよな。大丈夫か。クルマ。鍵を預かっていた事を思い出す。どっか落としていないだろうなぁ。クルマのカギ、家のカギ。大丈夫だ。部屋のカギは??? よく考えるとドアを入ったところに差してある。
 寝付けないのでテレビを点ける。NHKは沖縄の放送が映っている。民放はところにより画像が乱れるところもある。それと町の有線放送。今日の航空機と言うことで時刻が流れる。那覇-沖永良部なんて便が紹介されている。そんな路線あったか?那覇9:00-9:50沖永良部10:00-10:50那覇、と那覇15:00-15:50沖永良部16:00-16:50那覇の2往復。少し早い目に空港に様子を見に行ってみようか。
 身支度やら朝食やらを済ませて8時過ぎ。出かける。昨日借りた車をスナックの前まで拾いにゆくのだけどその前にレンタカーのキャンセルをしなくてはならない。当日のキャンセルだしキャンセル料も覚悟しなくてはならないだろうなぁ。店の場所がよく分からないので電話番号を調べる。携帯で掛けようと思ったけど市外局番が分からなくて往生。仕方ないので公衆電話から。キャンセルする旨を伝え、キャンセル料どうしましょうかと聞いたら、怪訝な様子で頂いていないと仰る。う〜ん、大らかなのかなぁやっぱり。
 車を拾う。エンジンを掛けようとして初めて気がつく。マニュアル車やん、これ。マニュアルなんて何年も運転していない。大丈夫かな、かなり心配になるけどいい機会だからと思い直してエンジンスタート。まずはバックだけど半クラッチの感覚、なかなか掴めん。
 まずは空港に向かう。ガソリンがあんまり入っていないけど日曜日は殆どのスタンドが休業でと言う話。途中一箇所だけ開いているスタンドがあるとの事で寄ってゆく。確かにロープ張られていないから開いているんだけど店員の姿が無い。店内の様子をクルマの中から伺っているとおばちゃんが出てきた。レギュラーかハイオクかと言う最初の質問が無いなぁと思ったらレギュラーと軽油しか無かった。当然カードでと言う選択肢は無くいつもニコニコ現金払い。領収書も出なかったけどこれはいいのか?多分22リッター¥3,400。もうちょっと入ったかも知れないけど高いな。島だから仕方ないわな。
 空港の建物を通り過ぎとりあえず一周してみる。午前中はターミナルの反対側が順光になる。見て廻ると柵が邪魔にならない所が何箇所かあるので撮影には問題ないだろうと見当を付ける。まだ時間があるので一旦観光。島北側のスポットは一通り廻ろう。
 まずは国頭集落にある日本一のガジュマルの樹を志す。来る途中に左折看板が出ていたから大体の場所は分かる。小学校の校庭へ入ったところに目的の樹はある。外から眺めると立派な樹だ。校門は開いているけどさて勝手に入って良いものかどうか。時節柄どうかなと言う気はする。校庭でキャッチボールをしてた人にお伺いと立てると朗らかにどうぞと仰る。近づいてみると大きく張り出した枝を支えるポールが目に付いたりしてちょっとガッカリする部分もある。どうやらこの樹は遠くから眺めるのがベストらしい。次いで空港の方へ向かい、空港の先に見える国頭岬へ。先ほどの周回道路の途中を逸れると間もなく、道端に灯台がそそり立つ。なんかシュール。さらに先に進む。細い道を進んでゆくとこちらも見所の一つとされている「フーチャ」。
 フーチャとは何ぞやと思うけど説明書きによると風の強い時は台風の時などに、隆起珊瑚から海水が噴き出す場所なのだそうな。潮吹き珊瑚という言葉の方が分かりやすいかもしれない。沖永良部島には4つのフーチャがあったそうだが、吹いた海水が風に乗って島へと広がり塩害が深刻だったため3ケ所が破壊され、畑地から離れて塩害の少ない1ヶ所が観光資源として残されているとの事。隆起珊瑚の上を歩いてみる。所々穴が開いている。覗きこんでみると想像以上に深く大きな穴で10mぐらい下で海が踊ってた。潮を吹くという光景を見てみたいけどそれほど天気が荒れちゃうと肝心のYS-11は飛べないだろうなぁ。
 来た道を空港へと戻る。そろそろ9時半を廻り、謎の那覇発第一便が到着する頃だ。ターミナルの反対側で待っていると小さなプロペラ機がやって来る。エアードルフィンの文字。機体はJA5306。駐機場へと吸い込まれてゆく何人か乗客が降りてゆく様子が見える。
 エアードルフィン
 http://www.air-dolphin.com/
 折り返しはわずか10分。すぐに軽いエンジン音が聞こえてきて、taixingしてゆく。滑走路端まで進んでターン。滑走路の半分もいかないうちに浮かび上がり、洋上をターンしていった。次に来るのは鹿児島からのYS-11となる。予定では10:25着、少し遅れている。i-modeでチェックしようかと思った矢先、洋上を南下して行くYS-11の姿が見えた。昨日と同じRWy04の着陸になるらしい。一旦姿が見えなくなり、滑走路の彼方に光の点が見え出す。少しふらついている。なにか滑走路へ向かっていると言うより自分に突っ込んでくるような錯覚を覚える。無論そんなことは無く見る見る大きくなって着陸。キュルキュルとタイヤがスリップする音まで聞こえてくる。目の前で急減速。事も無げにスポットイン。やって来たのはJA8771。定刻よりも少し遅い様子。着陸を見届けて一旦空港のターミナルに行ってみる。昨日の出張さんにお礼。そりゃ結局全額おんぶに抱っこだもんねぇ。
 スポットでの様子と離陸シーンは昨日の撮影場所で撮って見た。多少雲が出てきてて逆光にならないのでまぁイイかと言うことで。昨日と違ってギャラリーが三人。クルマで来ている親子連れとバイクのおじちゃん。搭乗が始まる。出張さんが乗ってゆく様子が見える。ちょっと距離があるからこっちに気が付いたかどうかまでは分からない。搭乗はだらだらと続く。搭乗待合室が無いので、他の空港と違って、搭乗改札を通った後に荷物チェックがあるから。30〜40人ぐらい乗っていってドアが閉まる。プロペラが一つまた一つ廻りだす。YS-11が圧倒的存在感を誇る。ゆっくりと動き出す。整備員が頭を下げ、手を振る。YS-11はRWy04のエンドまで向かいこちらへと駆け出す。ふわりと浮かび上がり緩々と上昇し続ける。次第にその姿が南国の空へと溶け込んで行く。
 一旦和泊に戻る。まず常連さん、ちょっと知名の方へ走っておかみさんを拾う。とりあえず昼食を、と言う事で向かった先は知名にあるおきえらぶフローラルホテル。
http://www.town.china.kagoshima.jp/floral/default.asp
 元々は国民宿舎だったそうだけど今は普通のホテルになっているそうな。沖永良部では一番のホテル、と言うことらしい。そこのレストランでランチを頂く。目の前は海。薄曇の空は残念だけど海は青い。すぐ隣りに港がある。去年の台風で損傷し修復が続いているとか。メニューはごく普通の定食。お二方はすぐに決まるけど自分は正直悩む。ここまで来て天ざるとかハンバーグとか行くかぁ?と言うことで沖縄そば。薬味として出てきたのが島とうがらし。初めて見る。何か液体の中に唐辛子が漬けてある。この液体を落とすらしい。原材料を見ると泡盛である事が分かる。どれだけ入れれば良いのか分からないから適当に掛けようとすると止められる。結局少ししか入れなかったから味はどれほどの物かよく分からない。食事代は持つことにする。さすがに昨日1円も払っていないからちょっと気が咎める。
 次は島一番の見所である昇竜洞へ向かう。知名の街から山の中へ入る。上り坂をしばらく進むとなだらかな道になる。この辺りが沖永良部で一番標高が高いところだそうな。もう少しゆくと展望台があるそうだけど、猪が出るから危ないと言うのでパス。昇竜洞の入口に到着。駐車場に停まっているクルマは一台。やっぱりシーズンオフらしい。常連さんとおかみさんは何度も人を連れて来ているからと言いパス。一人で中に入る。昇竜洞に入り、ふと振り返る。洞窟の中から見える外の景色が素晴らしい。じっくり取り込んで見たいけど三脚が必要だったな。
 誰も居ない鍾乳洞を歩く。中は想像以上に広く美しい。所々屈まないと歩けない所があるのはご愛嬌かなぁ。公開されている600mと言う距離はその数字以上に長く感じられた。
 出口は当然の事ながら入口とは違う場所になる。クルマを回して待っててくれた。結構早かったねと言われる。写真を撮りながらだったし割りと時間を掛けたつもりだったんだけどなぁ。
 次に向かうのは田皆岬。島の西端にあたる。なだらかな丘陵地帯を降りてゆき、島の外周道路を走る。集落に入って道をそれる。路地みたいなところ。子供が走り回っている。危なっかしくちょっと怖い。沖永良部は割りと出生率が高いそうな。他にやることが無いから、とは言わなかったけどそう言う事なんだろうなぁ。子育ての環境にも恵まれている事と思う。再び畑地が広がる。その先に灯台が見える
。国頭岬の景色に似ている。どうやら道を1本間違えてしまったようで舗装されていない道をガタゴト。なんか懐かしい道だ。本来の道に戻って少し行くと灯台のそばに着く。駐車場が有りちょっとした観光地になっている様子。でも隣りの売店だったような建物は荒れている。幽霊が出るとか出ないとか、そんな噂があるそうな。駐車場から芝生の原っぱが広がりその先に灯台が建つ。その先は切り立った崖。海へと落ち込んでゆく。東端になる国頭岬そばの空港を11時に出てメシ食って鍾乳洞見て13時半には西端の田皆岬にいる。狭い島でしょ。まぁ確かに狭い島ではある。このペースに慣れると他所では暮らして行けないと仰る。「島時間」と言う言葉を教えてくれる。約束の時間+30分は許容範囲になるそうな。
 14時過ぎに飛行機が着くので空港に向かう。飛行機は島時間にはならない。今度は島の北側の道を通る。道端に色とりどりの花が咲いている。ハイビスカス、初めて見た。沖永良部島と言うとフリージアの栽培に代表される花卉栽培が有名なのだけど最近は下火なのだそうな。その代わり増えているのがジャガイモだって。鹿児島の、しかも奄美群島でジャガイモと言われてもピンとこないのだけど、でも昨日店で頂いたジャガイモのコロッケは確かに美味しかった。
 飛行機の撮影に付き合わせるのはどうかと思っても見るけど、付き合ってくれると言う。途中エンスト。あんまり順調に走っているとマニュアル車である事を忘れてしまう。島の人は軽トラックで慣れているから大丈夫なのだそうな。先ほどもいったフーチャのそばを通る。今度は観光客らしい一団が散策している。
 何処にしようかと思ったけど海を絡めて撮りたかったから昨日Saab340Bを撮影したところに行く。あいにく空は薄曇、海の色も冴えないけど仕方が無い。狭い道なのでクルマを何処に止めようかと思うけど、ちょっと脇にそれる所が合ったからそこに突っ込んでおいた。あんまり待たせるのもどうかと思うし飛行状況が心配になる。i-modeでチェック。ほぼ定刻に来る様子。どっちから降りてくるのかと聞かれる。向かい風になるように降りてくるからあっちだとRWy04の方を指す。親戚の子供にせがまれて見に来る事があるそうだけど、いつも良く分からないんだって。そりゃ自分だって飛行機を撮るために足繁く空港に通うようになってから知った事だし。
 来た!と言われたけど見えないしエンジン音も聞こえない。指差す方向を凝視するとはるか洋上を南下してゆくYS-11の姿が見て取れた。大きく回りこんで着陸。やって来たのはJA8766。
 さて移動となって問題。クルマ、坂道発進でバックしなきゃならないの……
 結局Helpを出して運転を変わってもらう。情けない事限りなし。一人だったら大変だったなぁ。
 移動してスポット駐機中と離陸シーンを撮影。付き合わせてしまってどうかなぁと思ったけど割りと喜んでくれている。お世辞かもしれないけど、普段見る機会が無いのと、展望デッキよりも間近に見れる場所があるのを知らなかったってのと。展望デッキ?無いように思っていたけど実はあったのだ。何故無いと思い込んでいたのだろう。さて和泊に戻る。二人を降ろすと15時過ぎ。常連さんは自宅で宴会の準備だって。15人ぐらい来るとか。
 まだ時間があるので空港に戻る。第三便、Saab340Bが来る頃だ。ほぼ定刻にSaab340Bが、次いで朝にもやって来たエアドルフィンのアイランダーがやって来る。離陸はアイランダーの方が先。
 まだホテルに戻るには早い時間だ。落穂ひろいみたいな感じで廻ってみよう。まずは  海浜公園。隆起珊瑚の沖永良部島には珍しい砂浜の海岸。なんか昨日の居酒屋で聞いた話だと今日が海開きだったとの事だけど殆ど人は居ない。売店は開いていて家族連れが一組二組いるけど泳いでいるわけでなし。こちらも泳げるなんて思っていないから何の準備もしていない。ためしに靴を抜いて裾をまくって脚だけ突っ込んでみた。この海に入るのはまだ辛いだろうなぁ。
 和泊に戻る。まだ17時前だ。ちょっと早いなぁと思って猪が出るとか出ないとかと言う展望台を覗いてこようと思い立つ。先ほどの道を知名へと向かう。山へと上がり道案内に従ったつもりだけどたどり着けない。気がついたら自衛隊の前を通っていたりする。何事にも先達はあらま欲しき事也、か。
 晴れていたら西側に沈む夕陽を見に行ってみようなんて思っても居たけど日没は望めそうに無い。島の北側を通って和泊に戻る。最後に朝寄ったガソリンスタンドへ。和泊の戻る途中、割りと気にしてみたけどやっぱり開いている店は無かった。この度は1,100円。走行距離は130キロ程となる。クルマを返す。電話をくれれば取りに行く。カギは置いておいてくれれば良いと仰る。こちらとしては非常に無用心をしか思えないのだけど、それでいいというのでお説に従った。さすがにキーを挿したままでは抵抗があるので、どうしようかと思った挙句運転席の上に置き、紙を被せておいた。とは言え、クルマのカギを掛ける習慣はないらしいし、降りるたびにカギを掛ける様子を笑われてしまったりしたのですが。
 ホテルに戻る途中、道端でクルマが急停止。人が降りてくる。何事かと思うと出てきた人に声をかけられる。YS-11を撮りに来られたのですか、と。見ず知らずの土地で面識の無い人にいきなり声をかけられるなんて、早々ある事では無いし身構えたくもなる。とは言え、沖永良部だからなぁ、なんて事も頭の隅にある訳で。話をしているとどうやら地元の航空ヲタさんらしい。同じような話が出来る相手に飢えているみたいで、今晩ゆっくり話をしたいと。まぁ良いか。ここは沖永良部なんだから。
 ヲタさんは所要を片付けてから戻ると言うので一旦ホテルに引きこもる。19時ごろ再度落ち合い、ヲタさんのクルマで知名へ行く。夜の道はさすがに暗く自分でハンドルを握った道なのにどこなのかよく分からない。この人、学校の事務職員で鹿児島から赴任しているのだそうな。島流し、と言う訳じゃないだろうけどヲタに取っては拷問だろうなぁ。YS-11を撮りに来てた人、他にいたかとしきりに聞かれる。昨日今日と沖永良部には居なかった。土曜日の福岡は多かったけど。話によると沖永良部まで来る人はあんまり居ないらしい。で来る人はどちらかというと中年世代とか年配の人が多いそうな。自分はここに来るまでに見た情報を掻い摘んで話す。Dash8-400の5号機、JA845Cが鹿児島に居たとか。ヲタさんからはこちらの事情を教えてもらう。5月28日からのDash8-400沖永良部就航に備えて何度か訓練飛行があったそうな。またDash8-400の長距離における時間的優位性が買われてどうやら早い時期に沖永良部と与論はDash8-400になるらしいなんて話も教えてくれる。他であんまり聞かない話だけど。確かに沖永良部だと片道25分短くなるからだいぶ大きい事は確かだと思う。
 昨日は聞きそびれた島の話も聞いてみる。この狭い島に和泊と知名、町が二つ。昨今の流れから言ったら合併しても不思議は無いと思っているのだけどお互い付かず離れずでしっくりは行っていないらしい。和泊には空港や港があり沖永良部の中心と言う自負がある。知名は自衛隊や電力会社があって他所から来た人が多い。和泊には和泊でプライドが有り知名には知名でメンツが。そう言えば常連さんも知名で飲むと雰囲気が違って調子が狂うって言ってたな。
 クルマで和泊に戻る。本当に暗い。そんなことを言ってみたら車のヘッドライトを消してみてくれる。本当に真っ暗になった。しばらく見た覚えの無い闇夜だ。
 空港まで行ってみる。既に業務は終了し人っ子一人見当たらない。こういう空港を見るのも初めてかもな。和泊に戻る途中、和泊の港を廻ってみた。暗くて位置関係がよく分からないけど、港の突端にターミナルがあるらしい。台風のときはこのターミナルの建屋の一番上まで波を被ったそうな。また潮の流れで操船が難しいそうで以前、フェリーが流されて船体を損傷したこともあるとか。何でこんなところに港を作ったんだという話もあると言う。
 ホテルまで送って貰う。多分21時半ぐらい。自室に戻る。さすがに疲れを覚えた。軽くビールを飲むと眠気に襲われベットに付き伏せる。