沖永良部島

 タラップを降りる。青空が一段と眩しい。季節がまた進んだようで暑さを覚える。フォークリフトが慌しく動き回り荷物を降ろし始める。小さな小さなターミナルへと足を運ぶ。

 小さな空港の建屋を出る。展望デッキは無かったように記憶しているのでどこか撮影できる場所を探さなくてはならない。適当に右に曲がり歩いてみる。道の横はサトウキビ畑だ。意味も無く「♪ざわわ、ざわわ、ざわわ」なんてメロディーが頭を過る。試しに呟いて見る。数分でスポットを眺める事も出来る滑走路脇に出る。あいにくスポットに向けては逆光だけど離陸シーンは巡光で撮れそうだ。取りあえずここで撮影。

 日差しはそれほど強くは無いけれど、長袖では暑苦しく感じる。半袖に着替えてしまう。これでちょうど良い感じだ。

 燃料補給が済み、荷物の積み込みも終わる。乗客が乗り始める。全ての人が乗り終えてタラップがしまいこまれる。プロペラが一つ、また一つ廻り始める。ターボプロップの音が響き渡る。ゆっくりと動きだし滑走路へ向かう。着陸時と同じくRWy04を使う。一旦機材が遠ざかる。滑走路端でターンするのが見える。ターボプロップが一段と高く響き、疾走を始める。こちらへこちらへと見る見る近づいて浮かび上がった。緩々と上昇してゆき、青空の彼方へと吸い込まれていった。

 和泊の市街地へと向かうバスは15:50まで無い。小一時間ほど時間がある。その間に鹿児島からの三便目がやって来るのでそれを撮りたい。多少時間があるので場所替えを志す。今度は空港を右へ。RWy04の方へと歩いてみる。空港自体はフェンスに囲まれているものの、周りの土地が空港より高いところもあり、脚立を使わずにフェンスを越すことも出来る。海を背景に臨む場所があった。ここで撮影をしようと決めて飛行機を待つ。大よそ30分程。退屈ではあるけれど気分は良い。ただ一つ残念なのが空港近くのレンタカー屋が流す音楽が聞こえてくる事。B級観光地みたい。

 遠くの空からターボプロップの音がした。飛行機が近づいているらしいが姿が見えない。少し緊張して待っていると彼方に光が見える。どうやら着陸らしい。飛行機が大きくなる。SAAB340Bがやってくる。シャッターを切り続ける。200mmでドンピシャ。先ほどのYS-11の離陸もこちらの方が良かったかも。

 空港へと戻る。和泊を経由して知名へと向かうバスが待機中。小さな車体だ。運転士が居ないなぁと思ったら一番後ろの席で休んでた。

 500円玉を両替しようとする。受け付けてくれない。どうやら新500円は駄目な様子。当然新千円札も駄目。一瞬、沖永良部では新紙幣が通用しないような気分になってしまう。勿論そんな事はなかったのだけど。幸い何枚かある千円の中から旧紙幣を見つけ出し両替成功。

 バスは結局自分ひとりだけを乗せて走り出す。畑の中何処までも続く一本道。案内放送が流れないので何処まで来たのかサッパリだけど、頭の中に入れてきた沖永良部島の地理と掲示されたバス路線図と車窓を流れる風景を突き合わせて何処まで来たのか考える。どうやら和泊の市街地に入っている様子。どこにバス停があるのか定かでないので、適当なところで停車のチャイムを押す。降りたらそこが和泊のバス停だった。ホテルの場所も良くは知らないけど近くにあった地図を見ると割りと直ぐそば。取り敢えずチェックイン。会計がチェックアウト時なところをみるとそれなりに高級ホテル、と言うことになるらしい。フロントの人が部屋まで案内してくれた。

 部屋に落ち着いたものの、まだ日は高いし腹は減っているし、折角、沖永良部まで来て部屋に閉じこもることもないなぁとも思う。外に出てみよう。適当に街を歩き始める。子供が路地を駆けてゆく。長らく目にした記憶の無い光景だ。どこかで軽く食事が出来ればとも思ったけど開いている店は無い。仕方ない、営業していたスーパーで簡単な惣菜とビールを買って一旦部屋に戻った。ビールはオリオンビール。郷に入らば郷に従え、と言うこと。美味しい。オリオンは横浜でも稀に売っているけどこんなに美味しかった記憶は無い。とは言えやっぱり部屋でじっとしているのはつまらない。折角だし飲み屋にでも行ってみる。ホテルの前の店に入る。時刻は17時半。まだ外は明るい。常連さんらしいグループが一組いたけど帰ってゆく。カウンタ席に着席。奥に座ろうとしたら、そっちは油が飛ぶからこちらにどうぞとカウンタの真ん中へ。カウンタの向こうには焼酎の瓶瓶瓶瓶。みんな黒糖焼酎のボトルキープだ。

 一通り注文をする。「ホテルに滞在ですか」「お仕事?」と一通りの会話が始まる。いきなり写真をなんていうのも難なので「観光です」と言うと驚かれる。こっちが驚くぐらいの驚きようだ。まぁシーズンオフだからと言うのもあるのかなぁと思ったけど、沖永良部島は観光客、特に一人旅の観光客と言うのは殆どいないそうな。そんなものかなぁとも思うけど、確かに観光地としては与論島の方が有名だし、沖縄のほうが激しく有名だし、交通費は高くつくし。仕方ないのかもしれない。

 焼酎を頂く。何があるのか良く分からないけど並んでいる瓶の中で一番多い銘柄は奄美大島の蔵のものだそうな。沖永良部島産のものは2種類。迷っていると試飲させてくれる。結局沖永良部産の方を頂くことにする。正直、奄美産の方が美味しいと思ったけど。ボトルキープのシェアがそのまま味を語っていた様子。こちらの作法は水割りかロックとの事。それに従うことにする。

 お客さんが一人。常連さんかと思っていたのだけど、お店の人と交えて話しているうちに出張の人とい分かる。すっかり馴染んでいる様子だけど来店は2回目らしい。店の人を交えて話が始まる。昨夜のみに来て常連さんと出来上がったのだとか。
 店の人にちょっと疑問に思っていたことを聞いてみる。「おきのえらぶ」「おきえらぶ」どちらが正しいのだろう。「おきえらぶ」の方が多いらしい。略すると「えらぶ」。でも最近出来た第三セクターの施設は「おきのえらぶ」。亡霊のごとき「の」が復活したんだとか。今後は出来るだけ「おきえらぶ」と言う事しよう。

 常連さんと思ってた出張の人が次の店に行こうと誘ってくれる。今飲んでいる居酒屋のおかみさんの妹さんが勤めているスナックに行こうという話し。スナックかぁ。財布の中身を思い浮かべ、沖永良部の物価を想像し、酔った頭の中で「まぁいいっかぁ」と思った頃には妹さんが店に来ていた。今日は「同伴出勤」だから多少遅れても良いんだって。同伴出勤ねぇ。出張さんが常連さんを呼ぶと騒いでる。店の人が電話を掛けてる。後で来るって。ホントかいな。多分21時過ぎ、あくまで多分。移動となる。お会計は2,700円ほど。払おうとすると出張さんがイイからと払ってくれる。妙な展開だなぁ。同じ和泊の海に近い方に何軒か並ぶ一軒のスナックへと連れてゆかれる。

 再び飲み始める。今度は最初から焼酎のボトル。確か、ロックで頂いたように思う。確か、ロックで頂いたように思う。飲んでいるうちに人が集まってくる。まずは出張さんが島で世話になったというタクシーの運転手さん。そして首長さんが御執心な居酒屋常連のお姉さん。そしてさっきの居酒屋のおかみさん。ご主人に店を任せてやって来たのだとか。

 明日はどうするのと聞かれる。出張さんは明日午前中の飛行機で帰路に着くのだそうな。飛行機を撮りに来たと言う目的は割りと正直に話した気はする。その合間に島を一周するつもりでレンタカーを借りているという話をすると、妹さんがクルマを貸してくれると言う。明日は使わないからと。良いのかなぁとは正直思う。でもみんな強く勧めてくれる。カギを渡される。返す時に電話をくれれば良いからと言うことで番号の交換。発信記録を見ると22時前のこと。

 ボックスに動いてカラオケが始まる。何時の間にやら他のお客さんも来ていて交互に歌うような感じになる。なぜか皆さん、歌が上手い。本当に上手い。本当に感心して聞いてみると
「他にやる事ないからね」
と、なるほど。妙に納得する。で、お前も歌えとリストを差し出される。久しぶりのカラオケになる。褒めてくれたけどさてどんなものやら。

 24時になりカラオケはおしまい。一応、風営法では営業は24時までって規定があったように覚えているけど、24時を過ぎると警察が煩いのだそうな。他にやる事がないかららしい。そう言えば書いてて思い出したけど和泊と知名では知名の方が若い姉ちゃんの居る店が多いそうな。知名の方が自衛隊とか電力会社とかがあって単身赴任な人が多いとの事。ちなみに沖縄とか本土あたりからサーフィンやら潜りにやらで長期滞在している娘が働いている例が多いとか。島の娘はそう言うところじゃ働かないんだって。やっぱり地元の目が厳しいらしい。さてこれは居酒屋で聞いた話なのか、スナックで聞いた話なのか。

 そろそろお開きとなる。今度は払おうとしたけど出張さんが全額払ってくれる。何時の間にか、明日どうせ暇だから一日付き合ってくれるなんて話になっている。その打ち合わせで最初の居酒屋へ逆戻り。店はまだ灯りが点いててお客さんが居ると思ったら下の娘さんだって。再び焼酎に手を出し明日の打ち合わせ。午前の便を撮ったら電話頂戴と言うことになって携帯の番号をやり取り。どうやら0時半過ぎらしい。好意に甘えてばかりいるけどどうしたものなのか。
 
 ホテルの部屋に戻ると1時を過ぎている。お湯の出る時間が1時までと6時からになっている事を思い出した。風呂は明日の朝だな。ベットに倒れこむように就寝。